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戒厳令都市デタトンの恐怖

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「お前には、最近イネンシ王国のロギンチ大臣が主催する拷問道具発明コンテストで特選に選ばれた拷問器具「ポンプ・ステッパー運動マシン」に乗っかって貰うとするか」
マッタール大臣が身体を揺すって笑いながら言った。
「このマシンは、拷問発明家の監獄アスリート、エクサ・マシーン女史が発明した拷問器具である。ステッパー運動をする事でポンプが動いて、水をくみ出すことが出来る。この拷問器具に掛けられた人間は、入れられた水槽の中に、間断なく注ぎ込まれる水をステッパーマシン運動と連動したポンプで汲み出さなければならない。何故なら、ステッパー運動をしなければ、間断なく注がれる水によって水槽の中で溺死する仕掛けに、なっているのである」
 ロード・イジアが酷薄な笑みを浮かべてミリシンの肩を叩いて言った。
「どうだ、ミリシン。水は好きか?」
 マッタール大臣が言った。
「水が嫌いなら、一生懸命ステッパー運動を、しなければ、ならないのである」
ロード・イジアが言った。
 「さあ、ミリシンを連れていくのだ」
 兵士達にミリシンは捕まった。
 ミリシンは叫んだ。
 「助けてぇえええええええええ!」
そして、その声は虚ろなロード・イジア要塞に何時までも木霊していた。

テレビではニュース番組をやっていた。
 女のアナウンサーがテレビ画面の中で言った。
「デタトン製薬のミュータント問題は、まだ解決の目処が立っていません」
 スカイ達は宿屋「五本足」でフラクター製の一〇〇インチのテレビを見ていた。最近の宿屋は何処でも、下の食い物屋にフラクターのテレビが付いているのが常識だった。
テレビの画面では、ロールの付いた髪を結い上げた女のアナウンサーが出ていたが、この辺はバーミリオン大公国のため、スカイはアナウンサーの顔と名前を知らなかった。
 スカイは言った。
「いやあ。俺達が、ロード・イジア要塞で仕事している間にカタが付くかと思っていたがよ。結構時間掛かっているようじゃねぇかデタトン製薬のミュータント問題は」
スカイはパンに目玉焼きと、分厚い生ハムを挟んで食べていた。
 マグギャランは言った。
「まあな、スカイ。俺達は関わらない方が良いぞ。水を飲んだ、だけでミュータントになるという酷い話だ」
 マグギャランは器用にナイフとフォークを動かして目玉焼きを切りながら食べて居た。
 スカイは言った。
 「そうだな、今は大金が手に入ったから、こんな危険な仕事を引き受ける必要は無いよな」
スカイ達は小イジアのラブレターをポロロン・アッパカパーに届けて多少のハプニングも在ったが報酬の二百五十ネッカー(二千五百万円)を一人ずつ銀行に振り込んで貰っていた。つまり懐は暖かく、こんな危険な仕事をする必要は何処にもなかった。
 コロンはボソリと言った。
 「……普通は、こんな事件は起きないはず」
 コロンがロール・パンを両手で持って囓るように食べていた。
マグギャランは言った。
「排水か何かに錬金術で使う薬品が混じったんだろう。そうして巨大ゾウリムシが発生したっていう話だコロン」
コロンは言った。
「……でも、普通の錬金術の薬では、こんなミュータントは誕生しないはずなの」
 スカイは言った。
 「まあ、俺達には関係ないよな」
マグギャランは言った。
 「コモン共通の錬金術士の一級免許を持っているコロンが言うのだからそうなのかもしれないが。取りあえず、水道の水には注意せねばならない」

 ロマシク・ボンドネードは携帯電話の向こうのミドルン王国のガミオン大臣に向かって頭を下げていた。ロマシク・ボンドネードは偉い人間に対しては腰が非常に低くかった。 ガミオン大臣は携帯電話の向こうで言った。
「ロマシク。どうなのかね、デタトンの状況は。良くない噂ばかりが伝わって来るではないか。戒厳令を解くわけにはいかないのかね。各国のマスコミがね。動き出して居るんだよロマシク」
ロマシク・ボンドネードは携帯電話に言った。
「いやあ、すいません。私も努力しているんですよ」
ガミオン大臣は携帯電話の向こうで言った。
 「ロマシク。困ったことにね、外国のマスコミが突撃取材を敢行して、デタトンに向かっていって、河から出てきたカイマン男軍団に噛みつかれて食い殺される惨たらしい映像がコモン中に流れてしまったんだよ。もはや箝口令も意味を成さない。確かヒマージだったかな」
ロマシク・ボンドネードは携帯電話に言った。
 「ええ、私も把握して、おります。ヒマージのタイダーテレビのテレビクルーの遺体を我々、デタトン問題対策委員会は発見して回収しました。まあ、肉片しか残っていない惨状だったそうですが」
 ガミオン大臣は携帯電話の向こうで言った。
「ロマシク。とにかくね、不味い状況なんだよ。こんな事が、起きてはね、大公国間の調整が上手く行かなくなるんだよ」
ロマシク・ボンドネードは携帯電話に言った。
それは、ロマシク・ボンドネードは薄々は感づいていた。ミドルン王国には、クリムゾン、バーミリオン、カーマイン、スカーレットの四つの大公国があった。それぞれの大公国は独立性が強かったのだが、同時に結びつきも強かった。政治的な圧力をミドルンの政治中枢に掛けるだけの力が在った。
 ガミオン大臣は携帯電話の向こうで言った。
「ロマシク。私も、今からデタトン対策の為にフラワー・ビレッジへ向かうよ。それだけ、今回の事態は重く見られているんだよ」
 ロマシク・ボンドネードは携帯電話に言った。
 「判りました。謹んで、お待ち申し上げます」
 ロマシク・ボンドネードは怪訝に思いながら言った。まさか、ミドルン王国の実権を握る、最高権力者であるガミオン大臣まで、このフラワー・ビレッジまで来るとは、どういうことなのか。ロマシク・ボンドネードは、このミュータント騒ぎが、ただの事件では無いことを薄々感じ取っていた。
 どうするべきか。
 ロマシク・ボンドネードは考えていた。

スカイ達三人はツルッペリン街道に繋がる田舎道を歩いていた。
スカイの携帯電話が振動した。
 スカイは赤と黒の虎模様の携帯電話を取りだした。
 スカイは携帯電話に言った。
 「はい、スカイ・ザ・ワイドハート」
 ニーコ街の受付嬢が何時もと同じ事務的な無愛想な声で携帯電話の向こうで言った。
 「ミドルン王国クリムゾン大公国ニーコ街の冒険屋組合です」
スカイは携帯電話に言った。
 「何の用だい。仕事かよ」
 ニーコ街の受付嬢が携帯電話の向こうで言った。
 「いえ、違います。W&M事務所に取り次いで欲しいと若い娘から連絡が入っています。知り合いかどうか、確認をするために連絡を入れました」
スカイは携帯電話に言った。
 「誰だい」
 若い娘と言われてもピンと来なかった。 
ニーコ街の受付嬢が携帯電話の向こうで言った。
 「ポロロン・アッパカパーと名乗っています」
 スカイは携帯電話に言った。
 「はあ?ポロロン・アッパカパー?」
 スカイは怪訝に思った。
 マグギャランが言った。
「どうしたスカイ」