戒厳令都市デタトンの恐怖
スカイは五メートルぐらいの高さから落下した。空中で身体を丸めて一回転して膝のクッションで着地した。それでも、踵から脳天に向かってズーンと衝撃が走った。
スカイは叫んだ。
「逃げろ!」
マグギャランも叫び返した。
「当然だぞスカイ!」
ポロロンは酔いどれ盗賊のウイスキーを見ていたが、コロンに引っ張られて走って、いった。
最後尾をスカイは走っていた。上から次々と蜘蛛女の仲間達の糸が降ってきて、スカイ達を捕まえようと、していたが、何とか全員無事で、蜘蛛の糸が降り注ぎ、蜘蛛の糸で覆われた危険地帯を脱出した。
スカイ達は森の中の一本道を歩いていた。
マグギャランは言った。
「あれは、女郎蜘蛛という東方に棲息する古代モンスターだ。確か出題頻度は星が一つだ」
スカイは言った。
「全く、とんでもねぇ話だ。何でミュータントだけじゃなくて古代モンスターまで居るんだよ。しかも東方に居るんだろう」
マグギャランは腕を組んだまま考えながら言った。
「さあな、判らないな。俺もコモ騎士受験の為に暗記した知識だから、正確な所は判らないんだ。大体八百問も在る早朝から始まって休憩無しで夕方までかかる一日掛かりの馬鹿げた根性試験に出てくるモンスターの詳しい生態まで全部知っている奴が受験者の中に居ると思うのか?それもエターナルの魔法使いじゃなくて剣を振り回している騎士達を選抜する試験なんだぞ。本を持ち込んでカンニングしても試験官は見逃すような、いい加減な試験だったんだ」
スカイは言った。
「何、弁解しているんだよ」
マグギャランは言った。
「すまんな、スカイ。受験の時の、嫌な記憶が頭を、よぎったんだ。あの頃の俺は、今ほど弾けて、いなかった。内気でシャイなため真面目に暗記してカンニングしないで試験に臨んだんだ。今だったら平気でカンニングしたのだが。月日と共に人は変わって行くのだな」
マグギャランは溜息をついた。
身も蓋もない独白だった。
ポロロンが気落ちした声で言った。
「ウオッカに続いてウイスキーまで死んでしまいました」
マグギャランは言った。
「お前も見ていただろう、頭から胴体まで食われていたんだ、あれでは助かりようも無いであろう」
ポロロンは言った。
「でも、わたくしにも出来る事は、あったはずです」
ピココは、ずっとレニーに話しかけていた。
「レニー。ボクの靴を履きなよ。ボクは丈夫だから、足の裏も丈夫なんだ」
ピココは自分のブーツを脱いで両手に持って言った。
だがレニーは、ピココの呼びかけを無視して片方だけの靴を履いて歩いていた。靴を履いてない足は靴下越しに地面の感触がした。
レニーは、もう嫌だった。
何もかもが嫌だった。
両手持ちの大剣を持った、筋肉老人の戦士ミスター・ジェイが言った。
「みんな止まるんだ」
筋肉老人のエーライ神の僧正ミスター・クークックが言った。
「山火事が起きたのか?」
筋肉老人の戦士ミスター・ジェイは言った。
「これは、強力な火で焼かれている。木が燃えずに一気に炭化している」
筋肉老人の魔法使いミスター・シーンが言った。
「見て、あそこにモンスターが居る!」
筋肉女老人のレンジャー、ミセス・ポッポーが指を差して言った。レニーはハッとして、その指の先を見た。
百メートル程離れた距離にモンスターが居た。炭化した木の陰から出てくる所だった。
青白い炎を骨で出来た車輪の様な胴体に纏い、車軸が在る場所に髑髏が付いた怪物だった。
筋肉老人の魔法使いミスター・シーンは言った。
「あれは、絶滅した筈の古代モンスター、髑髏車(どくろぐるま)だ」
筋肉老人のエーライ神の僧正ミスター・クークックは言った。
「何故、絶滅した筈の古代モンスターが居るのだ」
筋肉老人の魔法使いミスター・シーンは言った。
「だが間違いは無い。あれは古代モンスターだ。しかも東方に生息していた筈だ。髑髏車は髑髏の口から高熱の火炎を吐く」
筋肉老人戦士ミスター・ジェイは言った。
「弱点は在るのか?ミスター・シーン」
筋肉女老人のレンジャー、ミセス・ポッポーは言った。
「ミスター・ジェイ。戦うより逃げた方が賢明よ」
筋肉老人魔法使いミスター・シーンは言った。
「確か髑髏車は空中に浮かんでいるが移動速度が遅かった筈だ」
だが、髑髏車は、こっちの方を向いた。レニー達に気が付いた様だった。
髑髏車は口を開いた。そして口から一直線に青白い炎が伸びた。
炭化していた木を吹き飛ばして、炎が迫ってきた。レニーは硬直した。
ピココは言った。
「レニー!危ない!」
ピココが、レニーを突き飛ばして一緒に倒れ込んだ。
空気を焼く青白い炎が倒れたレニーとピココの頭上を通り抜けた。炎が大気を焼き。熱風がレニーの顔に吹き付けた。
レニーは呆然とした。
今、死にかかった事は頭で理解した。
筋肉老人戦士ミスター・ジェイは、レニーと覆い被さっているピココを引っ張った。
筋肉老人戦士ミスター・ジェイは言った。
「火が止まった!今の内に逃げるんだ!」
ピココは言った。
「さあレニー!逃げるんだ!」
ピココは起きあがって、レニーの腕を引っ張りながら言った。
レニーは起きあがった。
そして、ミスター・ジェイ達と走っていった。靴を履いていない左足の裏が痛んだが構わずに無我夢中で走った。
筋肉老人魔法使いミスター・シーンは言った。
「あの炎に捕まったら確実に消し炭になることは間違いない」
安全な場所まで逃げて来た。髑髏車は移動速度が遅くて、レニー達が走っていくスピードに付いて、こられなかったのだ。
ロマシク・ボンドネードは、デタトンに現れたミュータントが古代モンスターである事から、古代モンスターを調べ始めた。
ロマシク・ボンドネードは言った。
「この辞典によれば。古代モンスターは禁断の封印された「封印の世紀」時代以前から棲息するモンスターだ」
ロマシク・ボンドネードは、空間歪曲魔法で作られた黒カバンの中から取りだしたエターナルで作られている、サーチー・コデモドが編集しているダルイッス・モンスター辞典を読んでいた。
モルガは言った。
「なんだよ、その封印の世紀って言うのはよぉ」
ロマシク・ボンドネードは言った。
「我々が住むコモンの歴史が始まるのは、この「封印の世紀」以後の事だ。私も詳しいことは知らない。その知識は触れることを禁じられている」
モルガは言った。
「まさか、伯父貴は知識でメシを食っているエターナルの魔法使いだろう?なんで、エターナルの魔法使いが知ることが出来ない知識が、あるんだよ」
ロマシク・ボンドネードは言った。
「まあ、私が知るのは、光りと闇の軍勢の戦いが、あったという、余りにも空想じみた伝承だけだ」
モルガは言った。
「そういや、歴史の勉強すると、ある時点以前の話は無くて、原コモン人という、なんか、よく判らない名前の連中がコモン人の先祖だという話しか出てこないよな」
ロマシク・ボンドネードは言った。
作品名:戒厳令都市デタトンの恐怖 作家名:針屋忠道