赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話
その日。清子は、修学旅行で日光へ来ていた。
最初の見学地の二荒山神社。
杉木立の参道で、春奴たちの一行と出会う。
年に一度。二荒山神社へ、花街の女たちがお礼詣りにやって来る。
清子はその偶然に、出くわした。
女たちは、凛としている。
匂いたつような色香。綺麗な着物。
すべてが一瞬で、清子の心臓をワシつかみにした。
清子の目の前を、6人の芸妓を引き連れた春奴が、さっそうと通り過ぎていく。
その瞬間。『芸妓になりたい!』という衝動が清子の全身を駆け抜けた。
この日の清子の決意が、湯西川温泉に20年ぶりの赤襟を誕生させる
ことになる。
『1人で食事を済ませなさい』という春奴の言葉を聞きつけたたまが、
2階から、忍び足で降りてくる。
清子がひとりで正座している。ちゃぶ台に向かって食事をはじめている。
『ニャァ』とたまが、清子へ呼びかける。
『おいで』と清子が、味噌汁の茶碗から丸ごとの煮干を取り出す。
『熱いから、待っててね』と口にふくむ。
汁気を吸い取ったあと、膝にひろげたハンカチの上に煮干しを置く。
『よっこらしょ』とたまが、清子の膝の上に這い上がる。
『なんだよ。やっぱり煮干かょ。ここん家の食事は、質素すぎるからなぁ。
まぁいいか。清子からのせっかくのプレゼントだ。
贅沢は言えねぇや・・・、御相伴にあずかるか』
煮干しの匂いに、たまが目を細める。
(6)へつづく
作品名:赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話 作家名:落合順平