小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

尖閣~防人の末裔たち

INDEX|152ページ/214ページ|

次のページ前のページ
 

航空機の火災の恐怖を刷り込まれている「うみばと」のクルーは、機体から離れることが何よりも優先されることを本能として身につけていた。土屋と磯原は、呆気にとらわれている特警隊員を引っ張って走る。1人だけ救出に成功した彼は、果たして運がいいと言えるのだろうか、土屋が、その場に合わぬ苦笑いを、特警隊員に向けた。
 不思議と撃たれることなく安全な距離まで走りきった。
「よし、いいだろう。」
 銃を持った男達がまるで目に入っていないかのように、浜田が息を切らしながら声を上げる。
 案の定、「うみばと」の機体上部に設けられたエンジン部分に小さな穴が数カ所開いており、白い煙が薄い筋をくゆらせている。やはりオイルが焼けたのだ。相当な温度になったに違いない。
 冷静に状況を判断し終えると、入れ替わるように浜田の心を怒りが支配の手を広げ始めた。
 畜生。こいつら、また撃ちやがった。。。
 
「両手を頭の上に!」
 浜田達が立ち止まるのを待っていたかのように、顔まで迷彩色に塗りたくった男達に自動小銃をまっすぐに向けられる。浜田達が両手を高く上げると、銃を向けた姿勢のまま小走りに駆け寄ってきた。
「お前らよくも」
浜田は駆け寄ってきた男を睨んだが、男は気にもとめずに銃をわずかに振り、
「向こうを向け。」
と吐き捨てるように命じた。
 浜田は大人しく従うしかなかった。

 午前9時30分。南洋の陽は既に高く昇って万物を容赦なく照らす。見渡す限り何も見えない海原にtだ1隻浮かぶ「しまかぜ」の白い船体が眩しく陽光を照り返す。
「予定通りです。海図にあった印まで30分程度の場所にいる筈です。ナビがあればな~。」
眩しそうに目を細めながら車のハンドルのように素っ気ない舵輪を倉田が片手で握る。
「確かに、陸の上は相当便利になってますからね~。」
 同じく目を細めて水平線を見張る古川が言葉を返す。
 あ、あのキャビンのテーブルに置いてあったサクセス7になら河田さんが使っていたようなシステムが入っているかもしれない。なんでもっと早く気付かなかったんだろう。
 エアコンの効いたキャビンに入った、古川は汗の冷える心地よさもそこそこにWindowsタブレット端末サクセス7のスイッチを長押しして電源を入れた。
「やっぱりな」
 起動画面に続いて現れたロック画面を見て思わず溜息が出る。スイッチを1度だけ押して画面を消して浅く、深く角度を変えながら画面表面の汚れを見るが、綺麗に掃除されている画面に手垢などの汚れはなく、ロック解除の手掛かりは見えない。
 あれと同じだといいが。。。古川は、以前、隙をみて使った河田のタブレットのロック解除を試してみた。確か左からL字を描くようになぞった筈だ。あの時はしっかりと指でなぞった皮脂が残っていた。同じだといいが。。。
「イエスっ」
 思わずガッツポーズが出る。
 画面が別な表示に変わり、処理中のアイコンがせわしなく動いている。何かのソフトを起動しているらしい。スタートアップで何かを起動するようにしているらしい。
ほどなくして
「鷹の目を起動中につき操作禁止。。。」というメッセージが画面の中央に赤字で表示される。好奇心が焦りに打ち勝ちじっと待つこと数十秒で画面が真っ暗になり、中央に「DD132」というコメントを添えられた船をイメージした白い輝点が表示される。西には尖閣諸島の、東には石垣島など南西諸島の島の輪郭が白い線で描かれている。他の輝点は、船舶や航空機だろう。DD132と同じようににコメントを添えられている輝点も幾つかある。
「DD132ってことは、「あさゆき」か。。。やっぱりそういうことか。」
 画面の中央がDD132ということは、やはりこの船じゃない。そもそもこの船にはレーダーのようなモノは装備されていない。あの時と同じだ。つまり。。。
 
 このシステムはDD132つまり海上自衛隊護衛艦「あさゆき」のCICを映し出しているんだ。
 
 だとすると、この船は石垣島と「あさゆきの」間にある輝点だろうな。多分これだ。さすが倉田さん、予定通りだ。そして「あさゆき」に寄り添うようにあるこの輝点が、例の河田船団のうちの「不可解な1隻」だろう。海図と違うのは護衛艦が1隻しかいない。ということだけだが、これは、当然だ。この海域にいるべきだったもう1隻、、、護衛艦「いそゆき」の艦長である倉田2佐が艦を降りた今、代わりの艦長がすぐに着任したところで2、3日の間に前線に出すなんて無茶はしないだろう。
 それにしても、この船、、、護衛艦に寄り添うように漂う輝点、、、何をしているのだろう。距離的には目視されない程度に離れているのだろうが、何の目的があるんだろうか?
 護衛艦の監視?何のために?
 CICを傍受するために?他の護衛艦や遠く離れた陸上の司令部と無線でリンクされているくらい強力な電波、あるいは長距離通信がしやすい周波数帯を使っている筈だ。いずれにしても長距離を飛び交う電波だ。離れていても可能だろう。。。 
 では、何故?。。。いや、そんな場合じゃない。
 理論が噛み合わず答えの出ない堂々巡りは、想像の域を超えることはない。時間の無駄だ。気にはなるが現状を把握するのが先だ。
 古川は、気持ちを切り替えると、タブレットを手にとってキャビンから出た。

 後ろに回された両手首を堅くロープで結ばれ、同じように両手首を後ろ手に縛られた「うみばと」のクルーや特警隊員の手首のロープと長いロープで結ばれた男達が濃緑色で屋根に雑草をまとったネットで偽装されたテントに連れてこられた。
「あ~あ、海保御一行様って感じだな。」
 テントと同じような濃緑色のマットに座らされた浜田がおどけて見せる。真夏ではあるが海風が吹き込む日陰は快適だ。少しきが緩んだ隙にクルーを元気付けようとしたが、失笑すら漏れなかった。
「すまない。」
特警隊長が思い詰めた表情で呟く。
「いや~。こいつらが相手じゃ、ウチじゃ無理でしょ。」
浜田が努めて明るい声を出す。だが内心、心臓が破裂しそうに暴れている。
「静かにっ。きちんと座ってろ。」
見張りの迷彩顔が睨む。塗られた顔は表情が分からず凄みが今ひとつ伝わらない。
「だとさ、」
さらにおどけてみせる浜田に銃を向ける。さすがの浜田も顔が引きつった。
「海保はそんなにだらしないのか?」
見張りの男が値踏みするように言う。
「相手によるさ!」
この野郎!よくもっ、怒鳴りたい気持ちを抑えて言うと浜田は迷彩顔から目を逸らした。

「敬礼っ」
 テント入り口に立っていた迷彩顔が、凛とした声を上げると。「海保御一行様」も、釣られて敬礼をしそうになり、全員背筋を伸ばしたところで辛うじて動作が止まった。
 さっきまで浜田と言い合いをして悪態をついていた迷彩顔も背筋を伸ばして入り口に向かって敬礼をする。
テレビで見た顔が笑顔で答礼しながら横一列に並ばされた浜田達の前に来る。
「海上保安庁の諸君、御苦労様でした。私はこの島の責任者となった河田と申します。この島は現在我々の管理下にあります。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹