戒厳令都市デタトンの恐怖
「そういう事だぞアン・ヘイコック。オレ達は、くたばらずに全員無事で帰ってくるのだ」
コロンは頷いた。
アンは嫌な笑いを浮かべた。
アンは言った。
「まあ、今度のデタトン市への突入は、確実に死傷者が出るでしょう。スカイ、マグギャラン、コロン、あなた達の中の三人の一人か二人、ぞれとも三人全てが死ぬかも知れません」
ポロロンは言った。
「わたくしは正義の為には死を厭いません!」
スカイは言った。
「ポロロン、このデタトン製薬の事件は。何かが、おかしいぜ、普通の悪いヤツ等の事件じゃ無い。何か異常な不気味さを感じるぜ」
ポロロンは言った。
「冒険屋歴の長いスカイが言うのならば、そうでしょう!ですが!わたくしは、正義の為に戦えるならば、死を恐れず戦います!」
スカイ達は、昨日アンの運転で乗った、エアカーに再び乗った。
ただブランデーが逃げたため居なくなっていたため。スカイの座ったアンの隣の助手席
は結構広かった。そしてアンの運転するエアカーは発進した。
デタトン市の南東の門を目指して。
闇医者、Dr.パンプアップ・ハイと、ジョイシャー、クマの看護婦さんの三人の怪人達は、デタトン市へ向けて、フラクター選帝国製のエアカーに乗って出発する冒険屋達を見ていた。
Dr.パンプアップ・ハイはニヤニヤしながら言った。
「うーん、行ったねぇ。ジョイシャー君、クマの看護婦さん君。ボク達も、そろそろ、デタトン市に向かおうじゃ無いか」
40?ぐらいの背丈のナース・スーツを着たテディ・ベア、クマの看護婦さんは涙を流して居た。
クマの看護婦さんは涙を流しながら言った。
「なんて感動的なの。多くの命が、デタトンで星の光の様に消えていくのね。どれだけ感動的なドラマが生まれるのかしら。これは、見に行かなければダメね。ああ、どうしよう涙腺が緩んじゃう…」
ジョイシャーは言った。
「ダメですわん。クマの看護婦さん。このジョイシャー達がハイロー・ゲーム院長に与えられた仕事は、レクリエーターの復活なのですわん」
Dr.パンプアップ・ハイはニヤニヤしながら言った。
「レクリエーター君の、身体のクローン培養もデタトン製薬に依頼して終わっているし。後は、レクリエーター君の身体をデタトン製薬に受け取りに行くだけだよ」
ジョイシャーは、頭の後ろで腕を組んで、激しく巨大な胸を震わせていた。
ジョイシャーは言った。
「あっはん、うっふん。私の患者なのですわん。このジョイシャーの患者は常にムンラ、ムラムラの、お色気治療を受けるのですわん」
ガミオン大臣の声がした。
「どこに行ったんだDr.パンプアップ・ハイ!ジョイシャー!」
Dr.パンプアップ・ハイはニヤニヤしながら言った。
「おや、ボク達の患者が来ましたね」
ジョイシャーは言った。
「あっはん、うっふん。このジョイシャーのムンラ、ムラムラの治療を受けたがっているのですわん」
クマの看護婦さんは言った。
「それじゃ、ヌイグルミのフリをする」
クマの看護婦さんはテディ・ベアになった。
Dr.パンプアップ・ハイはニヤニヤしながら、クマの看護婦さんを持ち上げた。
ガミオン大臣がDr.パンプアップ・ハイとジョイシャーの前に来た。
傍らにはウイッキイド・ゴーストの局長「W」とロマシク・ボンドネードが立っていた。
ロマシク・ボンドネードは二人の闇医者を見ていた。
ガミオン大臣は言った。
「早く、私のウンダバッタラ病を治療する薬を作り出してくれ。私は不老不死が欲しいのだ。死ぬのが嫌なのだ」
ロマシク・ボンドネードは考えていた。
こんな状態のガミオン大臣では、もう、ミドルン王国の実質上の最高権力者の地位は保てまい。
つまりガミオン大臣の後釜を巡っての政争が激しさを増すはずだった。
ロマシク・ボンドネードは考えていた。
順当に行けば、ガミオン大臣の娘婿の、ロニール・ガミオンが首領を務めるガミオン貴族派が勝利するだろう。
だが、ミドルンの新星と呼ばれている。ベチャル改革派も油断は出来なかった。ベチャル改革派の支持母体は、地代地主と呼ばれる、貴族に準ずる権力を持つ、新興領主層だった。
そして、ミドルンの軍事マニアと呼ばれるマキラ軍部派が居た。
マキラ軍部派は、軍人達の支持を背景に幅広く、支持を集めている。ミドルン王国の軍隊は、ヒマージ王国と同じように、上級将校は貴族出身者以外なれないが。下級将校には平民出身者達も数多く居た。
事実上平民達の不満の受け皿は、マキラ軍部派が担う事になる。
だが、軍人以外の平民達も不満を高めていた。本来は第四勢力と呼ぶべきだろうが。未だ明確な形を軍人以外の平民達も持ち得ては居なかった。
隣のヒマージ王国では、国家ぐるみで偽金を作っていた噂を聞くが、ミドルン王国でも経済は行き詰まっていた。
そしてカーマイン大公国で起きた鋸卿によるクーデター事件。
ロマシク・ボンドネードも、これからの政局は読めなかった。
ただ、ボンドネード一族の家訓は厳然として存在していた。「勝てば官軍負ければ賊軍、ゆえに勝ち馬に乗れ!」。実にシンプルだが。
これが、ボンドネード一族を今まで存続させてきた家訓だった。
ガミオン大臣は、デタトン市に向かうという、闇医者、Dr.パンプアップ・ハイとジョイシャーの白衣に、すがりついていた。
ガミオン大臣は言った。
「お願いだ、デタトン市に行かないでくれ!不老不死の錬金術の秘薬を作り出す研究をしてくれ!」
ジョイシャーは言った。
「あっはん、うっふん。わたくし達はデタトン市に行かなければ、ならないのですわん」
Dr.パンプアップ・ハイは言った。
「そうで、ありんすよ。ちょっとデタトン市に野暮用があるんでさぁ。不老不死の錬金術の薬もデタトン製薬に研究させているんでげすがね」
ガミオン大臣は言った。
「お願いだ。ウンダバッタラ病の治療薬を渡してくれ!カネなら、いくらでも払う!どうせ国民のカネだ!」
ジョイシャーは言った。
「あっはん、うっふん、このジョイシャー達も、限界が在るんですわん。ウンダバッタラ病の治療薬はデタトン製薬で作っているのですわん」
Dr.パンプアップ・ハイはニヤニヤしながら言った。
「そうでげすがね、わっしらが、デタトン製薬まで、ひとっ走りして取ってくるんで、ありんすよ」
ガミオン大臣は言った。
「それまで、薬無しなのか!私がウンダバッタラ病で苦しまなければならないのか!嫌だ!そんなのは嫌だ!痛み出す。身体が骨と神経になって痛み出すんだ!」
ロマシク・ボンドネードは、わめき散らすガミオン大臣を黙って見ていた。「ウイッキイド・ゴースト」の局長Wも黙っていた。利口な判断だった。
もう、ガミオン大臣は終わった権力者かも知れないが。それでも、今でもミドルン王国の実質上の最高権力者だった。
じきに、後継者の娘婿ロニール・ガミオンに権力の禅譲が行われる。
それまでは、ロマシク・ボンドネードは黙って、ガミオン大臣に協力するつもりだった。
作品名:戒厳令都市デタトンの恐怖 作家名:針屋忠道