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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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あなたが残した愛の音。

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「もう、おなかいっぱい」
「肉もデザートもよく食べたな。こんな遠慮しないヤツ初めて見たよ」
 部下の女性は、せっかく気合を入れて来たのに、拍子抜けしてしまったことに、博之は気付いていなかった。

「ヤケ食いってヤツですよ」
「何を妬いてだよ」
「誕生日に食事に誘われたと思ったら、お気に入りの娘に会いに来たのに付き合わされりゃ、ヤケにもなりますって」
「そんなつもり、なかったんだけどな。昔から、誕生日を一人で過ごす女性を、放っておけない性格でね」
「じゃまた今度は、次長のピアノでも聴かせてくださいね。得意な曲とかあります?」
「うん。1曲だけね」
博之は空中に指を伸ばして、ピアノを弾くイメージをした。


「ありがとうございました」
 カードで支払いを済ませ、博之たちは店を出た。笑顔でシャキっとお辞儀をしている童顔のウェイターを、部下の女性は、何度も振り返って見ていた。

 いつものとおり、愛音はエレベーターホールまで、見送りに来た。
「じゃ愛音、来週の土曜、先生の三回忌。僕はお墓に直接行くから」
「うん。11時頃でいいよ」

 エレベーターが開いて、二人が乗り込む前に、愛音は博之にハグした。それを見て部下の女性は、大きく目を見開いた。
「じゃパパ、またね」
降下するエレベーターの中で、
「ホントに仲いいですね。やっぱり怪しいですよ。絶対」
「あははは。“パパ”だから」
「本当の父親とは、ハグなんかしませんよ」