尖閣~防人の末裔たち
「キョウジュ」こと高山が先日発生した海上自衛隊のPー3Cが、中国の戦闘機に追い回された話のことを言っているのは明快だった。当時那覇基地からスクランブル発進したのも鳥谷部・高山チームだった。その時のリーダーは高山だったので、虫の居所が悪いのだろう。部隊の中では珍しく同期で階級も同じこの2人がスクランブル対応のアラート任務に就く際には、交代でリーダー機を務めることになっている。
「キョウジュらしくないな、まぁ、そう熱くなるなって。空母から発進したスホーイじゃあ、那覇からの俺たちは間に合わないのは自明の理だ。仕方がないさ。。。」
酸素マスクの呼吸音に混じっていても分かる溜め息混じりの声から鳥谷部も落胆していることが伝わってくる。
「まさかあの空母が使えるようになっていたとはな。あん時の無線の録音お前も聞いただろ?土壇場で海自のパイロットがウチらがやるような領空侵犯の警告をしてるんだぜ、ロックオンされた警告が響くコックピットで。。。俺達が間に合わなかったばっかりに。。。
浜松のタンカー(空中給油機KCー767)さえこっちに回してくれてれば、俺達はこの空域で四六時中パトロールできるのに。。。あんなことにはならないのに。。。なぜやらないんだ。」
あいつもこういうところがあるんだな。。。
いつもは冷静な高山の苛立ちに鳥谷部は少し安心した。
いつもならば、熱くなるのは鳥谷部、それを冷静に諭すのは高山ということで那覇では有名なコンビだった。
「それこそ中国や韓国に気兼ねしての事なんだろうが。。。相手は使いこなせるかどうか分からない段階の空母まで持ってきてヤル気を見せてんだからな。遠慮しすぎだよな。」
なだめるように鳥谷部が語りかけた。
「そういうのを宝の持ち腐れっていうんだ。」
高山の吐き捨てるような言葉がレシーバーに響いた。
そろそろだ。。。周囲の警戒に配っていた目をレーダーの示す方向に向けてその空間を凝視する。下方に灰色の点が見えた気がした。一旦目をそらすと周囲に紛れて見失う。凝視を続ける鳥谷部の目に点が少しずつ大きくなり、陽光を反射し始めた。どうやら旋回を始めたらしい。
「キョウジュ!タリホーターゲット(目標を目視で確認)2時の方向、下方で旋回中」
「ウータン、こちらもタリホーターゲット」
即座に高山の弾んだ声が響いた。
「ELBOW01,Tallyho target.(こちらエルボー01目標を目視で確認した。)」
鳥谷部は司令部に報告すると、機体を右に反転させながら鋭く降下させ始めた。その操縦に機体が負けん気で必死に喰らい付いていくかのように翼端や背面がコントレール(飛行機雲の一種)を一斉に吐き出した。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹