死闘のツルッペリン街道
ダンジョニアン男爵が実は、怪物レクリエーターに憑依されていたとは少々言いづらかった。メルプルとブルーリーフ男爵が昨晩、ダンジョン競技の中止を宣言したことはスカイはテレビで見て知っていた。
女は首を捻って言った。
「おかしいわね。ダンジョニアン・ストーカーのラメゲ・ボルコに聞いても、ダンジョン・ストーカーズをクビになったと言うし。本当にダンジョニアン男爵の迷宮競技は中止となるのかしら。ダンジョン競技は、あれだけの国際的なスポーツなのだし」
スカイ達は待合い席まで歩いていった。
スカイは言った。
「それじゃ、俺達は借金の返済は済んだから、これから、「懐かしのウタタ」経由で、ミドルンのニーコ街に帰るか」
ルシルスは変な声を上げた。
「えーっ!私をタビヲン王国の実家まで送ってくれるんじゃ無かったのですか!」
スカイは言った。
「そういや、そんな約束をしたか」
マグギャランは言った。
「スカイ、何、とぼけた事を言っているのだ。ルシルスの、お姉様達に会うという。騎士道的に重要な使命が在るのだ。借金は帳消しになったし、ルシルスの、お姉様達に会う事は重要な、ご褒美なのだ。やはり善行を積めば、それなりのリターンが欲しくなる物なのだ。そして今、神は、俺にルシルスの、お姉さま達と引き合わせるというリターンを、くれようとしているのだ。まさに、これぞ果報に相違ない」
ラメゲが、眠そうな顔して立ち上がった。
「駄目だな」
ラメゲは背筋を伸ばしたと思うと、急に、前屈みになって口を押さえてフラついた。
マグギャランは言った。
「何が駄目なのだラメゲ・ボルコ。迷子の子供を連れていって、その家族に、ごく普通の暖かい家庭的な濃厚でディープな、もてなしを受けようと言うのだ」
ラメゲはクビを左右にコキコキと鳴らして言った。
「いや、俺が困るんだ。ルシルス様と2人きりで、タビヲンまで帰るとなると、タビヲンの習わしで非常にマズイ事になる。お前達には、女の魔法使いが仲間に居るだろう。だから、一緒にタビヲンまで来てくれた方が話の通りは良くなるんだ。俺も死にたくないからな」
マグギャランは頷いてスカイの左腕を軽く叩いて言った。
「そういうことだスカイ。タビヲンに行くのだ」
ラバナは言った。
「ちょっと待ちなさいよ」
バゲットは言った。
「そうだ、私達に雇われているのだろう」
スカイは言った。
「「懐かしのウタタ」まで行ってからタビヲンに行けば良いんだろう」
マグギャランはルシルスの方をチラチラと見ながら言った。
「俺には迷子のルシルスを家に送るという騎士道的な使命があるのだが」
なんか犯罪を起こしそうな奴の目つきだった。
その時、スカイは肩を軽く叩かれた。
スカイは杖で肩を叩いたコロンを見た。
スカイは言った。
「何だよコロン姉ちゃん」
コロンは言った。
「……スカイ。森人の女の子から貰った仕事の依頼料を、まだ、貰っていない」
コロンは百八十?ある長い杖を肩にかけて白い手袋で覆われた右手を出した。
マグギャランは言った。
「確かに、すっかり忘れていたが、カネの話しは綺麗に片づけなければな」
マグギャランも手を出して頷いた。
スカイは黒いカーゴ・パンツの左ポケットにしまった、メルプルからの仕事の依頼金は、
一万六千五百二十一ニゼ(八千二百六十円五十銭)だった。
スカイは言った。
「しょうがねぇな。一万六千五百二十一ニゼ(八千二百六十円五十銭)を三等分だ」
マグギャランは言った。
「また、随分と端数なのだな」
コロンは素早く暗算して言った。
「…一人五千五百七ニゼ(二千七百五十三円五十銭)」
スカイは安物の財布の中から金貨や銀貨を取り出して、マグギャランとコロンに渡した。
メルプルから受け取った依頼料は別にとっておいた。
バゲットは咳払いをした。
「ゴホン」
バゲットは続けて言った。
「まずは、バゲット商会のウドル支店の店舗で宿屋の代わりに宿泊しよう。宿泊費はタダで、食費は各自持ちだ」
ラバナは言った。
「そうよ各自持ちなんだからね」
スカイは言った。
「こすっからいな、食費ぐらいだせよ」
バゲットは言った。
「経営者の常は、常に、節約が常で在り、節約、倹約、全てに常に常。無駄な経費は、出さぬのだ」
ラバナは言った。
「そうよ、倹約なんだからね」
そしてスカイ達は、バゲット商会のウドル支店をバゲットの道案内で目指した。途中でコロンが持っていた、ダンジョニアン男爵の迷宮競技の優勝トロフィーをミドルン王国のニーコ街へ送った。
煉瓦造りの古い建物で。「バゲット商会」と金属製の看板で透かし彫りされていた。
だが、入り口が、だらしなく開いていた。
スカイは言った。
「おい、玄関を見ろ。扉が開いて居るぞ不用心だな」
バゲットは言った。
「何!そんな筈はない!社員教育は徹底している筈だ!戸締まり重要と、火の元安全はバゲット商会マニュアルに規定されているのだ!」
スカイは言った。
「だが開いているよ」
ラバナは言った。
「父さん、嫌な予感がするわ」
バゲットは慌てた様子で扉をくぐった。
そして、バゲットは叫んだ。
「な、なんだこれは!」
スカイは、バゲットの肩の後ろから中を見てみた。バゲット商会のウドル支店の中では、従業員達が、みんな倒れていた。
スーツを着た男女の従業員達が、床の上で失神していたり、倒れてもがいているのだ。
バゲットは中に入っていった。
ラバナも中に入り、スカイ達とラメゲとルシルスも後に続いた。
「どうした!何があったんだ!私は会長のバゲットだ!何が在ったか!報告せよ!」
バゲットが助け起こした「支店長」とネームプレートに書かれた従業員が言った。
「ケツが大地を引き裂いて!…ああっ、恐ろしい…ケツが!ケツが!」
女性の従業員が目を押さえて身もだえしながら言った。
「な、殴り込みです。赤い霧が私の目から視力を奪った!ああっ!ヒリヒリして、ああっ、まだ痛い!」
バゲットは言った。
「ケツと大地と赤い霧とは何なのだ!」
そして、外で馬車の走る音がした。
外から男の声が聞こえてきた。
「ミスター・バゲット。私だ。ブリディ・ブリリアントだ」
バゲットが叫んで入り口の扉を見た。
「何!ブリディ・ブリリアントだと!」
紫色の四頭立てのゴージャスな馬車の窓から、金縁眼鏡を、かけた金髪の刈り上げ頭の男が笑みを浮かべて居た。
ブリリディ・ブリリアントは言った。
「そうだ。私だよ、ブリリディ・ブリリアントだ。これは、ほんの警告だよ。君は私のブリリアント商会主導のバゲット商会に対するM&Aの話を断ったからね。お仕置きなのだよ。どうする?ここで私のブリリアント商会に吸収合併される事を選ばないかな?」
バゲットは言った。
「バケット商会は、先祖代々バゲット家が受け継いできた商会だ。簡単に、吸収合併など、されてたまるか」
ラバナは言った。
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道