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尖閣~防人の末裔たち

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 そんな防衛大臣の横顔を横目に、山本は内心毒気付く。一緒に防衛省を出、車は別々とはいえ、ほぼ同時に玄関に到着しておきながら、首相官邸に馴れていない我々を待つどころか、避けるようにしてこの会議室に先回りしているあたりが、「自衛隊とは別行動」をアピールしているのがバレバレだ。
 政治家の保身と利益、その狭くて利己的な手の平の上で転がされているのが、我が国のシビリアンコントロールなのだ。人員も装備も少数で何倍もの軍を持ち、虎視眈々と我が国の国益を、そし平和を脅かす周辺諸国と向き合う我々の手綱は、こういう人間達が握っている。
 こんな連中に任せていて有事に対応できるのか?河田さんの気持ちも分からなくはない。この国にはもはやショック療法しか無いのかもしれない。
 しばしの沈黙の後、一同が山本達に視線を向けた。
 やはり我々はいつになっても孤独だな。。。
 呆れたようにゆっくりと立ち上がろうとした山本を、航空幕僚長の加藤空将が目で待ったを掛けて立ち上がった。
「航空幕僚長の加藤です。私の方から説明させていただきます。陸海空3自衛隊とも、本件に関する兆候は全く掴んでおりませんでした。何故なら、我々は常に海保さんよりも遙か後方で任務を行っていたからです。我々が彼らの上陸を知ったのは、領空侵犯して魚釣島上空に飛来した中国空軍のF-8FR偵察機にスクランブル発進を掛けた那覇基地のF-15J戦闘機からの報告でした。本日の11時7分です。私達が持っている写真も、そのような写真ではなく、スクランブル機が上空から撮影した写真のみです。付け加えるなら、中国のニュース番組に出ている現地の写真もこの時の偵察機のものです。つまり、私達が情報を得たのは、中国政府と同時ということになります。」
 加藤が指さしたスクリーンには、海上保安庁が巡視船と航空機から撮影した様々なアングルの魚釣島の写真が映し出されていた。
「だが、首謀者の河田は、元海上幕僚長で、そもそも、ホットラインのアドレスを受けたのは、山本海幕長なんじゃないのかね。なあ、防衛大臣?」
 総理大臣が声を荒げた。
「はい。そうです。このホットラインのメールアドレスは、海幕長の個人用携帯電話に送られてきたメールに記載されていたものです。」
 彼らは、どうしても政府の外に悪者を作りたいらしい。
「昔の上官からメールが来るのがそんなに不自然なことなんですかね?今時お互いにアドレスを知っているのが当たり前なんじゃないでしょうか?ここにお集まりの皆さんは、上司や部下のメールアドレスを知らないんですか?
 それはさておき、海保さんは、今朝早くから動いていた。武装した隊員も送り込んでいる。違いますか?石垣で河田さんの事務所を家宅捜査もしてますよね。何があったんですか?」
 立ち上がった山本が諭すように言う。まるで小学校の教師にようだ。だが内容はトゲトゲしい
「正面を御覧下さい。ホットラインでのメールがあります。」
 山本の質問を体よくあしらうように内閣調査室室長が声を上げた。
 防衛大臣が、普段は見せることのない冷たい視線を幕僚長達に向けた。さしずめ「余計なことを言うな、」ということだろう。日本のCIAとも言われている内閣調査室略して内調が出ているということは、この事件が謀略絡みでも捜査されてきた。ということか。。。全て我々抜きで、か。。。いつだってそうだ。山本は釈然としない苛立ちが独り言に出そうになり慌ててスクリーンに目を向ける。
 写真が消えたスクリーンに、メールソフトの画面が一杯に広がった。様々な件名が受信時刻順に羅列する中、「重要」というフラグが目に付つく。カーソルが最上段のフラグの付いたのメールに移動し一瞬だけ砂時計に変わる。
「読み上げます。」
 そう言って、内閣調査室長が スクリーン脇でパソコンを操作していた。30半ばの男に向かって顎をしゃくった。
 開いたメールには、簡単な文章が記載されていた。
「はいっ。では、読み上げます。
本日、ここにお集まりの皆さん。私は、魚釣島の河田勇と申します。すでに私の出自、そして行動は御存知のことと思います。
 我々が昨夜上陸してから既に15時間が経過しておりますが、皆さんがお揃いになったのは、つい先ほどですね。
 残念ながら私の予想通りです。
 相変わらず当事者意識の無い政府の対応に、我々の目的の正しさを改めて実感しているところであります。
 さて、皆さんは我々の目的を図りかねていることでしょう。
 大筋は我々が動画投稿サイトに投稿していますが、目的は2つあります。 
 1つ目は平和に対する国民の「意識改革」です。
 戦後70年余り。内外の状況に無関心でいながら、成り行きで平和を貪り続けてくることが出来た国民は、周辺諸国の変化と安全保障について、あまりにも無関心が過ぎたのではないでしょうか?これほどまでにメディアが発達し、知る機会が増えていても、受け取る側に関心がなければ無駄に終わります。御存知の通り、メディアの発達は、情報の氾濫も招いているからです。これは、国民1人ひとりの責任ではありません。国民に対して安全保障を説いてこなかった戦後日本政府の責任は重い。と我々は考えています。
 だからこそ、我々は行動を起こしました。国民に平和と安全保障の関係について意識してもらうために、そして日本は「国家としてのありよう」を考えてもらうために!
 しかし、それには時間が掛かります。現状は御存知の通り逼迫しています。攻撃の意志を内外に明言した中国艦隊が接近中なのです。
 そこで我々の2つ目の目的が重要になってきます。いや、あえて言いますが、この国がまともな国であれば、そもそもこの2つ目の目的を果たす必要はなく、さらに言えば、このような我々の行動は不要であったと強く申し上げたい。
 それは、領土に進入する外国の軍隊に対する対処です。多くは語りませんが、現行法では攻撃を受けるまで対処、つまり攻撃が出来ないのではないのでしょうか?警察の正当防衛と同様の武器使用基準しかない。現代戦では、撃たれればそれで終わりです。撃たれたら最後、破壊されて反撃などできません。警察の銃撃戦とは訳が違うのです。現代戦は正当防衛は通用しないのです。
 戦後ずっと我が国はこの状況に対する法的判断を見送ってきました。「臭いものには蓋をしろ」的ないかにも日本官僚らしい考えで。。。
 
 示して下さい「国家としてのありよう」を。。。それが我々の第2の目的です。いや、これが我々の真の目的です。
 あなた方の対応が、「国家としてのありよう」に取るに足りないと判断した時点で、我々は次の行動を起こします。
 その時は我々が「国家としてのありよう」の手本をお見せします。
 我々が法的整備の不備に不安と危険を感じながらも現役時代に訓練してきたことが無駄でないことを、そして、その効果の発揮の仕方をお見せします。普通の国家ならば当然の行動をするまでですがね。
 さあ、あと30分で中国艦隊が領海を侵犯します。
 示してください。「国家としてのありようを」」
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹