尖閣~防人の末裔たち
これを御覧になった日本国民の皆さんは、どう感じたでしょうか?
確かに私は、武装し、日本政府が国有化した魚釣島に上陸しています。そして、海上保安庁のヘリコプターを攻撃し、海上保安官を監禁しています。そう、我々は犯罪者の集団と呼ばれても仕方がないでしょう。いや、犯罪者集団なのです。
それは正しい見方です。しかし、大切なことは、<ここは何処なのか>ということです。
日本国民の皆さんに考えていただきたいことが4つあります。
1つめは、この魚釣島は、どこの国の領土なのか?ということを考えて頂きたい。中国の言い分は正しいのでしょうか?
2つめは、私達は、どこの国の裁きを受けるべきか?ということです。私達は、日本人ですが、外国で犯罪を犯せば、当然その国の処罰を受けなければなりません。しかし、ここは、どこの国ですか?
そして3つめ、私達を攻撃、排除あるいは逮捕する権限は、どこの国の権力が持つのか?ということです。本当に中国艦隊なのでしょうか?もし、日本国民の皆さんが、ここを日本の領土だと考えていらっしゃるのならば、これこそ、中国による侵略なのではないでしょうか?それを許せば、これからの日本はどうなるのでしょうか?いや、そもそも日本は国として成り立っているのか?ということになりませんか?
最後に4つめですが、今、中国の艦隊が、この島を目指しています。しかも、この島を攻撃することを明言しています。つまり、通常外国の船舶が、例えば横浜港へ向かう貨物船のように、目的の港へ向かって領海内を通行できる<無害通行権>を放棄しています。
このように攻撃する意図を示した外国の艦隊に日本はどうするべきなのですか?普通の国ならばどうするか?考えてみて下さい。イメージがつかなければ、例えば、あなたの住む地域に向かって、外国の艦隊が<攻撃するぞ>と宣言して刻一刻と迫ってきているとき、攻撃されれば、あなた方の財産、命、大切な人々、、、取り返しのつかない沢山のものを失うのです。。。日本政府にどうして欲しいですか?
考えてみて下さい。国とは何なのか?を、
難しければ、自分に置き換えて考えてみて下さい。税金を納めているのだから、こういうとき国にどうしてほしいのかかを。。。
今こそ日本は<国としてのありよう>を示すべきなのです。
こんな私ですが、平和を愛しています。そして憲法9条を誇りに思っています。
しかし、平和主義って何なんでしょうか?
<私達は平和主義だから>
<私達は平和を愛しているから>
<私達は戦争を放棄しているから>
と「言っている」だけで、果たして日本の国が侵略されず平和でいられることが出来るのでしょうか?日本は国土も狭く資源も無い。これまでの日本は侵略されるに値しなかっただけなのかもしれません。しかし、今は違います。この島のように豊富な海底資源があると分かったとたんに起きた領土問題。覇権を拡大しようとする国家や弾道ミサイルで恫喝する国家と隣り合った日本は、<言っている>だけで、これからも大丈夫なのでしょうか、今、それが崩れようとしています。私が今、この島で行っていることは、日本での犯罪行為なのではないでしょうか?それに対して、侵略が行われようとしているのです。これは<言っている>だけで、つまり、<国民の平和を願う純粋な思い。>に甘えて、平和を維持するための備えを怠ってきた政府のツケが今起ころうとしているのです。
我々は長年自衛官として国のために身を捧げてきましたが、正当防衛しか認められていない状況にどれだけ緊張を強いられ、そしてその矛盾に打ちひしがれてきたか。。。撃たれたら終わりなのです。拳銃の撃ち合いではないので、撃たれただけで全滅です。最初の攻撃を生き残って撃ち返すなど、出来ないのです。正当防衛など成り立たない。どうやって国民を守るかを必死で考えてきましたが、国民を守るための高性能な兵器を持ち、国民を守るために厳しい訓練を重ねた優秀な隊員がいても、肝心の国民を守るための法律がない。
これが現状なのです。
憲法9条は、世界に誇るべき平和憲法です。私達もこれを大切にしてきましたが、この9条が成り立つための大前提を忘れてはいないでしょうか?
それは前文にあります。
<日本国民は、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した>
この言葉は、平和を愛している周辺国が信頼できるからこそ、我が国の安全と生存つまり平和憲法を維持することができるということなのです。
果たして、今の周辺国は、これに当てはまるのでしょうか?いや、今までも当てはまっていなかったのかもしれません。日本は戦後70年間一度も戦争を行いませんでした。それは、幸い誰にも相手にされずにいることができた。侵略されるに値しない国土だったのも幸いしているのかもしれません。あるいは、日米安保の影響か。。。しかし、それならば状況はさらに深刻です。それは自分の力で国を守る事ができない。つまりアメリカから真に独立しているとは言えないからです。そんな国が、防衛力を整えないままに、在日米軍縮小を叫ぶのは周辺諸国にとってはチャンス以外の何者でもない。まさに日本は滑稽な国家であるに違いありません。アメリカを追い出すならば、それに見合った国を守る防衛力と国を守るための法律を整えるべきなのです。
今こそ、日本は目を覚まし、「国としてのありよう」を示さねばなりません。真に平和を維持するために時には毅然とした対応が必要であることを。
国民とその財産つまり平和な国土を周辺国の状況に左右されることなく維持する、国家として当然のことをなすべきなのではないでしょうか?
このことを国民の皆さん1人ひとりが自覚して行動しようではありませんか、別にデモをしろとか言うわけではありません。平和について、もっと現実的な観点で議論する文化を作って欲しいのです。日本は幸い民主国家です。皆さんの思いはきっと国政に現れることでしょう。-
中国艦隊、中国空軍や陸軍の訓練風景の動画の後に訓練中の各自衛隊の様子が対局を成すように背景に流れる中で、険しく時には包容力のある表情で諭すように時には語りかけるように続いていた河田の映像と声が途切れると、黒地に白い文字の画面が現れた。
「考えてみて下さい」
1.この魚釣島は、どこの国の領土ですか?
2.私達は、どこの国の裁きを受けるべきですか?
3.私達を攻撃、排除あるいは逮捕する権限は、どこの国が持つのですか?
4.今、中国の艦隊が、この島を目指しています。攻撃する意図をもつ外国の艦隊に日本はどうするべきなのですか?
ゴシック調の見易い箇条書きのまま30秒ほどたって、アナウンサーの画面に戻った。呆気にとられたような表情のアナウンサーが、カメラに気付き、一瞬でいつもの顔に戻る。
ぽかんと口を半開きにしていた権田の喉が、唾を飲む音を立てた。
「なるほどな。確かに一理ある。ネット拡散で正解だな。こんなの局に持ち込んだら、旭日なら握りつぶす。ウチは上手く使ってくれた。」
権田は髭をゴシゴシ指で擦りながら頷く。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹