尖閣~防人の末裔たち
「やあ古川さん、遠いところを御苦労様です。迎えもやらずにすみませんでしたね。こちらもいろいろと飛び回っていて、なかなか直接お会いできずで失礼しました。」
全く昔の階級を感じさせない穏やかだが思いやりを感じる口調に、指揮官としてこの笑顔と口調で多くの部下の心を掌握してきた貫禄を古川は改めて感じた。やはり今でも筋金入りのというよりは「人間河田」との異名も持つ指揮官の面影は健在だ。
「いやいや、先生はお忙しいでしょうから、お気になさらないでください。私は一度決まったことを何度も打合せるのは性に合わないですし。あ、でも田原さんのサポートには感謝しているんですよ。今回はお見えですか?」
古川は愛想笑いを浮かべて手を顔の前で軽く左右に振りながら応えた。
「いえいえ、彼は体を壊しているので船には乗れんのですよ。今は連絡担当をしてもらってます。」
残念そうに応える表情から、古川は、田原がただの風邪などではないことを感じ取っていた。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹