小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

尖閣~防人の末裔たち

INDEX|156ページ/214ページ|

次のページ前のページ
 

-こちら、巡視船「ざおう」船長。航空観測はまだですか?-
船長と言うには貫禄のない甲高い声がスピーカーから飛び出す。
-今、「きんばと2号」が石垣を飛び立ったところです。キングエアなので30分弱でそちらに到着する予定。-
対照的な低い声がスピーカを震わせる。
-自衛隊へはもう連絡してくれたんですよね?-
-まだです。航空観測の結果を持ち帰って保安本部で判断します。-
「おいおい、それじゃあ陽が暮れちまうよ。なんで「あさゆき」が出しゃばってないんだ。梅沢らしくない。。。」
 倉田が突っ込みの言葉を発する。梅沢というのは、護衛艦「あさゆき」の艦長で、同期なんです。らしくないな~。まるで同期をかばうように首を何度も傾げる。出しゃばってでも海保と関わりをもって早めに状況を把握しておこう。それが現実を無視した法で縛られた我々にとって現場で素早く対応するための術だ。こんな状況で国を守らなければならない俺達は、海保だの海自だの言ってられないんだ。
と申し合わせてきた筈なのに。。。何やってんだ梅沢のやつは。。。
-なに呑気なこと言ってんですか!
 こっちは自動小銃で武装した集団が島を占拠してるって言ってるでしょ!ウチらじゃ手に負えない。特警隊を降ろしたヘリが離陸寸前に煙吹いて動けんままになってる。特警隊もヘリも無線が通じない。奴らに撃たれたに違いないんだ。そのうえ、それに気付いた中国の海警船が島に上陸しようとしてるんです。こっちは、それを喰いとめるので精いっぱいだ。-
 倉田の呟きを掻き消すように甲高い怒声がスピーカーを割らんばかりに震わせる。
「何だって?」
異口同音に驚きの声を上げて一同が目を合わせる。
-「きんばと2号」には本部の調査員も乗ってるから大丈夫です。迅速に判断できる筈です。中国海警船の阻止に全力を尽くして下さい。-
 それでも口調を変えることなく低い声が淡々とスピーカーから響く
-それが呑気だと言ってるんだ!早く武装勢力を鎮圧しないと中国が騒ぎ出すぞ!もういい!通信終わり!-
 大きな雑音と共に無線が沈黙した。
「何のんびりしてんでしょうね。確かに「ざおう」の船長が言うとおりだが、中国が騒ぐだけじゃすまんでしょうね。」
 倉田が溜息交じりに言う。
「そうですね、もっと危険な状態になるでしょうね。」
 権田が受けて呟くように言う。
「中国はこれを口実に尖閣に軍を派遣してくる筈です。まごまごしていると「日本の武装勢力が我が国の領土を占領した。」と言って中国軍に魚釣島の武装勢力が鎮圧される。」
 古川の静かな口調とは裏腹に拳に力が入る。なぜ河田さんは中国の思うつぼになるようなことをするのか?日本の防衛を憂いていた筈じゃなかったのか?
「なるほど、そして鎮圧後は魚釣島に居座る。」
 権田が古川の言葉の後を継ぐ。
「そうだ、そうするに違いありません。これまでも中国は口実を求めてウチらを煽ってきた。これは絶好の事案だ。
 しかしこれじゃまるで河田さんが中国に口実を与えているようなもんじゃないですか?何を考えているんだあの人は!」
 倉田が運転台に拳を打つ。
「そうだ、海自の動きはどうなんでしょう。いくらなんでも気付いてはいますよね?」
 古川の問いに、倉田は周波数を変え始める。
「これが我々がこの海域で使っている周波数です。」
 倉田が合わせた周波数からは、何も聞こえない。
「完全に沈黙してますね。」
 古川が言う。
「海自は何も掴んでないんですね。そりゃあこれだけ離れていれば分からないか。。。教えてやる方法はないですかね。」
 権田が顎に添えた右手で髭を擦り始めながら呟く。
「いや、違う。違いますよ。沈黙してるんじゃない。これを見てください。」
 倉田が無線機の小さなアナログメーターを指差す。メーターの目盛は左から全体の7割に渡って緑の帯があり、残りの3割が赤い帯になっている。つまり殆どが緑の帯で、右の一部だけ赤い帯になっていて、視覚的に状況が分かるようになっている。そして今、細い針が赤い帯の上で小刻みに揺れている。
「これは受信感度を示すメーターです。受信はしているんです。しかも相当強い感度です。これは、、、沈黙しているんじゃない。相当強い電波を出してますが、音声を流していない。」
「音声を流していないのに。。。どういうことですか?
 倉田の説明が権田には理解できていない。古川も同感に頷く
「つまり、大雑把に言うと、無線のマイクのスイッチは押しているのに、何も喋らないのと一緒です。」 倉田の噛み砕いた説明に一同、なるほど。と喜びの声を上げる。と次の瞬間、顔が曇る。じゃあ何故そんな事をする必要があるのか?
「要するに、この海域で海自の周波数は、電波妨害を受けているんです。誰が妨害しているのか。。。事は深刻です。」
 2人の疑問に先回りして答えた倉田に古川がタブレット端末を差し出す。
「もしかして、この意味不明だった船ですかね?護衛艦の近くのこの船」
 指差す古川に、倉田が大きく頷く。
「なるほど、そういうことか。いくらなんでも彼らは専門のECM(電子戦)兵器を持ってないでしょうからね、近付かないと妨害できない。我々も護衛艦もあの船に近い。しかし、なぜ護衛艦は、あの船に気付かないんでしょうね。」
「確かに。。。まず、この船に接近してみましょう。妨害電波を出しているなら。阻止しなければ。」
 権田が提案する。指で髭をじょりじょり擦りながら。。。この癖さえなければカッコいいんだけどな。昔思ったことと変わらぬ感想を古川は感じ、心の中で苦笑する。
「そうですね。急ぎましょう」
 倉田が船の速度を上げた。

作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹