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心霊探偵☆藤村沙織の事件簿

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 話はこうだ。
 二年ほどまえ、少年の家族が暮らす家の向かいに病院が建った。五階建ての総合病院で、調剤薬局なども併設している立派なものだ。昼間は多くの患者がおとずれるが、夜の十時を過ぎるころには入院棟の明かりも消され、なかはひっそりと静まり返る。ちょうど彼の部屋からは、市道をはさんでその病院の裏口が見渡せた。
「ある夜、受験勉強をしながらふと窓のむこうへ目をやると、裏口に女の子が立ってるんです。おかっぱ頭で、うす緑色の検査着みたいなやつを着ていました」
 その女の子はしばらく敷地内をウロウロさまよってから、市道のほうへ出てきた。途方にくれたみたいに、あたりをぼんやり見回している。
「なにしてるのかな……って見てたら、とつぜんスーッと消えたんです。見間違いじゃありません、本当に霧のように消えてなくなったんですよ」
 その日以来、二ヶ月か三ヶ月に一度の割合で幽霊が現れるのだという。幽霊は子供のときもあれば、若い女性のときもある。みな一様に途方にくれた様子で、病院の周辺をさまよったあげく最後には消えてしまうらしい。
「……なんとなく、あの病院で亡くなった患者さんのような気がするんですよね」
 彼は引きつった顔でそう言った。わたしはテーブルの紅茶をすすめてから、訊ねてみた。
「でもきみ、それを調べてどうするつもり?」
「じつは、ぼくの妹が小児喘息で東京にある病院へ通ってるんですけど、せっかく近くに大きな病院ができたのだから、そこへ転院させようって親が言うんです。だけど患者が死ぬような病院なら妹を通わせるのは心配ですし……。もちろん幽霊のことは親にも言いました。でもまったく相手にしてもらえなくて」
「それで、うちが調査した報告書を見せて親を説得しようというわけね」
 コクンとうなずく。
 正直やりたい仕事ではなかったが、幽霊が出るという病院にはちょっとだけ興味がある。それに幸か不幸か、今ものすごくヒマであった。
「いいわ、やってあげる」
「本当ですか」
 喜んだあとで、彼は恐るおそる長封筒をさし出してきた。
「ぼく、こういうのって費用がいくらかかるか分からなかったんで……これじゃ足りませんよね?」
 封筒のなかには一万円札がきっかり十枚入っていた。もちろん不足だが、中学生にとっては大金だ。きっと苦労して用意したに違いない。わたしはそのなかから三枚だけ抜き取ると、あとは彼に返した。
「残りは成功報酬として、調査が終わってからあらためて請求させていただくわ。心配しないで、うちは明朗会計よ」
「あ、はい」
「それに学割はきかないけど、きみの妹思いな優しさに免じて、安くしてあげる」
「ありがとうございます」
 ホッとしたような顔で封筒をカバンへしまい、立ちあがってペコリとおじぎをした。
「それじゃ、あの、よろしくお願いします」
「引き受けたからには、きっちり調査させてもらうわ。大船に乗ったつもりで、お姉さんに任せなさい」
「え……お姉さんって?」
 少年はキョトンとした。ドアの向こうで沢田くんがプッと吹き出す。
 きみたちバケツ持って廊下に立ってなさい。