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赤襟の清ちゃんと、三毛猫のたま 1話~5話

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 「女はねぇ、おとなになると男に恋をする。
 こころからその人のことを好きになると、無性にその人の子供を
 産みたくなる。
 それが女という生き物なのさ。
 そういう想いをあたためながら、女はみんな、大人になっていくんだよ」

 「ふ~ん。それで女将さんは、いつみても、幸せそうな顔をしているんですね。
 ではもう、赤ちゃんがはじまったのですか!」

 たまの小耳が、ピクリととまる。
困った顔を見せた若女将が、ふたたび、清子の瞳を覗き込む。

 「お前は本当に、綺麗な目をしている。
 一点の曇りもない、きれいに澄んだ瞳だ。うらやましいほどきれいだね。
 あんたはまだ15歳。
 だけどあたしは、まもなく30歳だ。
 あんたと同じくらいの年頃のときは、お前と同じ目をしていた。
 でもね。簡単じゃないんだ、世の中というやつは・・・
 あっ・・・15歳の子供を相手に、愚痴をこぼしても始まらないねぇ・・・・
 何を言ってんだろ。バカですね、あたしったら」

 「若女将も大変なんですねぇ。なにかと悩みが多くて・・・」

 たまの小耳が、ふたたびピクピクと動く。
ふふふと笑いはじめた若女将が、懐からちいさな袋を取り出す。
『口をあけてごらん』清子にむかってほほ笑みかける。
袋の中から、ピンク色の飴玉をひとつつまみ出す。そのまま清子の目の前に
かざして見せる。
釣られたたまがあわてて、小さな口を開ける。

 「ふふふ。お前じゃないよ、たま。生意気だねぇ、子猫のくせに」

 ポンと飴玉をひとつ、清子の口へ放り込む。

 「残りは、持っておいき。
 宇都宮の老舗で買ってきた飴玉だ。
 用事で出かけたついでに、買ってくるのさ。
 子供の頃から大好きだった飴です。
 哀しいことがあってもこいつを舐めていると、みんなきれいに忘れちまう。
 お前の瞳を見ていたら、あたしの小さかった頃のことを、
 いろいろ思い出しました。
 何かあったら訪ねておいで。
 わかるだろう、あたしのいるホテルは?」

 「はい。平家落ち人ゆかりの伴久ホテルです。
 あたし。ここへやって来た時から、若女将に憧れていました。
 着物姿を見た瞬間から、ときめいていました。
 だっていつも、背中姿が、とっても素敵に見えるんですもの」

 「おや。素敵に見えるのは背中だけかい。
 それじゃ聞くけど、あたしを前から見たら一体どうなるの?」

 「はい。美しすぎて、心臓が、口から飛び出してしまいます。
 頭の先から足の先まで、隙のない着物姿が、とっても刺激的です!」

 「うふふ。生意気なことを平然という変わった娘だねぇ。お前って子も。
 なんだかあたしまで、あんたのファンになりそうだ。
 気をつけて帰るんだよ。
 春奴お母さんに、よろしく伝えてね」

 じゃあねと若女将が、背中を向ける。
その背中へたまが、ニャァ~と甘えた声を投げかける。

 「おや。見送ってくれるのかい、たま。
 でもね。女同士の会話に、男のお前は出しゃばってこないの。
 無理か・・・・子猫にそんなことを言っても。
 歩くたびに迷子になっちまう子猫に、女の心理なんか理解できないよね、絶対に。
 うっふふ。また会おうね。ね、たま。清子」

(5)へつづく