戒厳令都市デタトンの恐怖
「魔法使いだって歳とったらボケて呪文を使えなくなるじゃねぇか」
ロマシク・ボンドネードは言った。
「その代わり、ボケたまま安定した高い地位に就ける」
モルガは言った。
「戦士だって高い地位には就けるさ」
どうやら。リートは、あまり娘の教育には熱心では無かったらしい。ミドルン王国の冒険屋組合の親方である、ボンドネード・ファミリーとはいえ、所詮は平民だ。貴族とは違う事にモルガは気が付いていない。
ロマシク・ボンドネードは溜息をついた。
ロマシク・ボンドネードは言った。
「この状況は悪いが、ボンドネード・ファミリーとしては、ミドルン王国の国王陛下から勅命を受けている以上解決しなければならない。ガミオン大臣も来ると言うしな」
スカイとマグギャラン、コロンの三人は三日間、フラワー・ビレッジの農家の家に逃げ出さないように手枷足枷を填められて軟禁されていた。ポロロンは自分から参加すると言う事で、手枷足枷は填められていなかった。
マグギャランは言った。
「うむ、まあ、何だ。監視付きの軟禁状態で、三日間を過ぎたが。一体全体我々は、これから、どうなるというのだ」
マグギャランはコーン・スープをスプーンで飲んで居た。
スカイはパンの塊をコーン・スープに浸した。
スカイは言った。
「まあ、何か嫌な感じだな。どうやって逃げ出すか考えないと駄目だぜ。だが武器や財布まで取り上げられているし。俺達は身動きが出来ない」
スカイは、コーン・スープを吸ったパンを食べながら言った。
ポロロンは言った。
「わたくしは、何時でも正義のために死ぬ覚悟は出来ています」
ポロロンもパンを千切って食べていた。
マグギャランは言った。
「ポロロン、正義なんかより、まずは自分の命の方が大切なのだ」
ポロロンは言った。
「いいえ、わたくしは、誇り高きアッパカパー伯爵家の娘です、正義のためには死を厭いません」
スカイは、ふと気が付いた。
スカイは言った。
「なんで、そんなに正義が大事なんだよ」
ポロロンは言った。
「アッパカパー伯爵家の先祖のナーロン・アッパカパーは、当時コモン全域を支配した、悪逆非道の皇帝、絶望と頸木の王に反抗して、アッパカパー要塞を築いて抵抗をしたのです。その巨万の悪をも恐れず敢然と正義を貫く姿勢こそはアッパカパー家の血を引く者としての当然の責務なのです」
マグギャランは言った。
「あのなあ、そんな昔の事を言ってどうするのだポロロン。絶望と頸木の王の帝国は今から、約三百五十年ぐらい前に崩壊してしまったのだぞ」
ポロロンは言った。
「絶望と頸木の王が滅びようとも、アッパカパー家の正義の心は揺るがず、残っています。また何時、何時、悪の帝国が栄えようともアッパカパー家は正義を貫き抵抗をするのです」
スカイは呆れていた。これは、とんでもない頑固者だった。
コロンがコーン・スープに、むせて咳をし始めた。
「ごほっ、ごほっ」
マグギャランは言った。
「ポロロン。自分が世間知らずだと思ったことはないのか。もう少し世慣れた方が良いのだぞ」
ポロロンは言った。
「はい、わたくしは世間知らずですが、これからは世間の事を勉強していきます。何か問題が、あるのでしょうか」
スカイ達三人は顔を見合わせて溜息をついた。
冒険屋のパーティー「キャンディ・ボーイズ」は、小イジア奪還の仕事に成功して、ホーム・タウンの「浮遊都市ウダル」を目指して、フラクター選帝国製のエアカーに乗って旅を続けていた。
リーダーの戦士ローサル、盗賊のソフーズ、魔法使いのシャール・ジャーハ、医者のターイ・ラッスルの四人は、ツルッペリン街道沿いの宿場町である、ピジ男爵領のピジの町にある宿屋「鸚鵡返し」の一階の小料理屋でテレビを見ていた。
ソフーズがガムを膨らませながら言った。
「おい、ローサルどうしたんだよ、やけに真剣に、デタトンのニュースを見ているじゃないか」
ローサルは言った。
「ミュータント問題が、何で、こんなに長引いている。シャールは、どう思う?」
シャールは白い表紙の呪文書を読みながら言った。
「さあな。「雷光の裁定」学派は魔法使いとして強いことが全てだ。ミュータントだろうとモンスターだろうと雷光で焼き払えば事足りる」
ローサルは言った。
「もう少し、お前も、魔法使いらしい蘊蓄を垂れてくれよ。お前は、俺の王国の宰相になるんだぜ」
ローサルが王になると言う話しを仲間達は本気にしていないが、ローサルは本気だった。
シャールはムッとした顔をした。
シャールは言った。
「ミュータントは、普通のモンスターとは違う。原則的にはミュータント化を起こす薬品を生物に投与する事で誕生する」
ソフーズがガムを噛みながら言った。
「その薬品をデタトン製薬では作っていたのか?」
ソフーズはガムを膨らませた。
ターイが、紅茶を飲みながら言った。
「普通の錬金術の医薬品を作っているのがデタトン製薬です。そんな、ミュータント化薬なんか作りませんよ。普通に考えればですが」
ローサルは言った。
「普通はな。だが、ミュータント問題が起きているだろう。何か、あるぜ、裏が」
ソフーズが膨らませたガムが割れた。
「カネになるかな」
ソフーズがガムを指で口にしまって言った。
ローサルはテレビを見ながら言った。
「カネにはなるかどうかは、わからないが、何かが在ることは間違いないぞ。これだけ、大仰なテレビのコマーシャルまで流して、冒険屋達を狩り集めて居るんだ。普通の話じゃないだろう」
シャールは言った。
「どうするつもりだ」
ローサルは言った。
「情報が欲しいな」
シャールは言った。
「妥当な線だ」
ソフーズは言った。
「それじゃ、俺が、ラリゴロ一家の情報屋の穴猿に聞くよ」
ローサルは言った。
「ああ」
ソフーズはピンク色の地に、金色の水玉がプリントされた携帯電話を取りだした。
ソフーズは携帯電話に言った。
「ああ、穴猿か。俺だよソフーズだ」
穴猿というのは、ミドルン王国の首都である浮遊都市ウダルで勢力を持っているマフィアの一味、ラリゴロ一家の情報屋だった。噂では百個の携帯電話を持って情報を集めているらしい。
ソフーズは話し終わると。ローサル達に言った。
「変な話だぜローサル。穴猿の話じゃ、ミュータント騒ぎじゃ無くて、もっと危険な怪物達がウロウロしているらしい。なんでもミドルン王国の軍隊の二千五百人が全員ミュータントに、なったらしい上に訳の判らないモンスターがウロウロと、しているらしいんだ」
ソフーズは携帯電話を、しまった。
ローサルは言った。
「どういうことだ」
シャールは言った。
「ミュータントに、なったからといって、普通のモンスターより強くなるわけではない」
ターイは言った。
「ええ、そうです。ミュータント化は大概の場合。身体に異常が生じる場合が、ほとんどです。身体に異常が生じたからと言ってモンスターより強くなるわけでは無いのです」
ソフーズは言った。
作品名:戒厳令都市デタトンの恐怖 作家名:針屋忠道