尖閣~防人の末裔たち
石岡駅は、古い駅舎のままで、最近流行の改札がホームの上の階にあるいわゆる-橋上駅舎-ではない。駅舎の入り口から真っ直ぐに改札を抜けるとそこが下り1番線のホームだった。電子マネーをタッチして改札を抜けてチラっと駅の外を見ると、まだ美由紀の車が止まっていた。そのまま昇護は駅のホームを所在無げに歩き回っていた。昔、石岡のお祭りに行くのに祖父母の家から乗ってきた鹿島鉄道のホームも車庫も事務所も一切が撤去されて既に面影は無かった。今はJRの常磐線しか通っていない。ホームの上り方に置いてある獅子頭を見つめた後、ベンチに座って今日の出来事に思いを巡らせていると、列車が来ると自動放送が告げた。
間もなく到着した普通列車に乗り込む。高萩行きの10両編成の電車だ。昇護は最後尾の1号車に乗り込んだ。椅子は空いていたが、ドア横の手すり握って立つ、ドアが閉まると呆然とドアの窓からホーム側を見ていた。電車がゆっくりと走り出す。とさっきくぐった改札が目の前に見えてくる。昇護は、咄嗟に改札の先に見える駅の外を見た。いた。まだいた。美由紀のNBOXが。ふと手前の視界に動くものを感じ、改札を見る。改札の外で美由紀がなりふり構わずに手を振っていた。昇護は驚いて手を振り返した。美由紀は気づいてくれたようだったが、加速して行く電車に一瞬で視界から消え去って行った。昇護の目からはいつの間にか一筋の涙が流れ落ちていた。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹