赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話
「生意気を言うんじゃないよ。
肩上げとおはしょりには、親の愛がこもっている。
子供の成長に合わせて着物のサイズを調節するのが、肩上げとおはしょりだ。
すこやかに育ってほしいという願いを込めて、ひと針ひと針縫いあげる。
肩上げを外す日は親にとって寂しい日になる。
もうこれ以上、おおきくならないことを、認めることになる日だからね。
たとえ1センチでもいいから親は、子供の成長を願う。
それがおはしょりと、肩上げさ」
『ほら。たまが居ました』若女将が立ち止まる。
老舗旅館の裏手の路地だ。
食事中のたまと、それを見守っている板長の姿がそこに有る。
板長の鋭い目が若女将と、うしろに隠れている清子の様子を振りかえる。
食事中のたまも気配に気がつき、頭をあげる。
たまの小さな頭が、面倒くさそうに振り返る。
『なんだ。清子か・・』フンと鼻を鳴らし、ふたたび食事にとりかかる。
「ここで、板長をしている銀次さんです。
見た通り、顔も怖いが性格も荒い。曲がったことが大嫌いなお方です。
高価な盆栽の松だろうが、気に入らないと真っ直ぐに
伸ばしてしまうそうです。
おまえもこれから、この湯西川で仕事するんだ。
丁重にご挨拶をしておきなさい。
お前の大切な未来が、かかっているからね。
この子猫以上に可愛がってもらえるかどうかの、大事な瀬戸際です。
うふふ」
「おいおい、若女将。まいったねぇ。
根拠もなく、子どもを脅かすんじゃないよ。
見ろ。本気にしてるじゃねぇか。怯えた顔をしているぞ。
おう。お前。食い物に、好き嫌いがあるか?。
嫌いなものが有るのなら、今のうち、ぜんぶ俺に白状しておけ。
湯西川の旅館全部に『清子はこれとこれが嫌いだから、
絶対に出すんじゃねぇ』
と回覧を出してやる。
どうだ。有るのか無いのか、食い物で嫌いなものは」
「お母さんが好き嫌いは言うなと、日頃から厳しく申しております」
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話 作家名:落合順平