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尖閣~防人の末裔たち

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「こちら機長、目標は潜水艦ではないと思われる。よって今から各自の役割を伝達する。TACCO(戦術航空士)とNAV/COM(航法・通信員)は出窓を使って、写真撮影、FE(機上整備員)、IFT(機上電子整備員)、ORD(機上武器整備員)は見張り。SS-1、SS-2(ソナー員、機上対潜音響員)SS-3(レーダー員、機上対潜非音響員)は、自慢の道具を使って警戒を続けろ。どんな小さなことでも報告しろ。」
長谷川は全員の返事を確認して、ふ~と小さな溜息を吐いた。

 腕時計が5時35分を示した。前方の海面に気泡が見えた。田原は潜水士に船内放送で指示を出す。
「よし、時間だ。かかれっ」
 両舷に1名ずつ、舷側に腰掛けていた計2名の潜水士は右手を軽く上げると後ろ向き転がるように海に入っていった。潜水士が気泡に向かって泳いでいく間に、大きな気泡が発生して、やがてゴムボートをひっくり返したような材質と大きさの黒い物体が2つ海面に浮き上がってきた。潜水士はそれぞれの黒い物体に取り付いた。右舷側から海に入った潜水士がウィンチ員から渡されていたワイヤーのフックを物体に付けられた輪に掛けた。何度かフックを引っ張って問題ないことを確認した潜水士はウィンチ員に向かって親指を突き上げた。巻き上げ開始の合図だ。もう1人は、輪に手を掛けてその船首から投げられたロープを縛り付けた。船首の人間に親指を突き上げて合図し、引き揚げを開始した。
 1つ目の物体を引き揚げた後、作業員は即座にフックを外してロープで船首右舷側に引き寄せられた2つ目の物体に向かってフックを渡した。2つ目も順調にウィンチで引き揚げられてきた。
 甲板に揚げられた2つの物体が作業員達によって切り開けれ中身を取り出す作業を始めた。
作業が始まって30分が経過していた。
その順調な作業振りを確認していた田原は脇に抱えたタブレット端末がバイブレータで振動するのを感じ慌てて手に取った。画面上のレーダー画像の中央に大きく「ALERT」という文字が赤で点滅していた。田原が画面をタッチすると「ALERT」の文字は消えて、驚異対象を赤い三角形の点滅で表示していた。三角形は航空機を意味する。画面にはTIDAと表示されていた。田原は、船長に悟られぬ程度に軽く舌打ちした。あと1時間でこちらに届くがこの天気だとあと40分で目視で発見されるな。それにしてもどちらに向かってるんだ?尖閣か?こっちか?どちらにしても中身を確認する時間はあるな。田原は再び前方の甲板へ目を向ける。1つ目のアルミ製の箱が開けられたところだった。田原は双眼鏡を構えた。近すぎてピントがボヤケている、慌ててピントを手前に合わせながら凝視する。ピントが合った時思わず「おお~、」
 という感嘆の声を漏らしていた。
 ピントが合わせられた田原の双眼鏡には、甲板で開けられている箱の中身が大きくはみ出しながら写っていた。それは細長い形状で整然と並べられ、朝日を浴びて黒光りする光沢が金属の重厚さを主張していた。先端に行くほど細くなっており、先端の筒状に見える側面にはスリット状に穴が開けられている。それは戦争映画などで男性なら一度は目にしたことのあるお馴染みの小道具、アメリカ軍で過去に制式採用され西側各国でも使用されたことで大量に生産された自動小銃M16A1であった。田原は2つ目の箱を見た。そこには同じように黒光りする棒のような物が整然と並べられているが、後ろ半分は茶色い木のような物体が付いている。それは木製のストックであった。こちらも映画では敵役が御用達の旧ソ連で開発されたカラシニコフAK74自動小銃の中国のコピー生産品だった。今回の行動で田原はこれらの武器だけではなく、拳銃から対戦車ロケットまで一通りの武器を手に入れることが出来た。AK以外は全て信頼性が高く、使い慣れた西側製にした。AKは何故か河田の強い指示で数丁だけ入手した。M16A1の口径は5.56mm、AKの口径は7.62mmで弾薬が異なるどちらも一長一短だが両方入手する理由が分からなかった。2,3丁でいいし弾薬は100発だけでいいんだ。という河田の言葉に負け、手配した。
 これらの武器は田原が直接マカオを訪れて武器商人と交渉を重ねて入手した。品物の確認から価格交渉まではどんな商売でも一緒だが、問題は引き渡し方法だった。最終的には丈夫で巨大なゴム風船の中にアルミケースに入れた武器を収納し空気を抜いておく。風船には液体酸素のボンベと時限装置、おもりを付けておく。公海上の指定の座標に沈めておく。そして指定の日時になったら、時限装置が風船に酸素を送り込み風船が浮力を得た時点でボンベと時限装置、そしておもりを切り離して風船部分のみが海上に顔を出す方式で合意したのだった。
 ちゃんとやってくれるのか心配だったが、こうして計画通りに進んでいる。帰ったら礼の電話でも掛けよう。さて、飛行機はどうなったかなと田原はタブレット端末に目を落とした。お、やはり尖閣に向かったか、通常のパトロールとルートが違ったからそうだろうとは思ったが、こちらの作戦通りだ、みんな尖閣に釘付けになっている。そういえばTIDAって、那覇基地の海自の第5航空群だったな。懐かしいな。昔は一緒に潜水艦狩りをやったもんだ。ま、最もあの頃は飛行機は双発でもっとスマートなP-2Jだったし、あの頃は第5航空隊はいなくて確か第9航空隊だったな。俺の艦は今の艦のように対空ミサイルなんて付いてなかった。爆弾を積んだ戦闘機にでも来られたら第9航空隊も、俺の艦も全滅だったな。いずれにしても、確認も済んだことだし、さっさと引き上げるとするか。
P-3Cがこちらに来ないことを知り、やっと思い出に浸るゆとりができた田原は、船内放送のマイクで呼びかけた。
「これより帰投する。ケースには魚網を掛けておけ。僚艦に連絡。」
 それを聞いた甲板の作業員は、次々とケースに魚網を被せていった。旗を持った男は、左舷側で、次いで右舷側で黄色の旗を大きく振った。各船は、錨を引き揚げてエンジンを吹かす。それに合わせて煙突から真っ黒い煙が濃くなったり薄くなったりしている。そして、一際濃い煙を噴出すと一斉に前進を始めた。彼らがいた海面には投棄された黒いゴムの残骸が引きちぎられたゴムボートのように漂っていた。それらは、時折波間に黒い頭を覗かせ不気味な光沢を放っていた。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹