戒厳令都市デタトンの恐怖
「ええい、畜生め!テメェ等、来ちまったじゃねぇかよ!ラリー、スレッド、タック、パーナー!テメェ等四人、オレが死んだら呪って孫子の代まで祟ってやる!」
マグギャランは言った。
「何がフラワービレッジだ。俺達の棺桶に入れる花でも作っているのか」
マグギャランも嫌そうな顔をして辺りを見回していた。
スレッド・プロンコが馬から下りた。
スレッド・プロンコは言った。
「すまんな、だが、俺達はパーナーが居るから、ミュータント問題は避けて通りたいんだ。俺はパーナーを守りたいんだ」
パーナーは言った。
「ありがとうスレッド」
パーナーがスレッドに寄り添った。スレッドはパーナーの肩に手を回して抱き寄せた。
パーナーは涙を流して白いハンカチで拭いていた。
スカイは叫んだ。
「やい!スレッド!パーナー!テメェ等、昼間っからイチャついているんじゃねぇ!俺達は、これからテメェ等のせいでデタトンに行くんだよ!」
パーナーがスレッドを見て言った。
「あんな事言っているよスレッド」
スレッドが言った。
「俺達が、うらやましいからさ」
パーナーが言った。
「やっばり、そうだね」
スレッドが言った。
「俺達はラブラブだからさ」
パーナーは言った。
「ラブラブ?」
スレッドは言った。
「そうラブラブ」
ポロロンが前に出てきた。そして、良く通る大声で話しだした。
「皆さん聴いて下さい!わたくしにも事情は判りました!ミュータントが発生して無辜の民が傷つき虐げられているのですね!」
スカイは言った。
「そんな立派な、もんじゃねぇよ」
ポロロンは、真面目な声で言いだした。
「いいえ、わたくしは判りました。正義ですね。正義が必要なのですね」
マグギャランは言った。
「いや、事態は正義と言うより、不法投棄の後始末の問題だろう」
ポロロンは言った。
「そう、不法。まさに正義が必要な証」
ポロロンは何処か遠くに行ってしまっていた。
スカイはマグギャランに言った。
「なんだ、ポロロンの様子が変だぞ」
マグギャランも怪訝そうな顔をして言った。
「さあな、どうしたんだ」
そういや、アッパカパー要塞で、小イジアのラブレターを渡したときに似ていた。
ポロロンは爽やかな笑顔と共に言った。
「決めました。わたくしも微力ながら、正義のために手伝います」
ロマシク・ボンドネードの仕事をモルガは手伝っていた。
「へへっ、伯父貴も、意外と、たるい仕事しているじゃねぇか」
ロマシク・ボンドネードの姪のモルガ・ボンドネードがサバイバルナイフで爪を研ぎながら獣のような笑顔を浮かべて言った。
確かに、たるい仕事をしてると言えばしているのかもしれない。だが、一度出動したミドルン王国の軍隊二千五百人が帰って来なかったと言うことで、問題は、かなり難航している事も事実だった。そして、辛うじて逃げ延びてきた生存者達の証言を総合すると恐ろしいミュータント化がミドルン王国の軍隊に起きた。ヘタに軍隊を動かすとミュータントの数が増えるという困った状況の中で話は進んでいるのだから。少数精鋭の冒険屋のパーティを使うのは必然的な成り行きだった。この場合冒険屋達が全員ミュータント化しても、数の上では、あまり問題は無かった。
ロマシク・ボンドネードは言った。
「私だって、ミュータントに、なりたくは、ないんだよ」
ロマシク・ボンドネードは、フラクター選帝国ヤマト領産の緑茶シブミを飲んだ。ロマシク・ボンドネードの仕事は頭を使う仕事だから、わざわざ危険な仕事をする必要は、なかった。集められた人材をマネージメントする仕事なのだ。
モルガは言った。
「確かに、そうだよな。だから、冒険屋達を集めている」
ロマシク・ボンドネードは言った。
「分かり易く言えばそうだ。この作戦の概要は極めて合理的だ、まず冒険屋達は、デタトンに向かう突撃要員の冒険屋のグループと、その突撃要員を集めるグループの二つを用意している。まあ行政にも頼み込んで、冒険屋を見つけたら、デタトン市対策へ送り込むようにミドルン王国全土に報告が行っている筈だ」
モルガは言った。
「へへっ。人狩りって事だよな」
モルガは獣のような笑みを浮かべてサバイバルナイフで爪を削り続けていた。
ロマシク・ボンドネードは言った。
「人聞きの悪いこと言わないでくれ、冒険屋はリスクを取ってハイリターンを得るゲームのプレイヤーなのだよ。彼等には、国家への御奉仕と言うことで納得して貰うしか無い」
モルガは言った。
「まあ、自分からノコノコやって来るバカな冒険屋のパーティも結構居るし。この作戦も満更悪くもねぇやな。ヘヘヘヘヘ。自分の命より大切なモノなんか何処にもねぇのによ」
モルガは削った爪を見ながら、がさつで下品で品性の欠片も無い笑い声を上げて言った。
ロマシク・ボンドネードの娘のイオラ・ボンドネードも、子供の頃から頭が悪くて、魔法使いにも医者にもなれない事が早くから判ったから、子供の頃からスカウトの訓練をさせて、弓術の免許まで取らせたが、やはり、前線で戦う戦士に、させなかったのは正解だったとロマシク・ロマシクボンドネードは思っていた。戦士などという職業は、およそ、女が就くべきではないとロマシク・ボンドネードは思っていた。目の前に最悪の状態に陥っている姪が居た。これは最早、女という性別ではなく雌の獣だった。
ロマシク・ボンドネードは言った。
「冒険屋のパーティが予定の数、揃ってから、まずは、デタトン市への偵察任務を開始して貰う」
モルガは言った。
「ほう、まずは偵察か」
ロマシク・ボンドネードは言った。
「ああ、そうだ。第一段階ではデタトン市の状況を携帯電話で逐次報告して貰う。そして我々デタトン問題対策委員会が作っている、デタトンのミュータント分布マップを完全にしていく。第二段階では、ミュータント分布を、しっかり把握して分析した結果を用いて。ミュータントの発生源を突き止める。第三段階ではミュータントの発生源を潰す。これが、今まで黙っていたが、私のプランだ」
モルガは言った。
「だが数は、どうするんだ。デタトン市には約五万人の人口に加えて、ミドルン王国の軍隊がミュータント化して、概算で合計五万二千五百匹のミュータントと戦わなければならないんじゃねぇのか。こりゃ大事だぜ」
ロマシク・ボンドネードは言った。
「冒険屋は小回りの利く少人数で構成されている、一度に戦うミュータントの数は極めて少ないはずだ。特にデタトン市の中に入れば、町の複雑な地形が、冒険屋に味方する事になる。デタトン市は都市計画が無い状態で作られた古い街だ」
ロマシク・ボンドネードは机の上に広げられたデタトン市の地図を見ていた。
モルガは言った。
「だが、このミュータント達は、かなり強力だぜ。デタトンから戻った五人の兵士達が、ミュータント化したとき、殺すのに、かなりの犠牲がでた。アタイ達も手を焼いた。ウッゾは死んだからな」
作品名:戒厳令都市デタトンの恐怖 作家名:針屋忠道