ひこうき雲
吐き捨てるように諸岩のフルネームを言った鳥井の声が、承認者の部分で緩む。俺の承認じゃなくて安心したらしい。
俺を信じてくれてありがとう。
それにしても諸岩だとっ、三谷さんもとんだ節穴だ。アレンジで製品に出来るもんじゃない。そもそも三谷さんにどういう説明したんだ?
始業のチャイムが右の耳に入り込んでくる。左の耳からは受話器を通して、鳥井の職場のチャイムが
滲む。そこに「戻らなきゃ」といった類の言葉が異口同音に散らばる。鳥井の電話を傍で聞いていた連中が大勢いたらしい。
「情報ありがとう。時間だから、また、経緯を調べて午前中には電話する。」
鳥井の返事を聴き終えてから丁寧に受話器を戻す。開発の頃ならぶん投げていたところだ。開発の受話器の殆どがガムテープ巻きなのは、そういうストレスフルな事態の多さを物語っている。
俺も大人になったもんだ。だが、どこまで大人で居られるだろうか。
朝礼、全員起立して部長の話に向き合う。内容など耳に入ってこない俺は、奴を、諸岩に一瞥をくれる。部長に注目する訳でもなく透かした表情で姿勢を崩した諸岩の態度にずっと堪えてきたものが込み上げてくるのを感じた。久々の感覚。
どこまで大人で居られるだろうか。
潰すのは簡単だ。だが相手は部下だ。育てるんだ。
考えろ、効果的な事を。
俺は怒りと対峙する自分に唱え続けた。