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尖閣~防人の末裔たち

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 君達の勇敢な行動に敬意を表すると共に、このような不自由な扱いをしていることにこの島を管理する者を代表してお詫び申し上げます。しかし、我々は作戦中であり、油断は出来ない。我々は作戦を妨害するあらゆるリスクを排除する。よって、諸君には、今の現状を甘受してほしい。これはお願いでもあるが、警告でもある。諸君がこの状況を変えようと行動することは、即ち我々にとってはリスクである。その点を御理解いただき、ここでは自重してほしい。
 もう身をもってお分かりとは思うが、我々は元自衛官の集団だ。君達では手に負えない。軍人は動物で例えるなら狼だ。我々の場合は不幸な狼だが。。。
 長年、狼でありながら短い鎖に繋がれたまま広い庭を守る番犬の役割を果たし、庭を狙う他の狼に勝つための訓練をしてきた。犬のように大人しく繋がれていた。。。しかし、庭を狙う狼が本気を出したとき、鎖に繋がれた狼は、なぶり殺しにされてしまう。大事な庭も守れない。。。だから人一倍訓練に励んだ。くだらない鎖を恨みながら。。。愛する飼い主と家族を守るために。。。
 だから我々のような狼は犬にはなれても、君達犬は狼にはなれない。そして犬は狼には勝てない。無駄な戦いはしないことだ。今は、君達自身の命を大事にしろ。」
 河田は、1人ひとりの顔を覗き込むようにゆっくりと語りかけるように言うと、踵を揃えると全員の表情を確かめるように敬礼をしながら左右に顔を向け終えると、敬礼をする迷彩一色の部下達に答礼をしながら颯爽とテントを出て行った。

 反抗的な目だ。
 見回した海保隊員の目はどれも怒りに燃えていた。
 それでいい。その怒りをこの国を守る原動力にしてくれるなら。しかし、この場でその怒りをぶちまけてくれるなよ。。。君達だって防人だ。愛すべき国を、そこに住まう人々を守る尊い存在なのだから。しかも、「平和主義」という名の世間知らずな国防政策の歪みを一手に担わされ、常に第一線で苦汁を舐めさせられている君達を。。。
 できれば殺したくない。。。。
 だから大人しくしているんだ。悔しいだろうが身の程を知り、状況に身を任せるんだ。厳しい訓辞をしたが、それが言いたいだけだ。無駄死にはするな。
 テントを出て、感慨深く海を眺める。白い巡視船が間近に見え、警告を繰り返している。もう異変に気付く頃だ。
「長官。「しまかぜ」の「鷹の目」をキャッチしました。「おおよど」に向かっているようです。」
迷彩服は着ているが顔は塗っていない隊員が河田に駆け寄った。本部テントのシステム要員だ。
「そうか。。。出港したか。しかし、なぜ「おおよど」に向かっているんだ。」
 「おおよど」は、護衛艦付近に配置した漁船だ。なぜそこに「しまかぜ」が向かっているのか?「しまかぜ」は、その快速を活かしてこちらで巡視船を攪乱するために使う手筈になっているのだが。。。田原は何をやっているんだ?河田の表情が曇る。
「その「しまかぜ」ですが、無線の呼び掛けに一切応答してません。。。」
 システム要員が残念そうな表情で河田の疑問に答えた。

作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹