尖閣~防人の末裔たち
次の命令は、「照準」だ。「照準」即ちロックオンを掛けることである。照準命令によりレーダー誘導のシースパローの誘導電波を目標に当てれば、中国戦闘機には、Tida-03と同様に警報が流れ、上手くいけば中国軍パイロットを恐怖に陥れて、Tida-03への攻撃を諦めさせることができるだろう。しかし、「海自の護衛艦がロックオンした」という事実は報告され、国際問題に発展する恐れがある。倉田は、次の命令を出すか迷っていた。しかしこのままではTida-03が撃墜される可能性がある。背に腹は代えられない。昇護の為に犠牲者を出す訳にはいかない。
「よしっ、シースパロー照。。。」
倉田が命令を言い終えないうちに、
「中国軍機、離脱します。」
三田が倉田の命令を打ち消すように大声で叫ぶ。
喚起にも似た声がCICに響く
倉田は、一瞬呆気にとられたが、
「シースパロー、別命あるまで、準備のまま待機。レーダー監視を継続」
CICに安堵の声と溜息が溢れる。一瞬の間の後、どこからともなく拍手が起きた。
倉田はマイクを置くと、ゆっくりと目を閉じてあらゆるものに感謝をした。
テロップが流れてから数分後だった。
「中国側の各種無線が、一斉に帰還命令を出し始めました。」
無線を傍受していた船員が信じられないといったふうに声を挙げた。
小窓から外を見ると、中国海警船が増速して前に出ると1列に隊列を組み始めた。
無線台の方を振り返った古川に河田が笑顔で握手を求めた
「テロップが効いたんですよ。中国は敏感ですね。「ペン」の勝利ですね。おめでとう!」
河田の声が、古川の胸に響く。
「ありがとうございます。」
古川は力強く河田の手を握り返した。
作品名:尖閣~防人の末裔たち 作家名:篠塚飛樹