小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話

INDEX|5ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 



 「生意気を言うんじゃないよ。
 肩上げとおはしょりには、親の愛がこもっている。
 子供の成長に合わせて着物のサイズを調節するのが、肩上げとおはしょりだ。
 すこやかに育ってほしいという願いを込めて、ひと針ひと針縫いあげる。
 肩上げを外す日は親にとって寂しい日になる。
 もうこれ以上、おおきくならないことを、認めることになる日だからね。
 たとえ1センチでもいいから親は、子供の成長を願う。
 それがおはしょりと、肩上げさ」

 『ほら。たまが居ました』若女将が立ち止まる。
老舗旅館の裏手の路地だ。
食事中のたまと、それを見守っている板長の姿がそこに有る。
板長の鋭い目が若女将と、うしろに隠れている清子の様子を振りかえる。
食事中のたまも気配に気がつき、頭をあげる。

 たまの小さな頭が、面倒くさそうに振り返る。
『なんだ。清子か・・』フンと鼻を鳴らし、ふたたび食事にとりかかる。

 「ここで、板長をしている銀次さんです。
 見た通り、顔も怖いが性格も荒い。曲がったことが大嫌いなお方です。
 高価な盆栽の松だろうが、気に入らないと真っ直ぐに
 伸ばしてしまうそうです。
 おまえもこれから、この湯西川で仕事するんだ。
 丁重にご挨拶をしておきなさい。
 お前の大切な未来が、かかっているからね。
 この子猫以上に可愛がってもらえるかどうかの、大事な瀬戸際です。
 うふふ」

 「おいおい、若女将。まいったねぇ。
 根拠もなく、子どもを脅かすんじゃないよ。
 見ろ。本気にしてるじゃねぇか。怯えた顔をしているぞ。
 おう。お前。食い物に、好き嫌いがあるか?。
 嫌いなものが有るのなら、今のうち、ぜんぶ俺に白状しておけ。
 湯西川の旅館全部に『清子はこれとこれが嫌いだから、
 絶対に出すんじゃねぇ』
 と回覧を出してやる。
 どうだ。有るのか無いのか、食い物で嫌いなものは」

 「お母さんが好き嫌いは言うなと、日頃から厳しく申しております」