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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話

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 『なんだよ。まだ何か俺に用事があるのか?』たまが振りかえる。
『あっ、雑巾だ。まずい、大嫌いなんだ!。そいつは。やばい!』
あっという間にたまが向きを変える。
駆けてくる清子の足のあいだをすり抜けて、トントンと階段を
駆け上がっていく。

 『素早いなぁ。ああ・・・汚れた足のまま逃げられてしまいました。
追いつけませんね、早すぎて。これもまた、いつものことなのですが。うふっ』
ため息をもらした清子が雑巾を握り締めたまま、階段の下で立ち尽くす。
階段の上からたまが、そっと顔を出す。
『へへへ・・・お前がとろすぎるからだ。気が付くのが遅すぎや。
油断し過ぎだな』
フンとたまが、鼻でせせら笑う。

 「清子かい。いいから、やんちゃ子猫は放っておき。
 お昼の支度はできていますから、はよ食べて、舞のお稽古に出かけなさい」

 「すいません、お母さん。
 たまを捕まえるのに手間取りました。
 本日は、お昼のお当番ができませんでした。
 そのぶん明日、頑張りますので、今日は大目にみてください」

 「私も清香のところへ、出稽古にまいります。
 お互いに都合を抱えています。
 ついでに作っただけですから、どうこうありません。
 それよりもお前。伴久の若女将と板長の銀次親方に、失礼は
 なかったでしょうね。
 ドタバタと駆け出していったものですから、途中でみなさまに
 迷惑をかけないかと、
 それだけを心配しておりました」

 「いいえ。何もありません。
 若女将に会いましたがいつものように、ニコニコしておりました。
 お母さんにくれぐれもよろしくと言付かりました。
 あっ・・・銀次親方から、好き嫌いはないかと聞かれました。
 ですが別にありませんと、教えられた通り、答えておきました」

 「ならばよろしい。わたしは先に出かけます。
 いつものように戸締りをして、お前も稽古へ出かけなさい。
 1人で食べることになりますが、いつものようによく噛み、
 しっかり食べなさい。
 では、先に出かけます」

 清子は、出かける時のお母さんを見るのが、大好きだ。
春奴はまもなく60歳になる。
いまだに代名詞の、黒い羽織を粋に着こなしている。
シャンとした背中に、女の色香がただよう。
清子が芸者になると決めたのは、実は、春奴との鮮烈な出会いに有った。