戒厳令都市デタトンの恐怖
「ところで、ボウズ。テメエの名前は何だ。こっちは名乗ったぜ」
スカイは言った。
「呑んでいる酒の名前が自分の名前かよ」
ウィスキーが鼻の穴から酒を呑みながら言った。
「ういっ、その、べっぴんの名前は何だい。うげ、ううっ!」
言っている途中で、むせて口から酒を吹き出した。
スカイは言った。
「俺の名前は戦士のスカイ・ザ・ワイドハートだ」
マグギャランは言った。
「俺の名は騎士のマグギャラン」
コロンは言った。
「…魔法使い見習いのコロナ・プロミネンス」
ポロロンは言った。
「わたくしの名前はポロロンです。勘当されたので姓は在りません」
皆、名前を名乗った。
レニー達「鋼鉄少女隊」の四人は、「ダイナマイト・シルバーズ」の四人と組む事になった。
レニーは言った。
「え、この人達と組むのですか」
レニーは、思いっきり引いていた。全身が筋肉で膨れ上がっている老人達を見て言った。筋肉老人達は、今も、腕立て伏せをしたり、腹筋運動らしいトレーニングをしていた。
レニーは筋肉の塊のマッチョが大嫌いだった。レニーの美意識では、結婚する相手は、もっと痩せてスマートで背が高い、出来れば長髪の頭の良い男性が好みだった。当然エターナルを卒業している魔法使いで…
ピココは言った。
「初めまして、ボクはピココ・グリップ。鋼鉄少女隊のリーダーです。ただ今武者修行をしている最中です。よろしくお願いします」
豹の毛皮の腰巻きだけを付けて居るモヒカン刈りのサングラスを掛けた老人が立ち上がった。身長は二メートル近くあった。そして背中には大剣を背負っていた。
モヒカンの筋肉老人の戦士は言った。
「私は、ミスター・ジェイ。このダイナマイト・シルバーズの団長だ。グリップ?グリップ男爵家のピココか?」
ピココは言った。
「はい、そうです。ボクを知っているのですか」
ミスター・ジェイは言った。
「私の妹の娘が君の母親だ」
ピココは言った。
「それでは、ボクの母方の祖母がミスター・ジェイの妹に当たるわけですね」
ミスター・ジェイは言った。
「ああ、そうだ」
レニーの頭の中に、歳を、とったピココがマッチョになって腹筋運動をしている光景がチラッと浮かんだ。脳味噌の分量が少なそうな、御領主様の、お嬢様なら十分有り得る将来だった。このデタトン問題から無事に生還出来たとしてだが…。
ピココは言った。
「それでは、ミスター・ジェイ。ミドルン王国の為に一緒に力を合わせて働きましょう」
ミスター・ジェイは言った。
「当然だ。その為に、我々、ダイナマイト・シルバーズは自発的に来たのだ」
そしてピココに手を差し出した、ピココも手を差し出し握手した。
ミスター・ジェイの仲間の筋肉老人達が拍手を、し始めた。留衣とサイも拍手をした。レニーも場に、つられて拍手を、していた。
全然嬉しくないのに…。
モルガ・ボンドネードの声がフラワー・ビレッジ村立体育館の中に響いた。
モルガ・ボンドネードは言った。
「やいテメェ等。これから、テメェ等の偵察ルートを書いたバインダーを班ごとに渡すから、取りに来い。それと一緒に、お前等の偵察の報告を受け取るオペレータと会うことになる。しっかり顔と名前ぐらいは覚えておきやがれよ」
スカイは言った。
「何だよ。面倒な手続きが続くな」
マグギャランは言った。
「スカイ、オマエがバインダーを取って、くるのだ」
スカイは言った。
「お前が行けよ」
マグギャランは嫌そうな顔をして手を振って言った。
「俺は、モルガが嫌なのだ。ああいう下品な女は好かぬ。近くに行くのも、見るのも嫌なのだ。お前が取ってくるのだ」
スカイは言った。
「しょうがねぇな、駄々こねるんじゃネェよ。他の連中はどうなんだよ」
スカイはコロンを見た。コロンは顔を赤くして首を振っていた。
ポロロンは言った。
「スカイ、あなたはW&M事務所のリーダーです。W&M事務所のリーダーとして、職責を果たすべきです」
スカイは言った。
「アイツ等は、どうなんだよ」
スカイは、酔いどれ決死隊を見た。連中は酒盛りを再びはじめていた。
スカイは見た瞬間口に出して言った。
「ダメだ」
ある種の何も言わせない迫力が、そこにはあった。堕落を極めた人間達のみが発する無言の邪悪なオーラのような物を酒気と共に感じた。
ポロロンは言った。
「さあ、スカイ、リーダーとしての職責を果たすのです」
スカイは言った。
「判ったよ。一々うるせぇな」
スカイは前に出て歩いていった。
壇上のモルガの横に、黒い髪を三つ編みにして眼鏡を掛けた、コロンのような髪型をしている女が前に出てきた。コロンと違って、額が出ていた。そして帽子が赤いベレー帽だった。そしてフレア・スカートの緑と赤の軍服を着ていた。
モルガ・ボンドネードが言った。
「おう、テメェがスカイ・ザ・ワイドハートかよ。写真だけじゃ無く本物も目つきが悪いな」
スカイは言った。
「そうだよ、テメェのせいで今はデタトン送りの身の上なんだよ」
モルガ・ボンドネードは言った。
「ダセェな。ホラよ、テメェ等の偵察ルートだ。テメェ等は北北東ルートを偵察する事に決まっている」
モルガ・ボンドネードが嫌な笑いを浮かべた。そして横に居る軍服を着た男から机に並べられた、鉄製の表紙が付いたバインダーを渡されて、スカイに更に放って投げ渡した。
スカイは言った。
「何だよ、ちゃんと手で渡せよ」
モルガが言った。
「うるせぇな。こっちは、16回も、こんな事するんだから面倒なんだよ」
スカイは三つ編みの女に言った。
「しかたねぇな。そんじゃ、お前がオペレータかよ」
三つ編みの女はアッサリと無感情な声で答えた。
「そうです」
スカイは三つ編みの女に言った。
「そんじゃ行くぞ」
スカイは言った。
「畜生。何で、こんな仕事やらなくちゃ、ならないんだよ」
スカイは、毒づきながら自分達の列に戻っていった。偵察ルートを挟んだ鉄製のバインダーの中身を見ながら言った。中にはデタトンの北北東から進んでいく地図が書かれている。
マグギャランは言った。
「まあ、軍隊を動かす基本では在るな。斥候を出して偵察するのは」
マグギャランはスカイが持っているバインダーを横から見た。
スカイは偵察ルートと書かれたパインダーの中身を見た。地図が書いてあり、スカイ達と酔いどれ決死隊が進むルートが赤い線で書かれていた。
スカイは言った。
「俺達は、噂のカイマン男が出るレインボーリバー沿いのレインボー道路は通らないが、レインボーリバーの下流の橋、幸せ橋を渡って山道を通って、デタトン市の北北東のビッグストーン・ビレッジへ移動してからデタトンへ向けて、偵察する事になっている」
スカイ達はカイマン男軍団がヒマージ王国のタイダーテレビのテレビクルーを食い殺す映像を見たことがなかったが、噂によると。回転してカイマン男が飛んで来るらしかった。
作品名:戒厳令都市デタトンの恐怖 作家名:針屋忠道