小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

戒厳令都市デタトンの恐怖

INDEX|4ページ/59ページ|

次のページ前のページ
 

「ええ、私もテーブルの下で聞き耳を立てて策を考えていました」
マッタール大臣は言った。
 「ほう、どのような策であるのか」
 レディ・イジアは言った。 
 「我が息子を、たぶらかすアッパカパーの雌ギツネめには、当然、屈辱と汚辱に、まみれた死を与えなければ駄目です」
ロード・イジアは言った。
「我々にしても、それには、やぶさかではないが。方法がイマイチ判らないのだ」
 マッタール大臣は言った。
「そうなのである、目的と結論は在るが過程が見えないのである」
レディ・イジアは言った。
「私に策があります。アッパカパーの雌ギツネは、我が息子を、たぶらかしただけでなく、イジア国の他の男達をも次々と、たぶらかす魔性に女に仕立て上げるのです。その上で殺す」
レディ・イジアが自分の首を開いている手で横に引いた。
 ロード・イジアは言った。
 「なるほど、確かに、それならば、我が息子だけに責任が回らなくなる。責任の行方はイジア国の他の男達も含めた連帯責任へと変わっていく」
 マッタール大臣は頷いて言った。
「なおかつ、ポロロン・アッパカパーの邪悪さが浮き彫りになって、我々の大義名分は守られるのである」
レディ・イジアは言った。
「そして、もし、そのような姦通の淫婦の罪状を突きつければ我が息子の目も覚めるでしょう」
 マッタール大臣が陰鬱な顔で言った。
「確かに、それならば百年の恋も興醒めになるのである」
 ロード・イジアは陰鬱な顔で言った。
「それでは決まりかな」
ミリシンの頭の中で最悪のシナリオが動き出した。
 ポロロン・アッパカパーはイシサ聖王国のアッパカパー伯爵家の娘であって、処刑などしてしまったら。当然アッパカパー伯爵は、目と鼻の先にあるイジア国に戦争を仕掛けるであろう。
そして、その戦争がイジア国とアッパカパー伯爵家の間の争いで終わるのなら、まだ良いが。万が一、ミドルン王国とイシサ聖王国の全面戦争に発展して、しまったら、どうするのか。
 ミリシンの胃が痛み始めた。
 キリキリと痛み始めた。
どうしょうもなく、いつにない酷さで痛み始めた。
 ミリシンは胃薬を取りだした。
 そして首にぶら下げたペットボトルに入った「イジアの秘水」で飲み干した。
 ロード・イジアが虚ろな声で言った。
 「またか、ミリシン。マメだな」
 マッタール大臣が虚ろな声で言った。
「そうなのである」
 その時、ミリシンは何か、何時もと違うことに気が付いたが。何が違うのか考える前に、胃の痛みが激しくなったために忘れてしまった。何とかしなければ駄目だ。何とか…戦争を回避しないと駄目だ。ミリシンは胃痛の痛みの中で戦争を回避させる方法を考えていた。

ポロロン・アッパカパーの部屋の前には座ってトゲの付いた鉄球を持って居る中年の筋肉質のメイドが二人居た。
 そして地べたに座って、あぐらをかいてタバコを吸っていた。
ミリシンは買収した、若い肩幅の広いメイドに合図を送った。若いメイドはタバコを吸っている、中年のメイド達に夜食を持っていった。
 そして中年のメイド達は夜食を食べると、持っていた鉄球を落として壁に背中を付けて倒れていった。
 ミリシンが盛ったデタトン製薬の睡眠薬メラトニーが効いたようだった。ミリシンは不眠症の為、強力な睡眠薬が必要だった。
ミリシンはポロロンの部屋の扉に付いている部屋の中に繋がっている呼び鈴を鳴らした。
ミリシンは言った。
「ポロロンさん」
 扉越しにポロロン・アッパカパーの返事が返ってきた。 
「誰ですか」
ミリシンは言った。
 「ミドルン王国から派遣されているミリシンです」
 ポロロン・アッパカパーは扉越しに言った。
「夜分、遅く、如何なる用ですか。わたくしは女性です」
ミリシンは言った。
 「実は、重要な話があります」
ポロロン・アッパカパーは言った。
 「重要な話とは何ですか」
 ミリシンは言った。
 「今すぐ、このロード・イジア要塞を抜け出して、イジア国から立ち去って下さい」
 ポロロン・アッパカパーは言った。
 「何故です。わたくしは、たとえ、この身が滅びようとも、アッパカパー伯爵家とイジア国の反目を止めさせる決意があります」
 ミリシンは言った。
 「実はロード・イジアと妃のレディ・イジア、マッタール大臣の3人は、あなたを殺すつもりでいるのです」
 ポロロン・アッパカパーは言った。
 「わたくしは死など怖れません。わたくしの命一つで、アッパカパー伯爵家とイジア国の歴史が良い方向に向かうならば本望です」
予想以上の頑固さでミリシンは目眩がした。
だが、何とかして言葉を繋いで、ポロロン・アッパカパーを元のアッパカパー要塞に帰すことが先決だった。
ミリシンは言った。
 「良いですかポロロンさん。ロード・イジア達は、あなたに不名誉な死を与えるつもりなのです」
 ミリシンは言った。
 ポロロン・アッパカパーは言った。
 「不名誉とは、どういうことですか?」
 ポロロン・アッパカパーの声が少し変わった。考えてみれば、名誉を重んじるポロロン・アッパカパーが不名誉な死を嫌がることは十分に考えられた。ミリシンが気が付かなかったにしろ。
 ここから話を始めればいい。ミリシンは、ロード・イジア達の計画の詳細を語った。

一体どこに行けばいいと言うのですか。
 ポロロンは思った。
ポロロンは、父親のアッパカパー伯爵から勘当を受けたのだ。ここから月明かりに照らされて見える自分の家だったアッパカパー要塞に帰る訳には行かなかった。ポロロンは、アッパカパー伯爵家とイジア国の反目の歴史を止める為には、たとえ、自分の命が失われようとも構わなかったが。自分の死によってアッパカパー伯爵家の名誉を傷つけられる事は誇り高きアッパカパー伯爵家の娘として看過することができなかった。
ポロロンは月明かりに照らされた山道を馬に乗って下っていった。
 何の当てもなく、ただ、馬の歩みに任せて。

ミリシンは、ポロロン・アッパカパーが、馬に乗って、アッパカパー要塞の街から出て行くのを見ていた。
 ミリシンはホッとした。
 これで、ロード・イジア達が、ポロロン・アッパカパーを殺して、ミドルン王国とイシサ聖王国の戦争に繋がる危険事態は回避される。
突然背後でロード・イジアの声がした。
 「ミリシン」
ミリシンが振り返ると、ロード・イジアと、マッタール大臣が並んで立ち、その背後には、武器を持った兵士達が十人ほどいた。
ロード・イジアが言った。
「ミリシン。上手く、我々を騙していた、つもりだったのだろうが、我々はフラクター選帝国とビビリウムの取引で関わりがあるのだぞ。フラクターの知り合いを通して、通話記録を調べて貰い、お前が、アッパカパー要塞に携帯電話を掛けている事が判明した」
マッタール大臣が言った。
「よくも今まで、我々を騙し通してきた物である。胃弱も我々を騙すための狡猾な演技だったのであるな。このスパイめ」
ロード・イジアが陰鬱で酷薄な笑いを顔に浮かべて言った。