あなたが残した愛の音。
エピローグ
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夕焼けの太陽が山際にかかり、病室の壁がオレンジ色に染まる頃、愛音と秋日子が戻ってきた。
「きゃーははは」
秋日子は買い物袋を持って、嬉しそうに愛音に抱っこされている。
「ああ。そんなことしたら、お姉ちゃんが重たいだろう」
「お姉ちゃんが、抱っこしてくれるって、言ったんだもん」
そして秋日子が、部屋中に漂うカサブランカの香りに気付き、鼻を高く突き出して匂いのもとを探すと、ひとみはそれを見て楽しそうに笑った。
博之は、愛音に微笑み、秋日子から買い物袋を受け取った。それからも秋日子は、椅子に座る愛音の膝の上に、抱っこされたまま過ごした。
「先生。今日はもう一つ、見せたい物があるんです」
そう言うと博之が、ベッドの上に大きなバッグを持ち上げて、中からあるものを取り出した。
夕日に照らされたそれを見て、愛音は思わず息を呑んだ。
そしてひとみは、恐るおそる両手を伸ばした。無くした過去に再び巡り逢えた気がして、まるでシャボン玉を掴まえる時のように、そうっと。
「覚えていますか?」
「あぁ・・・。もちろん覚えているわ」
『103』
ひとみは、薄れかかった数字を見つめて、再び目に涙を浮かべた。
そうして、その“103”(ヒトミ)ボールを、ベッドの上で、いつまでも抱きしめていた。
終
あとがき
BGMには『別れの曲』を。。。
本作を、あの日の先生に捧げます。
作品名:あなたが残した愛の音。 作家名:亨利(ヘンリー)