尖閣~防人の末裔たち
日本海軍の反跳爆撃の指揮官要員だった関行男大尉が、海軍初の特攻隊「敷島隊」の指揮官に、陸軍の跳飛爆撃の第一人者だった岩本益臣大尉が、陸軍初の特攻隊である「万朶隊」の指揮官とされたことを歴史の偶然と言うにはあまりにも残酷ではないだろうか。。。日本軍が正攻法を諦めたと断じるのは早計だろうか。。。
せっかく命がけで磨いた腕を無駄に使うという点では俺も同じかもしれない。。。
しかし「スキップボミング」は自機の安全性も高いし、命中させる自信もあるが、手加減できる保証はない。この際、犠牲者は極限まで減らす努力をするのがせめてもの償いだろう。。。
やはり、危険だが緩降下爆撃で直接照準しよう。。。
キョウジュこと高山機が撒いたチャフの効果を信じて、「あさゆき」に接近後急上昇し、緩やかに降下しながら直接爆弾を命中させる。1発だけ、マニュアルで投下する。艦尾に命中させれば、犠牲も少なく、艦を航行不能に陥れられる。。。隙だらけの攻撃方法だが、確実な方法はこれしかない。
いや、いっそのこと俺は撃墜された方がいいのかもしれない。。。彼らの大義は分かるが、彼らを攻撃しろ。という上の命令に大義は感じられない。。。
集中しろ。。。
このまま基地へ帰投したいという誘惑に駆られる自分に別の自分が警鐘を鳴らす。容赦なく海面が迫っている。高度は50フィート(約15m)になっていた。
鳥谷部は既に五感の一部となっている計器と身体を連動させて高度を落とさないように機体を左旋回させた。強い西日が、黒いサンバイザーに映り込む。旋回を終えた直後に西日が一瞬遮られて陰る。チャフを撒く高山機が追い越しざまに鳥谷部機に影を落としたのだった。
キョウジュ、生きてかえれよ。
ノズルからオレンジ色のアフターバーナーの炎を見せて遠ざかっていくELBOW2-高山機の後ろ姿を見つめる鳥谷部がマスクの中で親友の無事を祈った。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹