死闘のツルッペリン街道
まあ、あの獄門惨厳塔のゴッチャゴッチャした状況ではメモの事なんか忘れても仕方がないよな。いきなり結婚を申し込んできたり、よく判らない女だった。メルプルからの仕事が終わって、コロンと一緒にマグギャランを捜しに階段を降りていく途中で、「ルルと仲間達」の五人と会ったが、ウロンは機嫌の悪そうな顔で「カッコつけすぎ」と言って、そのまま仲間と一緒に走っていった。その後で、黒鷹の連中達とも会った。
マグギャランは言った。
「オレの見立てでは、耳が尖った娘より、あの眼鏡娘の方が、お前のストライクゾーンに近いことは判っている。あの、デタラメな、どさくさの中で、お前もモンスター退治の冒険屋稼業から足を洗うチャンスを逃したというわけだ。あの娘なら、お前を、もう少し真っ当な仕事に就かせることは間違いないからな」
スカイは言った。
「うるせぇな。お前こそ、昨日はナンパが全部スカっただろう。見ていて情けなかったぞ」
マグギャランは窓の外を見ながら言った。
「いや、そうでもないさ。悪党を一人、始末できた。十分な成果だ。女より重要な事だ」
後ろから、馬の蹄鉄がツルッペリン街道の路面を叩く音がした。
フラクター選帝国製のエア・バスに併走するように二頭の馬に乗った、二人組の若い男達が、やって来た。
顔の下半分に金属のマスクを付けたゴッツイ顔の男が誰何した。
「バゲットに娘のラバナだな!」
髪の毛の右側を半分剃っていて、青ゾリが入っている。剃っていない頭半分の髪の毛は長く伸ばして、固めていた。連銭芦毛の馬に乗ってポンチョを、はためかせている。
顔の下半分に鎧を付けた目の大きい女のような顔をした男が、栗毛の馬の上で叫んだ。
「兄者!間違いない!俺に任せろ!はいよっ!」
髪の毛の左側を半分剃って青ゾリが入っている男が、走る馬をスカイ達の乗って居る路線エアバスに寄せてきた。
ゴッツイ顔の男と同じ様な髪型を左右逆でしている。
ラバナが人差し指で、指しながら叫んだ。
「スカイ!これが私達を追っている相手!悪漢の「青ゾリ兄弟」よ!右側に青ゾリが入っているのが兄の「右青ゾリのゴドル」!左側に青ゾリが入っているのが弟の「左青ゾリのギーン」よ!」
マグギャランが言った。
「青ゾリ兄弟?見た目のまんまだな。ただのバカにしか見えないぞ」
バゲットがスカイを指さして叫んだ。
「さあ、戦え!我々が雇った護衛達よ!」
ラバナが言った。
「そうよ戦いなさい!」
スカイは言った。
「仕方がねえな」
スカイは腰の剣を抜こうとした。だが、剣が無かった。スカイの剣はダンジョニアン男爵の迷宮競技で折れていた。
スカイは言った。
「あれ、剣が折れていたんだ」
弟のギーンが叫んだ。
「兄者!奴等は護衛をトラップシティで雇った!」
スカイは言った。
「何の用だよオマエ等!」
マグギャランも言った。
「そうだ!何の用かと聞いている!」
兄のゴドルが叫んだ。
「何、そうなのか!ええい、血祭りに上げてくれる!成功報酬はオレ達の物だ!グローバル化時代の勝ち組となる!」
マグギャランは言った。
「おい、バゲット!コイツ等を、どうすればいいんだ」
だが、バゲットは、マグギャランに返事せず、運転席の運転手に言った。
「おい運転手!アイツ等は!街道周辺に出る盗賊だ!強盗だ!早く走らせろ!」
バゲットは運転手に叫んだ。
フラクター選帝国製のエア・バスのスピードが上がった。
スカイは馬を走らせてフラクター選帝国製のエア・バスと併走している「青ゾリ兄弟」を見ながら言った。
「ちっ、アイツ等、どんな武器や技を使うんだ。魔法使いには見えないな。オレは今、剣がねぇ。くそっ!ラメゲ一本剣を貸せよ」
スカイは自分の腰を見て毒づいた。
スカイの剣は昨日のダンジョン競技で開始早々にギロチンの罠で折れてしまったのだ。
ラメゲは剣を叩きながら欠伸をして言った。
「嫌だな。この十本剣はボルコ家の誇りであり、命であり、一族の血を背負うモノだ。簡単に貸せるモノではない。そして俺の出る幕ではない。俺は、かったるいから寝る。間違えた、ルシルス様を見張っていなければならん」
ギーンが走る駅馬車の扉の無い入り口に馬を寄せて併走させながら言った。
「ええい!護衛共め!兄者!馬を頼む!俺が中に飛び込んで始末してやる!」
そして、ギーンは馬の鞍の上に立ってから駅馬車の入り口に飛び移って中に入ってきた。
栗毛の馬の手綱を兄のゴドルが捕まえて、併走していた。
スカイはフラクター選帝国製のエア・バスの昇降口でギーンが飛び込んでくるのを待っていた。
スカイはギーンの腹を蹴飛ばしながら言った。
「オラっ!」
ギーンは言った。
「うおっ!」
だが、ギーンは入り口に付いた左右の、手すりに捕まって踏ん張っていた。
スカイは更にギーンの腹に蹴りを入れた。
スカイは言った。
「落ちろ!この野郎!」
ギーンはスカイの右脛を思いっきり蹴っ飛ばしながら言った。
「落ちるか!」
スカイは叫んだ。
「イテェ!」
スカイは右脛を抱えて跳ね回った。
ギーンはフラクター選帝国製のエア・バスの中に入ってきた。
ギーンは言った。
「俺はギーン。マンティコア流二丁剣の使い手だ」
ギーンは腰から、刃渡り五十センチぐらいの小剣を両手に一本ずつ持って鍔に付いている丸い輪っかに指を通してグルグルと回してから構えた。
マグギャランは言った。
「スカイ、お前が戦え。エア・バスの中では、俺の長剣は長すぎて取り回しづらい、ナイフの方が戦いやすいだろう」
スカイは言った。
「しょうがねぇな」
スカイは腰の刃渡り四十センチのナイフを抜いた。
ギーンは言った。
「獅子面(ししめん)の構え」
ギーンは左腕を上にして上下に構えた。
そして突進してきた。
スカイはナイフでギーンの右手に持った上の小剣を受けた。
だが、ギーンは更に同時に二本の小剣を突きだした。
やべぇ!
スカイは後ろに飛ぼうとしたが、乗客の足に引っかかって転けた。
不味い!
スカイは倒れたまま焦った。
だが、ギーンの攻撃が来なかった。
ギーンは言った。
「うおっ!なんて美人なんだ!」
ギーンが余所見して、眠っているルシルスを見ていた。
ギーンがルシルスを見ている間にスカイは立ち上がった。
ラッパの音が鳴り響いた。
ゴドルが叫んだ。
「おい、ギーン!街道警邏隊だ!いったん引くぞ!」
ギーンも叫び返した。
「判った兄者!」
ギーンは二丁剣をグルグルと回して交差させて両腰の鞘に収めた。
そして、昇降口から、ゴドルが手綱を引いてきた併走する栗毛の馬に飛び移った。そしてツルッペリン街道から、離れて路肩に入っていった。
スカイは言った。
「逃げたか」
スカイは、警邏隊が来るのを見ていた。
戦いの間は気がつかなかったが、スカイはギーンに左腕を切りつけられていた。そして血が流れていた。浅い傷だった。
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道