戒厳令都市デタトンの恐怖
レニー・ハンドリングはグリップ男爵家の法律業務を一手に引き受ける弁護士である父親のクラウディ・ハンドリングの長女として生まれた。
それは在る程度の裕福な生活を送れる家に生まれた事であったが。レニー・ハンドリングは堅実に学歴を蓄える事を子供の頃から考えて、エターナルの魔法使いになることを望んだ。
だが、エターナル受験への受験勉強を、やっていた、ある日、突然、御領主様の、お嬢様であるピココが現れて、話しかけてきた。
そしてレニーはピココの仲間一号に、なってしまったのだ。父親も母親も、仕方がないと言って涙を流して、レニーがピココに無理矢理、引っ張られて行くのを手を振って見ていた。
確かに仕方が無かったのだ。グリップ男爵家は、跡取りとなる男の子が居なかったため、嫡女であるピココが、すんなりと家督を継ぐはずであった。だが、ピココの父親は、頑固者で男尊女卑の考えが強くて、女が家督を継ぐ事など許さないと認めなかったためピココは家督を自らの意志で継ぐために、父親を納得させる為の殊勲を上げなければならなかったのだ。
その為に、仲間を捜していたピココは、近所でも猛勉強をやっていることが有名だったレニーの所にやって来たのだ。
最初、レニーは魔法使い見習いだからと断った。だが、ピココより年上の女性を仲間にする事を禁じた父親のグリップ男爵の意地の悪い制約の為、年上の女性の魔法使いと組むことが出来ないピココは、将来性が在るという事でレニーを仲間にする事を決めたらしいのだ。有り難迷惑ではあったが。
ピココとレニーは多少は顔見知りだったこともあった。とは言っても、そんな近しい知り合いではなかったのだが。子供の頃に挨拶をしたことが一度か二度あったぐらいの間柄だった。なのに…。
何故!
何故!
…本当に何故なの…。
モルガの、だみ声が拡声器でフラワー・ビレッジ村立体育館の中に響いた。
「…W&M事務所は、十三番の旗を持っている酔いどれ決死隊と組め」
スカイは言った。
「なんだ、酔いどれ決死隊だ?もう少し、ましな名前を付けろよ」
マグギャランは言った。
「まあキャンディ・ボーイズもナメた名前だったが、意外に堅実な仕事をするパーティだった。パーティ名で判断しては、いかんぞスカイ」
スカイは言った。
「何か嫌な予感がするんだよ。これは非常に嫌な予感だ」
何となく嫌な感じがしていたのだ。
スカイ達は、十三番の旗の所まで行った。
そこには座り込んでいる連中が五人いた。
スカイは言った。
「なんだ、コイツラは。なんで、こんなに酒臭いんだ」
スカイは辺りを見回した。
それは様々な酒の匂いが混然と一体となった場末の酒場のような酷い匂いだった。
それぞれ酒の入った入れ物を持った、五人の酔っぱらい達が居たのだ。
赤ら顔の鎧を着た五十歳近くの男が言った。
「ワシ等が、酔いどれ決死隊じゃ」
腰の回りにはウォッカと書かれたラベルが貼られた瓶が沢山ぶら下げられている。
酔いどれ戦士は言った。
「お前達も、酒を飲まないかねワシはウォォッカしか飲まないからウォッカと呼ばれている。本当の名前は、もう忘れちまったよ。確か職業は戦士だったかな。ウオップ」
耳の穴をほじりながらウォッカは酒の瓶を傾けていた。
喋りながら酒を飲んで途中で、むせていた。
魔女の帽子とマントを着た五十歳近くの女の魔法使いが言った。
「あひゃあひゃ、あひゃあひゃ、あたしは魔法使いのブランデー、ブランデーしか飲まないからブランデーと呼ばれているんだよ。あたしゃね。燗にした熱いブランデーしか飲まないんだ」
銀色の魔法瓶の中から暖まって湯気が出ている酒が出てきた。そしてブランデーは酒を飲み干した。
四十代前後ぐらいの短髪に短い髭を生やしたチェイン・メイルの僧侶は言った。
「オレは、酔っ払いと飲んべえの酒神アルホの僧侶のジン、ジンしか飲まないからジンと呼ばれている」
そしてジンは腰を曲げて身体を揺すりながら、背中に背負った金属製のタンクから伸びているストローを口に当ててチューチューと音を立てて飲み始めた。どうやら、あのタンクの中に酒が詰まっているらしい。大きさからして二十?は在るような大きなタンクだった。
二十代中頃の痩せた、黒ずくめの男が言った。
「俺は盗賊のウイスキー。ウイスキーしか飲まないからウイスキーと呼ばれている。俺は鼻の穴から直接ウィスキーの香りを味わう飲み方以外の飲み方はしない主義なんだ」
ウィスキーは腰の小さい木の樽(それでもやはり二十?ぐらい在るのだが)に付いた真鍮製の蛇口から、手に持ったグラスにウィスキーを注いで頭を後の方へ傾けて鼻の穴から飲み始めた。そしてゲホゲホと苦しんでいた。
よれたフラクター選帝国ヤマト領の袴と羽織を着た四十代中頃のサムライが言った。
「俺はサムライのドブロク。究極の酔いをもたらすという伝説の酒、メチルを求めてフラクター選帝国から出て旅をしている。メチルを捜すため密造酒以外飲まないため。ドブロクと呼ばれている」
ドブロクは二十リットルぐらい在る巨大な徳利を傾けて白濁した酒を飲んでいた。
そして酔いどれ決死隊は再び酒を飲み始めた。
マグギャランが動揺した声で言った。
「こ、こんな酔っぱらい達が仲間に、なるのか。本当に、こんな奴等と組んで、ミュータントで溢れかえっているデタトン市へ乗り込んで行けと言うのか」
スカイは衝撃から立ち直った。
スカイは言った。
「何、朝っぱらから酔っぱらって居るんだよ」
ポロロンは言った。
「そうです。お酒は麻薬と同じです。自分の身体を損ねて。家庭を破壊し、仕事に対する勤労意欲を無くしてしまうのです」
ウォッカが立ち上がってポロロンに向かって叫んだ。
「かぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!かあっ!」
ウォッカは酒臭い息をポロロンに吐きかけたのだ。
ポロロンが顔を、しかめて手でウォッカの吐いた酒気を払った。
「ああっ!何て、お酒の匂いの酷い息を!不健康です!」
ブランデーが自分の腿をひっぱたいて、笑っていた。
「あひゃひゃひゃ、嬢ちゃん、リアクションが面白いねぇ!あひゃひゃひゃひゃ!」
ポロロンは言った。
「笑い事ではありません。あなた達は、酒を飲んではダメです」
ウオッカが笑いながら言った。
「何、俺達に酒を飲むなだと。ウハハハハハハハハハハ!面白い、面白いな!」
酔いどれ僧侶ジンがストローから口を離して言った。
「俺達には酒しか無いんだ」
酔いどれ盗賊ウイスキーが鼻の穴から酒を呑みながら言った。
「全部酒に飲まれて、飲み込まれた後の人間の残滓が俺達酔いどれ決死隊なんだ」
酔いどれサムライ、ドブロクが何か言う前に体育館の床にゲロを吐き始めた。
「俺達は…うううっ!げぇっ!」
辺りに嫌な、酸っぱい匂いが漂いはじめた。
プランデーが笑いながら言った。
「あひゃひゃひゃひゃ!ドブロクは直ぐにゲロ吐くんだよ!あひゃひゃひゃ!」
スカイは言った。
「汚ねぇな。吐くんじゃねぇよ」
ウォッカが言った。
作品名:戒厳令都市デタトンの恐怖 作家名:針屋忠道