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尖閣~防人の末裔たち

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 その島に上陸した我々を、中国は、中国領土への侵入者として排除すると明言して向かってきています。確かに我々は完全に武装しています。ですが中国とは全く関係のない話ではないでしょうか?私が犯しているのは日本の法律であり、中国の法律ではありません。繰り返しますが、ここは日本の領土であって中国の領土ではない。つまり、私は日本の法律に基づく対応をされるのが当然であって、中国は関係ない。今朝ほど職務に忠実な海上保安庁の特殊部隊の諸君でも我々を逮捕することが出来ないことを証明して見せました。そもそも海の警察とも言うべき海上保安庁で対処できない重武装集団の我々には、自衛隊を派遣して対処すべきなのではないでしょうか?なぜそれをしない?
 さらに、我々を、つまり、犯罪者とはいえ、日本の領土であるこの島にいる日本人を排除するために領海侵犯をしている艦隊に対して、なぜ政府は毅然とした対応をしないのか?軍艦の領海内の航行は、無害通行権としては認められています。しかし、領土を攻撃するために領海を侵犯しているこの中国艦隊に無害通行権は該当しません。
 これは明らかに侵略行為なのです。なのに何故日本は、日本国政府は毅然とした対応を出来ないのでしょうか?
 経済的に中国への依存度が高いからでしょうか?確かにそれも一理あるでしょう。資源に食料の輸入、そして製品や農作物の輸出そして中国に進出している多数の企業。。。首根っこを掴まれていると言っても過言ではありません。
 でもそれは領土を守ることとは別次元の話ではないでしょうか?数年前に、この国は、巡視船に体当たりした中国漁船の船長を逮捕したのにも関わらず報復を恐れて釈放しました。これが法治国家のすることでしょうか?独立国家としてあるべき姿なのでしょうか?
 領土とは何なのでしょうか?それは財産であり、国家の歴史でもあります。祖先が命を賭けて守り抜いてきた領土。そこで暮らし、恩恵を受けて生命を育んで来た祖先があって今の私たちが存在しているのではないでしょうか?
 遥かな昔、防人として遠路各地から辺境防衛のために集まり、3年の長きに渡って国防の任に就いた祖先達に始まり、幕末には圧倒的な欧米列強の力を見せつけられながらも、この国の存続のために奮闘した人々、アジア、アフリカだけでなく世界中を植民地支配しようとする欧米列強の帝国主義と常に対峙し続けてきた日本を支えた人々。そして、太平洋戦争では、自らの命をも兵器とした特攻攻撃まで行われました。
 特攻は志願制であったと言われてはおりますが、果たしてあの状況下でどこまでが志願でどこからが強制か、それはその場に居合わせた人間にしか分からないことかもしれません。いずれにしても、その時代背景から、実に様々な想いがあったことと思います。
 出撃したら最後、行きて帰ることの出来ない特攻。そうまでしなければ米軍を食い止めることができない、いや、既に日本は負けると分かっていた人も多かったことでしょう。
 なぜ、何のために彼らは自らの命を捧げたのでしょうか。国のため、家族のため、未来のため。。。自分の死を意味あるものにしたい、未来に日本という国を、家族に日本という国を残したい。欧米の植民地にはさせない。私は、彼らがそう思って散っていったのだと思えてならないのです。。。-

「あ、そういえば婆ちゃんの兄貴が特攻隊だったっけ。」
 いつの間にか最前列の空いた席に陣取り直したダイバーらしいグループの若者が昨日見たテレビ番組の話のように他人事な口調で言う、周囲の席が搭乗客で埋まってきたので、やっと声を潜めたようだ。
「お前にその人の血が少しでも流れてりゃもっとマシな人間になってただろうな。そのおじさん、どこで突っ込んだんだ」
 興味深げに聞言葉を返すリーダー格の男の低い声が美由紀の耳に響く。
「確か、ガキの頃、墓石を見たとき、昭和20年6月南西諸島方面にて戦死、、、とかお墓に書いてあったっす。そんな場所もあるんだな~って、へ~って思って、他のお墓を見ると、ビルマとか、フィリピンとか書いてあって、なんだ、婆ちゃんの兄貴って、案外近場で死んだんだな~、しかも、戦争って8月で終わったんすよね?惜しかったな、ってガキなりに思ったんすよ。」
 言葉遣いはともかく、しみじみとした口調で若い声が答える。
「お前、潜る前に花とか酒とか海に撒いたか?」
 溜息混じりに低い声が諭すように語りかける。
「へっ?」
「ったく。興味持ったなら調べとけよ。だからお前はいっつも中途半端なんだよ。。。
南西諸島ってのはな、、、沖縄を込みでこの辺の島をまとめて南西諸島っていうんだよ。お前は、、、お前の親戚が命に代えて守ろうとした海で、思いっきり遊んでたって訳だ。。。
いや、、、わりぃ。。。お前だけじゃない、俺たちは、お前の親戚みたいに命を賭けて守った人が沢山いる海で、何にも考えず、遊んでいたってことだな。普段だって自分たちのことだけしか考えてない。未来に残す何かなんて。。。考えてない。。。」
 私もそうだ。。。
 聞くつもりはなかったが、耳に入ってくる彼らの会話に自然と耳を奪われていた美由紀は、俯いたまましばらく自問自答していた。生徒のために、と常に思っているつもりだが、それは、自分が受け持っている生徒をルールという枠に従わせることで、安全で問題を起こさず平穏に学校生活を送ってほしい。というのが根底にあるだけなのではないか。常にこの基準に照らし合わせて判断してはいないだろうか。。。 

 再び静まりかえったロビーに響くテレビの声が美由紀を引き戻す。初老の紳士は、背筋を伸ばし、諭すような、穏やかな表情で語りかけるように話を続けていた。

-。。。戦後、連合軍の占領下を経て、再び独立する事が出来た我が国は、平和国家を標榜する世界に例をみない国家として歩んできました。 今はもう昔のことのように忘れ去られようとしていますが、あの東西に世界を二分した冷戦の時代でさえ、西側の最前線にあったのにもかかわらず、この日本は戦争を起こすことなく平和国家であり続けることができました。
 しかし、よく考えてみてください。冷戦は、南米やアフリカ各地で米ソの代理戦争とも言われる紛争を繰り返し発生させてきましたが、それは、政情が不安定な地域に武器を提供することで米ソがその勢力を広げようとした結果であり、政情が安定している我が国には当てはまらない。一触即発とはいえ、米ソが直接戦闘になれば、それは即ち核戦争に繋がる。それが世界の終わりを意味することを暗黙の了解として知っていた両国は、代理戦争という形で勢力を広げるしか方法は無かったのかもしれません。そんな冷戦時代の中の日本は、率直に申し上げれば、在日米軍基地があるために極東とも呼ばれた最も危険な位置に存在しながらも戦争とは無縁でいられたのだと私は考えています。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹