あなたが残した愛の音。
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アパートのキッチンのテーブルで、二人は紅茶を飲みながらクッキーを食べ、プレゼントの花のチャームを見ながら話をした。そして、ひとみ先生は立ち上がり、壁にかけてあったコルクボードにポスターピンで、そのチャームを留めて飾った。
「木田君、何でもできるから、モテモテなのよく分かるわ」
「そんなふうには思ってないです」
「うふ、まだ彼女できないの?」
「うん。先生のことが、一番好きだから」
博之はいつもの通りこう答えたが、学校とは違うシチュエーションに気付き、思わず緊張が走った。
「私とキスしたい?」
「え?」
ひとみは、椅子に腰掛ける博之の手を引いて立たせた。そして、背の高い博之を見上げて、その体に触れることなく、ゆっくりと唇を寄せた。博之は目を開けたまま、両腕をまっすぐに硬直させて、そのキスを受けた。
「私も、木田君のことが好きよ」
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少しの沈黙の後、
「先生からこのことを聞いたんですか?」
「はい。それからのことも・・・。でもそれは、私が大人になってもずっと、話してくれなかったことです。つい最近まで・・・」
「そうでしたか。でもどうして、そんな話を娘のあなたに」
「・・・・・・ああ。どうしよう」
愛音は、両手でこめかみを押さえて、うつむいて考えた。
「どういうことですか・・・?」
「母が絶対に、誰にも、言えなかったことです」
「まさか」
「・・・あなたが、・・・私のお父さんです」
作品名:あなたが残した愛の音。 作家名:亨利(ヘンリー)