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尖閣~防人の末裔たち

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「Warning!Warning!Warning!Chinese Aircraft,Chinese Aircraft.(中国機に警告する。)You have violated Japanese air domain!(貴機は、日本の領空を侵犯している。)」
 鳥谷部は、少し前に出ると機体を左右に繰り返して傾け翼を大きく振って見せた。その間に高山は対象機の背後に回って中国語の警告を流す。J-8FRは相変わらず直進する。前方に魚釣島が大きく広がってくる。
「Follow my guidance!(我の誘導に従え!)Follow my guidance!(我の誘導に従え!)」
鳥谷部の語気が強まる。続けて高山が流す中国語のガイダンスが嫌味なほど対象的な冷静さで呼びかける。しかし反応は全くない。
「シカトてんじゃねえぞっ。。。」
 鳥谷部が愛機を減速させながら中国機と横一列に並ぶと、鳥谷部は中国機のコックピットに動きが見えた気がして目を向ける。すると、中国機のパイロットがこちらに大きく手を振っている。
「なんだ?キョウジュ、中国人がこっちに手ぇ振ってるぜ。」
「舐めやがって。。。撃ち落としてほしいんじゃねえか?ウータン、得意のバルカン砲ブチ込んでやれよ。」
 珍しく投げやりな高山の声が響く。
「おいおい、そうはいかね~だろ。それにしても様子が変だな。。。あれ、あいつ何をし出すんだ。キョウジュも横に並んでくれ。」
 鳥谷部の目には信じられない光景が映った。中国機のパイロットが、サングラス代わりの黒いバイザーを跳ね上げて、笑顔でこちらを見ている。目の周りの皺が目立つところから見ると、40代後半か。。。いずれにしてもベテランパイロットだな。
「何やってんだあいつ。。。」
 鳥谷部と中国機を挟むように反対側の横に並んだ高山の呟きがレシーバー越しに聞こえてきた。
「何なんだか。もう魚釣島の上空に入っちまったぜ。とぼけた奴だ。」
 鳥谷部も相手と同じようにバイザーを跳ね上げ、相手と素顔で向き合った。
 中国空軍の偵察機J-8FRを隊長機のように中央にし、両脇に航空自衛隊のF-15Jを従えたように見える奇妙な編隊は、いつの間にか魚釣島を中心に緩やかに旋回をし、高度を下げ続けていた。
 鳥谷部の顔を見た中国機のパイロットは満足そうな笑顔で頷いて見せると、下方の魚釣島を大きなジェスチャーで指差して、機体を更に降下させた。
「キョウジュ、奴は下を見ろと言ってるぞ。」
 鳥谷部が高山にも教えると、中国機を追いかけるように機体を降下させながら眼下の魚釣島を覗きこんで息を飲んだ。
 白い背中を見せたヘリコプターが1機島に着陸している。幸い中国のヘリではないようだ。竹トンボのような2枚羽根の直線的なシーソーローターであの形の胴体。。。多分ベル212型だ。海保か?屋上に大きな日の丸を掲げた建物みたいなものもある。
 どうなってんだ?J-8に気を取られて気付かなかったが、あいつはこれを偵察しに来たってことか?
 鳥谷部が自問自答を始めようとした時、地面が一斉に動いたように見えた。もう一度そのひとつひとつに目を凝らすと、迷彩服を着た多数の人間だった。しかも手には自動小銃を持っている。幸いこちらに銃を向けている人間はいないようだ。何者だ?海保の人間は迷彩服など着ない。
「何だ?キョウジュ、カメラだ!島の様子が変だ。撮影してくれ。」
 鳥谷部の声が裏返る。
「了解。ウータン。こちらも確認した。撮影を開始する。」
 一眼レフで撮影し始めた高山機の方を一瞥した中国機のパイロットは、鳥谷部に敬礼をして見せる。反射的に敬礼を返した鳥谷部に人懐こい笑顔を向けた中国機のパイロットは、愛機J-8FRの翼を小刻みに振って挨拶してみせると。加速して鳥谷部達から距離を空けると急旋回して西の空へ去って行った。
「ELBOW01,対象機は魚釣島上空を旋回の後、高速で離脱した。魚釣島に日の丸を掲げ、武装した迷彩服の人間が多数いる模様。数約50。繰り返す。武装した人間が50名以上島にいる。更に海保と見られるヘリが1機着陸している。当方は写真撮影の後、帰還する。」
 鳥谷部の緊張した怒声が無線を響かせる
「了解。海保に状況を確認する。写真撮影後速やかに帰還し、報告せよ。なお、対象機が領空を退去したことを確認した。」
 こいつは焦るということがないのだろうか?
 この期に及んでも落ち着いた名も知らぬ迎撃管制官の声に鳥谷部は苦笑すると、それを隠すようにバイザーを降ろした。
「キョウジュ。あと1周旋回したら引き上げるぞ。撃たれたら大変だからな。それに早く報告しなきゃな。」
「了解。何があったんだか知らないが一大事だな。」
 島を一周したF-15Jの編隊は、急加速しながら東の空へ機首を向け、那覇へと急いだ。

作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹