赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話
「なんだい、お前。
芸妓見習いのくせに、踊りが苦手だというのかい?」
「いいえ。覚えることが・・・・子供の頃から、人様より、
少しだけ遅いだけです。すんまへん」
「生意気を言うんじゃないよ。
肩上げにお端折りの着物とくれば、それだけで誰が見ても子供じゃないか。
お師匠さんに怒られたあげく、愛想つかされるのでは気の毒だ。
ついておいで。心あたりを探してあげよう」
宇都宮から嫁いで来て、1年。
美人で知られる伴久ホテルの若女将が、『たまが居るのは、こっちだよ』
と清子を手招きする。
旅館街の裏路地を、若女将が先に立って歩いていく。
たまを探す目とは別に、ときどき若女将の目がうしろを着いてくる清子を
興味深そうに振り返る。
「当てずっぽうに駆け回っても、疲れるだけです。
たとえ日が暮れても、イタズラ盛りの子猫は、あんたには捕まりません。
おや、お前。
まだ肌寒い時期だというのに、足元は素足のまんまかい。
粋で知られる辰巳芸者の春奴姐さんは、さすがに手加減しませんねぇ。
へぇぇ。あんた。もう座りタコができているねぇ。
ひと月足らずで足に座りタコをつくるとは、たいしたもんだ、お前も。
根性だけはありそうだね。うっふっふ」
(2)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話 作家名:落合順平