戒厳令都市デタトンの恐怖
「ああっ、その声も最高!僕のツボにハマりすぎだよ!」
ポロロンは語気を強めた。
ポロロンは言った。
「答えて下さい!」
小イジアは言った。
「別に、このままで良いんじゃない。なるようになるもんだよ。それより、その怒った声が最高!もう一度言って!」
小イジアは身悶えをして、髪の毛を、かき乱しながら言った。
スカイとマグギャラン、コロンは、食堂の付いた、パレッアー山脈の登山道入り口の宿泊施設「ボンゴレッダ」に宿泊した。
マグギャランは言った。
「二百七十五ネッカー(二千七百五十万円)の金が手に入った。何を買おうかスカイ」
マグギャランは宿屋に無料で置いてあった
フラクター選帝国の通販カタログを持ってきて見ていた。
スカイは言った。
「そうだな。エアカーを買おうぜ。買えば、遠くまで簡単に冒険屋の仕事に出掛けられる」
マグギャランは言った。
「ふむ、だがエアカーは五千ネッカー(五億円)もするではないか。我々の今回の報酬では到底無理だ」
スカイは言った。
「じゃあ、何買うんだよ。やはりテレビか」
マグギャランは言った。
「うむ、確かにテレビは買い換えねばならない。百三インチのテレビを買うのだ。今なら、買い換えセール中で下取りをしてくれるらしい」
マグギャランはカタログを見ていた。
コロンは言った。
「……あちゃいは、リフォームするの」
スカイは言った。
「コロン屋敷というか、バングボルデン荘も、大分リフォームが進んだな」
コロンは言った。
「……今は階段と二階の五部屋だけだけれど、いつか全部綺麗にリフォームするの」
スカイとマグギャランは顔を見合わせた。
ポロロンは白い花嫁衣装の着付けを行っていた。
ポロロンは大分気がついてきた。小イジアには、アッパカパー伯爵家と明るい未来を作る考えが無い事に。
そしてイジア国の人間達は、アッパカパー伯爵家を憎んでいた。
ずんぐりした背が低い筋肉質の、中年のメイド達が、ポロロンに花嫁衣装の着付けをしながら言った。
タバコを口にくわえたメイドが言った。
「このアッパカパーの雌犬め。ぼっちゃまを、たぶらかしやがって」
噛みタバコを噛んでいるメイドが言った。
「あたしゃね悔しくて、しょうがないよ、こんな顔がチャラチャラした娘っ子が次のロード・イジアの嫁になるなんてね。ロード・イジアの妃は血統が、しっかりしたイジア娘じゃなければ、務まるもんじゃないよ。判ってるのかい、このアバズレ!」
ポロロンは言った。
「わたくしは、そのような下品な言葉で呼ばれる恥ずべき人生は送ってきていません」
噛みタバコのメイドは言った。
「アバズレはアバズレだよ。この雌犬め」 タバコを咥えたメイドは言った。
「そうだい、お前は雌犬さ。雌犬の中の雌犬さね」
ポロロンの花嫁衣装の着付けが終わった。
タバコを咥えたメイドが、携帯灰皿に灰を落としながら言った。
「ぼっちゃま、入ってきても構いません」
扉が乱暴に開けられた。
そして小イジアが入ってきた。
小イジアは言った。
「ああっ!なんて君は白い服が似合うんだ!結婚式が待ちきれないよ!そして、その夜!ああっ!気が変になってしまいそうだ!うわあああああああああ!」
小イジアは全身を震わせてスクワットを開始した。
統合幕僚作戦参謀本部極秘会議場では、長いテーブルの上座にロードイジアが座って、マッタール大臣が次の席に座ってミリシンは、その次の下座に座っていた。
そしてガランとした寂しい統合幕僚作戦参謀本部極秘会議場ではロード・イジア要塞の重鎮達が虚ろな部屋以上に寒々とした声色で話をしていた。
ロードイジアは髭を撫でながら言った。
「どうしたものかな、マッタール大臣。あの、我が不肖の息子の痴態は目に余る」
マッタール大臣は言った。
「それだけではないのである。ロード・イジア。イジア王家の誇り高い血統に、アッパカパーの薄汚れた、血など入れる訳には、いかぬのである」
ロード・イジアは言った。
「ミリシン、どう思うかね」
ミリシンは言った。
「わたしは、平和で在れば、問題は無いかと」
ミドルン王国の中央からイジア国へ派遣された地代地主出身のミリシンはアッパカパー伯爵から、ポロロン・アッパカパーの力になるように頼まれていた。ミリシンとしても、ミドルン王国の国益が損なわれない範囲でポロロン・アッパカパーに協力するつもりだった。だが、ミリシンは隠していたが。ミドルン王国の三大派閥の一つ「ベチャル改革派」に属していた。ロードイジアのイジア国は「ガミオン貴族派」に属していた。
マッタール大臣が言った。
「ロード・イジア。ここは、一つ、このマッタールに策が在るのである」
ロード・イジアは言った。
「どのような策だマッタール大臣」
マッタール大臣が陰鬱な顔で言った。
「ポロロン・アッパカパーを殺すのである」
ミリシンはビクッとした。
何を、いきなり言い出すのか理解できなかった。
ロード・イジアも陰鬱な顔で答えて言った。
「ほう、それは私も考えていた所だが、ただ殺すだけで良いものだろうか」
マッタール大臣は言った。
「もちろん、ただ殺すだけでは、いかんのである。今回の小イジアの行動はイジア国の国民達の国民感情を逆撫でして、しまったのである。ただ殺すだけでは、いけないのであるぞロード・イジア。失われた我々権力者達の沽券を取り返し。かつ国民達を納得させねば、ならないのである」
ロード・イジアは言った。
「確かに、その通りだ。イジア国の国民達は悪のアッパカパーと戦い続ける、光の戦士達であり、その頂点に立つロード・イジアは絶対善の化身で在らねばならない。そのロード・イジアの息子が悪の化身の魔王の娘である、アッパカパーの娘と結婚するなど在ってはならない事だ」
マッタール大臣は言った。
「その通りである。まさか、W&M事務所が小イジアのラブレターをポロロン・アッパカパーに送り届けただけでなく。ポロロン・アッパカパー本人を連れてくるなど、このマッタールも予期していなかった椿事なのである」
ロード・イジアは言った。
「だが、どのような罪状で殺すのかが問題だぞマッタール」
マッタール大臣は言った。
「確かに、イジア国の国民が納得するような罪状が必要なのである。そしてポロロン・アッパカパーが悪く見えなければ、ならないような策が必要なのである。我々は絶対善の化身なのであるから」
突然テーブルの下から声がした。
「話は聞きました」
ロード・イジアの妃、レディ・イジアがテーブルの下から現れた。
ミリシンは驚いて、椅子から、ずべり落ちた。
ロード・イジアの妃、レディ・イジアはオレンジと銀色のドレスを着たまま、ロードイジアの横の椅子に腰を掛けた。肩の僧坊筋が膨れ上がって鉄アレイの付いた扇子でリストカールをしていた。
ロード・イジアは言った。
「で、何か策はあるのかねレディ・イジア」
レディ・イジアは鉄アレイの付いた扇子を広げて言った。
作品名:戒厳令都市デタトンの恐怖 作家名:針屋忠道