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ひこうき雲

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 これらの動作を図に表すと分かりやすいかもしれない。左から右へ一本の線を引く、これをゼロのラインとして、そのラインの上5cmぐらいのところに+100Vと添え字をした点線を左から右へゼロのラインと平行に描く。同様にゼロのラインから下5cmくらいのところに-100Vと添え字した点線をゼロのラインと平行に引いておく。そこに先ほどの動きを描いていくと、ゼロから上に徐々に線を描いていき+100Vの点線に来たら今度は-100Vの点線を目指して徐々に線を描いていく。-100Vに到達したら今度は+100Vを目指して上に線を描いていく。これを繰り返すと、ゼロ→+100V→ゼロ→-100V→ゼロ→+100V→ゼロ→-100V→ゼロ・・・の波になる。これを丸みを帯びて描けば「正弦波」直線で描けば「三角波」となる。ちなみに家庭のコンセントつまり交流(AC)100Vは、正弦波だ。もっともこの場合は+100V、-100Vではなく+141V、-141Vとなる。これを平均(正確には二乗して平均をとる「二乗平均」)してみると約100Vになるという意味で交流(AC)100Vと呼んでいるわけだ。
 ということで、身の回りには2種類の電気があるわけで、人間はこれらをうまく使いこなさなければならない。
 あ、そうそう、なんでそんなことになるのかってことだが、直流(DC)は乾電池やバッテリーを起源だと考えれば分かりやすいと思うが、問題は交流(AC)だ。これは少々ややこしい。発電所を思い浮かべて欲しいのだが、発電所はどうやって電気を使っているか?が大きなヒントになる。まずは、水力発電所、コイツは大きな水車に水を当てている。火力発電所や原子力発電所は、大雑把に言えば熱した水の水蒸気をタービンに当てている。要するに水や水蒸気で水車やタービンを「回転」させているのだ。この回転の力によって発電機を回す。発電機の原理は、磁力線(磁石でいえばのN極からS極に向かう見えない線)を導体(電線の類)が横切ることによって発生する「電磁誘導」によって電気を発生させる。1回磁力線を横切る際になるべく沢山電気を得られるように回転する部分に導体を何度も巻きつけている。これが「コイル」だ。
回りに人がいないことを確認してほしい。そしたら指を真っ直ぐにして手のひらを自分の前に突き出してみよう。
なんで人がいないか確認するのかって?そりゃあ恥ずかしいからだろう。
それぞれの指が導体指の集まった手がコイルだ。突き出した手の左側に大きな大きなN極の磁石、右側に大きなS極の磁石があると想像してくれ。磁力線はN極からS極に向かうから、突き出した君の手の左から右に磁力線があることになる。突き出した手をそのまま回してみて欲しい。途中までしか回らず君は苦悶の表情をしていることだろう。だから人がいないところでやるんだ。こんな状態他の人から見たら絶対に「変な人」だ。
さて、ここで気づいて欲しいのは手を回していくと磁力線と指が動いていく方向の角度が刻一刻と変わっていくことだ。ん?これ以上回らない?そりゃあ人間だから仕方がない。回るところまでで結構だ。
この指が動いていく方向が磁力線を横切る。ということであって、この横切る時の磁力線と指の角度によって指に発生する電力の大きさが異なるんだ。直角だと最大。平行だとゼロだ。
だから一般の交流電力はゼロからだんだん増えていって最大になったらだんだん減っていってゼロを下回って最小になったらゼロに向かってだんだん増えていく。ということの繰り返しになる。交流の電力は波線のようになる。ちなみに正弦波というんだ。もう手は引っ込めていいよ。
昼下がりの会議室で、目の前でこれ以上捻れない手を体ごと捻ることでもっと捻ろうとしている細い指先が滑稽だった。
「あ、はい。すみません。」
我に返ったように手を引っ込めた女は背筋を正し、華奢な指先で前髪を軽く整えた後、そそくさとペンを握り、手帳になにやら書き込んでいる。営業畑の人間が押し並べて愛用しているポケットサイズの手帳、ご多分に漏れず目の前の新人も 小さな手帳に書き込んでいる。そのページにはホワイトボードに殴るように書き付けた俺の字や、図が100倍綺麗になって再生されていた。
そうはいっても小さすぎる、営業は身に付けられてすぐに取り出せるポケットサイズの実戦的な手帳が主流だ、だが、いくら営業だからって勉強のことまで、小さな手帳はどうかなと思う、カレンダーのオマケのうように巻末に付いたメモ欄なんて、すぐになくなってしまう。
「ハムちゃん、、、こういうお勉強は大きいノートに書いた方がいいんじゃないか?」
日頃思っていたことが、誰もいない会議室で自然と口を突く。女性社員と二人きり、、、職場だとなにかと噂になる、という歳は、とっくに過ぎている。それもある、が、そもそも営業向きとも思える本人の屈託のなさが、気軽さを振り撒いているが、そのノリに職場で乗せられ過ぎる訳にはいかない。意識的に厳しく接している部下の鳥井の前では尚更(なおさら)だ。

この営業部が送り込んだ新人女性社員、大田公子、公子の「公」がカタカナの「ハ」の下に「ム」が付くから「ハムちゃん」と呼んでくれと、自己紹介で自ら披露したことが功を成し、誰かが「ハム」という組見合わせに気づいて陰で使われることなく、明るくニックネームは広がっていった。
「あいつは、ハムちゃんというよりは、牛だよな~。あの胸、吸い込まれそう。」
「でも、顔がカワイイからいいじゃん。」
「ロリだな~。お前は、カワイイことは間違いないが、ありゃ女子高生って顔だぜ。化粧くらいバッチリすりゃあ少しは大人びるんだが」
「そ~なんだよ。そこ、勿体ないよな、でもあの顔と体のギャップが萌えるな~。」
「お前は二次元大好きだもんな。ロリ顔に巨乳。嫁さんいるんだから、変な気起こすなよ。」
なんてやり取りは、公子が帰った後の残業時間、彼ら曰く「男の世界」でよく交わされるジョークネタだ。
 そんな事も、「ハムちゃん。」という自ら撒いたニックネームが男たちに変な気を起させない抑止力になっているとも言える。
 
 えっ?俺を見上げる公子の顔が一瞬の驚きを表す。
「な~んだ。主任、ハムちゃん、、、ってタメを効かせないで下さいよ。ドキッとしちゃいました。」
 見開いていた大きな二重瞼が笑顔に合わせて緩む。その言い草に一瞬だけ俺の心が弾む、懐かしい感覚を俺はかなぐり捨てる。今となっては妻にさえ見向きもされない哀れな中年男。。。脆さを見せる訳にはいかない。
「バカっ、ガキのくせに中年をからかうな。営業はどうか知らんが男ばかりの職場で親父連中に勘違いされると面倒だぞ。あ、違った。その手帳。営業回りでは便利だろうが、勉強はノートとかルーズリーフがいいんじゃないか?あるいはバインダー式のシステム手帳。後でどうにでもなるからな。
 その小さい手帳のメモ欄を工場実習の勉強でいっぱいにしちまったら、お前が営業回りを始めた時に、何処にメモるんだ?おいっ、この小言はメモる必要ないぞ。」
作品名:ひこうき雲 作家名:篠塚飛樹