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K4

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 何にと聞く前に答えて、勝手にエモーションが出るなら今占い屋さんはじとりと汗が垂れただろう。嬉しいです楽しみにしていてくださいと喜びまわる郵便屋さんを尻目に、何になのか、御呼ばれの意図だとか、そういう疑問がぐるぐるとしていた。ふさが自分から誘ってくるのはこれが二回目だろうか。
 一度目は初めてふさ個人をはっきりと認識した日。帰りが近くの駅ですとだけ告げられて、明らかに言葉足らずなコミュニケートに一緒に帰りたいと言う事だと一人ながら考える事にして、自分の帰路とは全然違う方向だったけど、控えめな相槌しかしないふさと長く感じる帰り道を行く。初対面で、ふさの人柄も口下手だ程度の印象しかなくて、流石に自分から誘うなら一つ二つ帰り道に話題でもあるだろうと思っていた自分が甘かった。それはあまり良い思い出とは言い難い。
 とはいえその間に私からは何度も遊ぶなり帰りなり誘ったのだから、流石に今回はマシになっていると騙まし込む事にする。あの時みたいな行きがけという訳ではなく、何時と何は彼女の中ではっきりしているのだから、大丈夫だろう。自分ばかり話す事になって話題がもたなくても、行き先がイマイチ理解出来なくても、今ならそれ程気をもむ事はなさそう。

 晴れて良かったと月並みな天気への感想から、外出の支度を始める。
 昨日言葉を引き出すのに苦労した末、力尽きて寝てしまったメールの返信は「行きます」との事。結局舞い上がりっぱなしだった郵便屋さんではまともに会話も出来ず、帰りがずれたのでメールで待ち合わせ場所と時間、最低限約束を取り付けるのに必要そうな事だけ聞いて、後は多分ふさは恥ずかしくて気が気ではなさそうだったのでそれ以上は聞かなかった。
「う~ん」
 とひとしきり唸って、ふさ相手に気合を入れるのは少し変に感じるものの、1時間余分に身支度に時間をあてる。ふさもこういう時はそれなりの身繕いをしているだろうか? 何時もの芋っぽい服ではなくて、少しは女の子らしい格好とか、ネイル塗ったりしてたり。
「うーん……」
 想像が出来ない。郵便屋さんみたいな見た目が頭に浮かんでくるだけだった。流石に手ぶらかコンビニ袋ぶら下げてるとかはないだろう。でもハンドバッグなんて普段から使ってないし、リュックを背負っていてももう考えてしまったから驚かない。髪は結んでるかな。あんなにざんばらな髪で綺麗に結ぶのも難しいだろうし、飾り気の無いゴムでくくった程度も有り得る。そんなに気にしてるんだ、と止まった手と、動き続けていた時計とを見比べて思った。時間とっておいて良かった。

 女の子らしいイベントとまではいかなくても、彼女の趣味か何かに付き合って、その辺のお店で食事して、頑張って会話するくらいは出来ると思ってたんだけど。
 待ち合わせ場所には少し早めに向かったけどふさももう居た。割と常識的な身繕いをしていた事に暫し驚いた。でも地味だ。ネイルもしてない。靴は普段履きより綺麗だけどスニーカーだし、髪もただのゴムではなかったけど後ろでひとくくりにしてるだけ。服も暗色ばっかり。俯きがちで判り辛いけど、化粧してるのは判った。何処かの部分くらいは褒めるべきかと少し悩んで、今日一日使いようが無くなるくらいなら後で言えば良いかと近くの駅へと歩みを進める事にした。

 目的地は想像の斜め……下でも上でもどちらともなく、丁度斜めを貫く謎の目的地。ごうごうと風の流れが喧しくて、オレンジ色の光源が世話しなく動き回る。そして熱い。
「えーっと、ガラス?」
 こくりと頷いて、ふさは奥へ進む。どう見ても作業場何だけど、着いて行っていいものなのか……。等間隔に炉が並べられていて、人が前に居る場所は煌々と燃え滾っている。その中に突っ込まれた棒を抜き出すと、練り飴のような状態のガラスが引っ付いていて、それに手早く菜箸のような物を当てていたり、直接鉄板につけて回していたり。熱されたガラスに別の色のガラスを垂れ流してぐるぐるしてイメージ通りの作業をしている人も居る。粉々になったガラスの破片が詰まった箱は複雑に光を反射していて真っ白に見える。燃え盛る炉の音圧と、時折聞こえるとても軽いガラスの割れる音。
 まあまあ、見回して面白い景色ではあるけど、突っ立っているのは限界に思うと、野暮ったい作業用エプロンをしてふさが戻ってきた。こっちの方が似合ってるように見えるのが何とも言えない。こんな失礼な感想を抱いているのも勿論言えない。カチューシャもしておでこ丸出しになっている。確かにあのままの前髪だと燃えかねない。つけましてるのが判った。
 いくつか小さな鉄の棒とガラス片を握り締めていて、こんな子にあのどでかい棒とガラスが扱えるのかと思っていたけどもっとミニマムな作業に挑むみたいだった。端の方の作業台に二台のバーナーが設置してあって、その周りに物を置くと何を言うでもなく作業を始めてしまった。どれくらい時間かかるのか知らないけど作業を眺める事になるのか、私に何かしろと言うのか。
「ふさちゃんが友達つれてくるの、びっくりしたよ」
 ぼけーっとしていた私が不憫に思ったのか、炉の方で作業していた人が話しかけてくれた。外でもそういう風なのかと安心してしまう。
「ガラス細工っていうんですかね、これ」
「そうだね。バーナーワークって言うんだけど」
「なるほど」
 話しているうちに、ふさの手元では切り分けたガラス片を熱して複雑に絡み合わせている。熱をもっていると変色していて光量も強いので何を作っているのかはまるで想像出来ない。
「よく来るんですか? あの子」
 かなり、気になる。連れて来てこなれた手付きで作業する辺り、趣味でいくらかしている事だろうとは予想出来る。
「休みの日は来てるってくらいかな? あまり話をしないけど、ここで始めてバーナーワーク触ったみたいで、気に入ってるみたいだね」
 あまり、というのは彼なりの心遣いなのは間違いない。ふさが連れてきた自分だから当然それなりに彼女の事を知ってるとは考えているだろうし、何より言い淀んで苦笑いしていた。暇かも知れないけどゆっくりして行ってねと相変わらず気まずそうな笑みで戻っていった。ふさの方に視線を戻すと、良く判らない軟体を棒で弄繰り回していた。集中出来ているのは何よりだけれど、連れてきた手前もうちょっと気を回してくれても良いんじゃないだろうか。難しいか。内気だし恥ずかしがり屋だし、趣味を明かしてくれただけでも大進歩なんだろう。自分が物作ってるのとか普通見られるの恥ずかしがると思うんだけど、そうじゃない辺り変な所もずれてるのかなあ……。あ、汗かいてる姿珍しいとか、そりゃあこんな作業するなら爪を弄る訳にもいかないし。服も熱したガラスが飛んだりするなら穴開くし良い物着るのも憚られる。没頭してて構う訳にもいかないから作業を見ているしかなかった。
作品名:K4 作家名:レオナ