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尖閣~防人の末裔たち

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「と、とんでもない。私たちはヤクザじゃないですからね。ま、そういうことは、今やヤクザじゃなくてもやるでしょうけどね。恐ろしい世の中です。」
慌てた口調で返す。古川は(否定はしないんだな。。。)と警戒を強めた。
「ま、安心してください。引き受けて頂けるまでは、聞かれて困る情報は開示しません。ですから、これから行う私の説明で気になる点があれば、随時質問してください。応えられる範囲でお答えします。もちろん引き受けて下さった後は、隠すことなく何でも開示しますよ。」
と、田原は後を継いで言った。
「分かりました。では、お願いします。」
古川は、ソファーに多少深く座りなおして田原に軽く会釈しながら、話を促した。
田原は軽く頷いてから、背筋を伸ばし、静かに語りだした。
「私どもの素性も明らかにせず、ここでこうしてお話をさせて頂いていることの無礼はお許しください。我々は、国際問題、国防問題を広く国民の皆さんに訴え、そして世論を変えて日本を真の主権国家にしていきたいと考えている団体であることを念頭にして、お話をお聞きいただければ、と思います。」
古川は、軽く頷いた。田原は続ける。
「戦後日本は、朝鮮戦争特需、高度経済成長で、一気にアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国になった。その努力する国民の力は信じられないほどの強さを持っていたといえます。しかし、戦後復興のもと焼け野原から這い上がってきた日本は、何かをないがしろにして成長してしまった。それは、平和です。「何を言うのか、平和はないがしろになっていない。現に戦後70年、日本はずっと平和だったじゃないか。」と皆さんおっしゃるでしょうね。でも実際にそうでしょうか?太平洋戦争で多くの犠牲を出し、そして犠牲を与えた日本が、世界に例を見ない平和憲法である憲法9条を築きました。この平和憲法によって平和を宣言し、平和を維持してきた。平和を享受しながら経済成長を遂げ、経済大国になることができた。と多くの国民は思うでしょう。それはある意味正しい。自分たちの平和憲法を誇りとし、平和運動を行っている市民団体も沢山ある。平和憲法は平和を愛する国民に誇りと自信を与えているといえるでしょう。しかし、国として政治としてはこの約70年の長きに渡り、何をやってきたでしょうか?曖昧にしてきただけじゃないか?国防については、ずっと凍結されてきた。と我々は考えています。
 各国が軍を持っている、そして国境がある以上、国防の手段が必要になります。「我々は憲法で戦争を放棄しているから、戦争はしないよ。」は、通用しませんよね。相手は、国防・侵略のために軍隊を維持している訳ですから、戦争をするために軍隊を持っているのですから、侵略をためらう筈がありません。強力な同盟国など、いざというときに守ってくれる強力な後ろ盾がないと、為すすべもなくあっという間に蹂躙されてしまいます。この矛盾に気付いたアメリカは、戦後ほどなくして勃発した朝鮮戦争で、日本の防衛どころではなくなったアメリカの要望により、警察予備隊が発足しました。兵器はアメリカの供与品。戦後数年で、かつての敵の兵器を操る気持ちは複雑だったでしょうね。ま、ともかく、ここですでに歪が発生しています。彼らを軍隊として位置づけをしなかったということです。アメリカから供与された戦車を「特車」と呼ぶくらいですからね。
 そしてそれが、歪んだままの位置付けのまま保安隊となり、自衛隊となりました。後に、戦闘機、戦車などというようになったのは、周知の通りです。あ、その辺は古川さんの方がお詳しいですよね。
 そして、自衛隊は保有兵器の数こそ少ないものの、日本の経済成長に合わせて新鋭の兵器を導入してきました。歪んだ位置付けのままに。。。こうして、平和憲法を守るための平和運動。その市民運動によって、平和憲法に対する国民の思いは強いが、国を守ることに関しては、戦後70年の空白があるということです。これは、言わば平和ボケした日本人と「ひとくくり」にしては何の解決にもならないということです。平和憲法を守るのは大事だが、それ以上にその平和憲法の国を守る力の大切さを理解して欲しい。あの永世中立国スイスだって軍隊を保有しています。いざというときは自分達の力で中立を守らなければならないからです。それと同様に日本も自分たちの力で平和を守らなければならないのです。戦後70年は、平和だったのではなく、単に日本を侵略したい。という国が無かっただけの話です。
 私たちは、国民に平和と国防の大切さを訴えたい。そして真の自立ぁ?平和国家となってほしい。そういう時期にさしかかっていると思います。なぜなら冷戦後は平和になったと見られていますが、冷戦時代のほう日米安保は明確でした。西側か、東側かの2つしかない。西側の最前線である極東の日本が危機に陥れば、アメリカが必ず守りに来る。なぜなら、西側の拠点が少なくなるからです。それなのに今はどうでしょうか?西側・東側ではなく、日本、アメリカ、中国、ロシアなどなど、それぞれの国と国です。国益が安全保障を上回っていることが多くなってきたと思いませんか?」
田原が問いかけてきた。
「アメリカと中国、ですね。」
古川は、落胆気味に応える。まだ、冷戦時代のほうがハッキリしていたのかもしれない。少なくともアメリカが中国に媚びる必要は無かったはずだ。
 それを受けて田原も深くため息を吐きながら続けた。
「そうですね。特に中国は、冷戦、いや、それより数年前の市場開放によって、経済的に西側諸国とのつながりが強くなった。そのしたたかさで中国は、世界の工場、そして世界の消費地として西側諸国にはなくてはならない存在となってきた。そして、自らも西側諸国の技術を学び、延びてきたのも事実です。その中国が、先ほど古川さんがおっしゃったように、海洋国家を目指して拡大している。アメリカがあの状態で、中国の暴走は止まりません。どうやって日本は自らの領土を守るのか?日本政府は国民に、そして国際社会に今こそ示さなければ取り返しがつかなくなる。今回私たちは、そこに目をつけました。」
 田原が一旦言葉を止めた。
すると反射的に古川が割り込む。
「活動というのは。。。尖閣?」
かみ締めるように古川が発する。
 田原は大きく頷いた。
「そうなんです。我々は尖閣へ行きます。日本人として、中国に既成事実を作られる前に!」
田原は、語気を強めてそう宣言した。
「尖閣へ、、、私も同行しろ、ということですね。まさか上陸するわけじゃあないですよね?」
古川は、喉がカラカラになるのを感じながら、平常心を保つよう自分に言い聞かせながら田原に聞く。古川の脳裏に中国、香港、台湾の活動家が、尖閣に上陸して中国、台湾の国旗をかの地にはためかせた時の新聞記事が浮かぶ。日本人があんなことをしたら即、中国軍に叩きのめされるであろう。たとえ民間人であったとしても。。。
田原は、古川が怯えた表情を見せたのを見逃さなかった。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹