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尖閣~防人の末裔たち

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了解。監視強化及び示威行動のため、当艦より那覇基地にP-3Cの出動を要請した。到着時刻は1時間後。現状では、当艦隊はこの場を離れられないが、危急の事態が発生した場合は急行するので連絡されたし。武運を祈る。
以上です。」
心強い回答に目頭が熱くなるのを感じた兼子は、
「「いそゆき」に返信。
協力に心から感謝す。
以上。」
と力強く答えると、副長に
「「いそゆき」の艦長は、どんな男なのかな?協力的でこちらも動きやすい。一体感と安心感すら感じる。ああいう艦長はいいね」
と嬉しさの笑みを浮かべた。
副長は、少し驚きながら
「えっ、船長は「いそゆき」の艦長を御存知じゃなかったんですか?ウチじゃあ有名ですよ。倉田という艦長で、御子息が、ウチでヘリのパイロットをしているそうです。」
「あ、あの倉田君か?東日本大震災の時にヘリで支援活動をしていたな。この船も仙台沖で支援活動をしていた時に何度か倉田君のヘリが着船して救助者の引渡し、物品補充もしてくれた。この船はヘリ格納庫こそないが、ヘリに燃料を補給することは出来るから、ここで燃料補給して活動したりもしていたよ。そうか、あの倉田君のお父さんか、機会があったら話をしてみたいもんだ。」
兼子は、昔を懐かしむように語った。

 沖縄県那覇基地、この航空基地は、陸・海・空3自衛隊が常駐する珍しい基地であると同時に近年軍備拡張と海洋国家戦略による領土拡大の政策により活発な活動を続ける中国や、予断を許さない北朝鮮に対峙する南西方面の拠点でもある。このような状況に対して航空自衛隊は首都圏防空の拠点である百里基地の第204飛行隊の主力戦闘機F-15Jを那覇基地に移動させ、那覇基地の第302飛行隊の旧式感の否めない戦闘機F-4EJ改を百里基地に移動させる配置転換を行った。また尖閣諸島問題だけでなく中国海軍潜水艦の領海侵犯も発生しているこの海域の警備のため、那覇基地の海上自衛隊第5航空群第5航空隊は、潜水艦の探知・攻撃能力に優れる哨戒機P-3C、2機による警戒飛行を毎日早朝から実施している。
 5時45分に那覇基地を離陸した海上自衛隊第5航空群第5航空隊の2機のP-3Cからなるティーダ3とティーダ6は、北方に針路を維持しながら目標高度3,000フィート(約1,000m)に向かって上昇を続けていた。朝の日差しを受けて一面グレーで塗られた機体も光輝いている。10年ほど前までは機首先端から丸みを帯びたレーダードームは黒、胴体上半分は白、下半分は灰色の2トーン塗装で垂直尾翼には翼面全体を使って大きな青いペガサスの部隊マークが塗装されていたのだが、今はその部隊マークすらない。いたって地味な機体であるが、この地味な塗装の方が現状の緊張状態にマッチしているといえるのかもしれない。P-3Cには、機長を始め11人が搭乗している自衛隊機としては大所帯の部類である。開発はアメリカだが、海上自衛隊のP-3Cは、ほとんどが日本でライセンス生産されたものである。全長35.6mの太い胴体にはプロペラ機らしい直線の翼が伸び、4つの大きなプロペラが所狭しと回っている。このプロペラを回すのはアメリカのアリソン社が開発したエンジンを石川島播磨重工業がライセンス生産したT56-IHI-14ターボプロップエンジンで、1基で4,910馬力ある。ターボプロップエンジンは、圧縮空気を燃焼させてタービンを回し、そのタービンの回転でプロペラを駆動する。いわばジェットエンジンでプロペラを回しているようなものである。独特の重低音を周囲に響かせながら4つのプロペラで空を掻きグイグイと昇っていく。
 上昇しながら那覇基地管制塔の航空管制官から航空路を管制する那覇航空交通管制部(ナハコントロール)に無線交信を引き継がれた頃、別の無線に通信が入った。
「第5航空群司令よりティーダ3編隊、任務変更。通常の警戒コースではなく、直接尖閣諸島へ向かえ。尖閣では、護衛艦「いそゆき」の指示により警戒飛行を行え。任務終了後通常の警戒コースに戻れ。「いそゆき」との交信はチャンネル7を使え。以上」
チャンネルとは、あらかじめ任意の周波数を割り当てた番号である。民間機のように周波数を直接伝えると間違えが少ない反面、簡単に傍受されてしまう。自衛隊では、安易に傍受出来ぬように事前に周波数を割り当てた番号を用いているので傍受している方は、どの周波数に合わせたら良いか分からない。マニア泣かせな周波数運用なのである。
「ティーダ3了解。直接尖閣諸島へ向かい、「いそゆき」の指示により警戒飛行を行う。「いそかぜ」との通信はチャンネル7」
右席に座る副操縦士の高橋3尉は復唱し、左席で操縦桿を握る機長の長谷川1尉の方を向く。長谷川は親指を立てて了解の意を示す。続けて高橋は那覇航空交通管制部にコース変更の許可を申請する。
「Naha Control.TIDA3.Request direct to Senkaku.Due to changed mission.(那覇航空交通管制部、こちらティーダ3。任務変更のため、尖閣への直行を許可願います。)」
「TIDA3.Naha Control.Roger.Cleard for Direct Senkaku.Turn left heading225.(了解。尖閣への直行を許可します。左旋回して針路225度を維持してください。)
管制の許可を得ると長谷川は操縦桿を左に傾けて機体を左旋回させ、針路を225度にした。そして程なく機体は目標の高度3,000フィートになり、長谷川は機を水平飛行にした。
「ユーハブコントロール」
と長谷川は言った。
「アイハブコントロール」
と高橋が答え、操縦桿に手を添える。
 軍用機、民間機を問わず機長と副操縦士、2人のパイロットがいる航空機では、操縦を交代する時にこのような声を掛け合い、勘違いで操縦している人間がいない状態という冗談のような事態を避けている。
 副操縦士の高橋に操縦を担当させている間に僚機のティーダ6に任務の変更を伝えた後、インターフォンのチャンネルを機内共通にセットして任務の変更を全員に通達した。尖閣まであと1時間。魚釣島に直進しながら「いそゆき」からの指示を待とう。高度は「いそゆき」の注文次第だな。長谷川は、左後ろにティーダ6がぴたりとついてくる。
「高橋、針路そのまま、まっすぐ尖閣へ向かえ。高度は3,000(3,000フィート
(約1,000m)を維持。「いそかぜ」とコンタクト後は、「いそかぜ」の御注文にそうということでいこう。」
長谷川は、おどけた素振りで歯を見せて大げさな笑顔を作った。こういうときはあまり緊張させすぎるのもいけない。と自分に言い聞かせた。どうせ漁船団がしゃしゃり出すぎてるんだろう。潜水艦相手のフルメンバーで来ているから、勝手が違うな。暇で緊張感が途切れるヤツも出てくるかもしれん。あ、各自に役割を与えよう。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹