赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 6話から10話まで
こちらをチラリと見た白猫が、次の瞬間、フンと背中を向ける。
そのままスタスタと歩き去っていく。
(あ・・・行くなよ!。やっと夢の中で会えたというのに!)
ブツブツつぶやいているたまの頭上から
『なに寝ぼけてんのさ、あんた』と白い小猫の声が舞いおりてくる。
『え?』寝ぼけ眼(まなこ)のたまの顏を、白い子猫が覗き込む。
『あたしの名前は、ミイシャ。
あの子の遊び相手として、やってきたの。
誘われていたのはわかっていたけど、あの子が眠るまでそばを離れるわけには
いかないの』
『おいらの名前は、たま。
ご主人は、現役芸妓の春奴お母さんさ。あれ・・・・
君はいつのまに、ここへやって来たの?』
『下の道でニャあと鳴いて、おねだりしたの。あなたの2番目のご主人様にね。
そしたら私を抱っこして、この2階まで連れてきてくれたわ。
あなたの2番目のご主人は、絵巻行列で、未通女(おぼこ)だけに許された、
巫女の大役を務めるそうです。
本人は、とことん疲れきっています。
良い気持ちで、さきほどから、そこで寝ております・・・・うふふ』
なるほど。
たまが振り返るとそこに、白衣に緋袴の巫女衣装の清子が、
巫女鈴を握りしめたまま、大の字に転がっている。
よほどて疲れ果てたのか、白衣の襟から鮮やかな赤い掛襟をのぞかせたまま、
喉をゆるやかに上下させて、クウクウと眠りこけている。
『ありゃあ・・・
よりによって舞いを一番苦手にしている清子が、巫女に扮して、
神楽舞を担当するのかよ・・・・
誰が考えても無茶だろう。
不器用すぎる清子が稽古に疲れ果てて、爆睡に落ちるのも当たり前だ。
見る目がないなぁ、祭りの役員連中も。
見た目だけで配役を決めるからこんなことになるんだ。
平家祭りの責任者たちは、どいつもこいつも、真実を見抜く目がないなぁ、
まったくもって』
(10)へ、つづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 6話から10話まで 作家名:落合順平