小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

尖閣~防人の末裔たち

INDEX|200ページ/214ページ|

次のページ前のページ
 

 銃を持った根本に近付く者はいない。が、先程までの覇気の消えた根本は周りを銃で威圧するような事もない。志半ばの男、志が後輩達に伝わらなかった男。。。平成の三島といったところか。。。
 間違いじゃないんです。でも。。。艦長として、自衛官としてそれ以上は言えない。
 そんな根本が気の毒に思えてきた梅沢は、掛ける言葉も思いつかないまま梅沢に近付いた。
「来るぞ、、、総員退艦を出した方がいい。いや、間に合わないか。。。すまないことをした。」
 良く見ると顔色が優れない根本が呟いた。
「総員退艦?なんでです?」
 梅沢が聞き返した。
「お前は知らない時代のことだろうが、要は対艦ミサイルの無い時代だがな、艦艇の攻撃にはチャフでレーダーを眼潰ししてから爆撃する。という手法が研究されていた。
 チャフを撒いたのはF-15だと言ったな?多分ペアで行動している筈だ。F-15は対艦ミサイルを運用できない。だから爆撃してくる。政府にはバレてるんだ。俺達の作戦が。。。この艦がハープーンを発射する前に沈めようとしているんだ。。。何の罪もないお前たちと共に。。。こんな事に巻き込まなければお前たちを死なせずに済んだのに。。。申し訳ない。」
 どんなに根本に詫びられても命が失われることに変わりはない。誰も失いたくは無い。しかも、こんな命の失われ方なんて納得がいかない。
 なんという理不尽、何と言う運の無さ。。。梅沢の憤りは収まる筈がない。。。
「謝られて済む問題じゃない。F-15は迎撃専用だ。爆撃が専門じゃない。。。ということは、爆撃は目視ですよね。」
 根本の答えはどうでも良かった。とにかく何もせずに部下を頃させるわけにはいかないし、罪もないF-15を撃墜する訳にもいかない。
 根本の答えを待つまでもなく艦内電話を手に取った梅沢が命じた。
「機関室、こちらCIC梅沢だ。本艦は、航空機の爆撃を受けつつある。欺瞞(ぎまん)の為に煙幕を張って欲しい。不完全燃焼をたっぷり頼む。」
「副長。空爆の恐れがある。機関室に煙幕を頼んだから最大速力で、ジグザグ運動を頼む。爆弾に対して本艦はブリキ同然だ。一発も当てさせてはいかん。できるか?俺もすぐそっちに向かう。」
 航空機の爆撃を煙幕やジグザグ運動で避ける。まるで第二次世界大戦中の駆逐艦じゃねえか。そもそもこの場合はジグザグ運動が有効なのか?そんな事は分からない。だいたいそんな想定なんてしたことがない。しかも相手は空自。味方機だ。撃墜する訳にもいかん。いや、そもそも眼潰しを喰らっていては、撃墜なんて不可能だ。
 梅沢は、無理だと分かりつつも各所に命令を伝達した。迷いがなく歯切れの良い返事をくれる部下が頼もしい。
 ありがとう。誰も俺の判断を疑う者はいない。
「爆撃は全力で回避する。各自、衝撃に備えよ。俺は艦橋へ行く。」
 凛として敬礼する部下、そして申し訳なさそうに敬礼する根本に答礼しながら梅沢はCICを出た。状況を確認したくて、艦内の通路ではなく、ハッチから甲板に出て外から艦橋へ向かう。夕方とはいえ、南国の衰えない陽光に視界が一瞬真っ白になるほどの眩しさを感じると思った梅沢は、いつもそうしているように目を細めたが、すぐにその明るさに慣れた。空に舞う雪のようなアルミの塵が舞い、陽光を程良く緩和していたのだった。
 ひどいな。。。
 速足で、歩きだそうとした梅沢は、うっすら積もった塵で滑りそうになる。ジグザグ運動中の今はなおさら危険だ。梅沢が慎重に歩みを再開すると、その耳に隙間風が吹き込むような音が聞こえ始めた。そしてその風を隙間にぐいぐいと押し込むようにその音が大きくなってくる。梅沢はその音に追いかけられるように駆け出し、ハシゴのように急な階段を駆け上がる。不完全燃焼で煙幕を出させているため、石油ストーブを消したばかりのような臭いが走る梅沢の呼吸に負担を与える。嫌いな臭いではないが、こういう時は辛い。。。
 艦橋左側のウィングに達した梅沢は、息も絶え絶えに見張りの若者に答礼すると、振り仰いだ空に既にジェット戦闘機独特の爆音を響かせる距離まで近付いた音の主を探した。
 いたっ。。。
 陽光をキャノピーに一瞬反射させた戦闘機がほぼ真後ろから向かってくる。胴体の両脇に四角く開いた空気取り入れ口の黒い穴が、喰いつかんばかりの獰猛さを感じさせる。そして背面を経た尾部に特徴的な2枚の垂直尾翼が見える。間違いない。F-15だ。しかも低い。。。梅沢の位置で背面、つまり胴体上面が見えるということは、艦橋よりも低く飛んでいるということだ。煙突から不完全燃焼の黒煙を吐いていて煙幕にしたつもりだが、煙幕より低く飛ばれては意味が無い。
 野郎、相当の腕の持ち主だな。まるで大戦中の雷撃機だ。。。
「来るぞっ、取り舵いっぱい。」
 艦橋内に怒鳴る。左後ろから向かってくる航空機に対して、遥かに低速な艦船に出来る事は、その旋回性を活かして相手の進行方向に対して、なるべく角度を付けて逃げること。電子の目を潰されたこの艦には他に手段はない。。。
 梅沢は、F-15を睨んだ。
 睨んでも攻撃を諦めてくれるわけではないが、俺は最後の最後まで諦めない。
 俺は目をつぶらない。。。たとえ最後の一瞬であっても。どこかにチャンスがあるかもしれん。俺は、こんなことで部下を死なせはしない。。。
 梅沢は、F-15を睨み続けた。。。

作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹