死闘のツルッペリン街道
ブリリディ・ブリリアントは言った。
「前金は払っている。残りの金は他のグループと競争して獲得する事に契約上決まっているだろう。競争。競争が市場を活性化させるのだよ。そして良質のサービスと言う形で労働力を提供するというわけなのだ。こうやって市場の自浄作用が働いて淘汰が行われるのだよ。君達、青ゾリ兄弟も淘汰されたくなければ結果を残すんだよ。そして私のような勝ち組に入りたまえ。結果が全てなのだ」
ゴドルは、うろたえた声で言った。
「こ、これが現代のグローバル経済化の影響なのか。なんて厳しいんだ。俺達兄弟は付いていけるのだろうか」
ブリリディ・ブリリアントは言った。
「フラクター選帝国による携帯電話の普及はコモン経済のグローバリゼーションを加速させ、市場の競争を激化させているのだよ。その中で勝ち組と負け組がハッキリと分かれているのさ。王侯貴族といえども、力を持った我々商人には一目おくような時代が到来しつつあるのだよ」
プリディはクロムとマグネシュウム強化チーズを一口食べながら携帯電話に向かって言った。そしてメロン果汁でシェイクしたプロテインジュースを、傍らの御者が冷蔵庫から取りだして渡されて飲んだ。ブリディ・ブリリアントの馬車にはフラクター製の電池が搭載されているのだ。
携帯電話に青ゾリ兄弟の弟のギーンの声が入ってきた。
「兄者!奴等だ!バゲットと娘のラバナが路線エアバスに乗っている!」
ゴドルの声が携帯電話の向こうからした。
「ブリリアントの旦那!オレ達は駅馬車の後を追って襲撃します!吉報をお待ち下さい!」
そして携帯電話を切ったようだ。
ブリディは笑った。
誰が、バゲットを捕まえようとブリディには関係がなかった。ただ、バゲットと娘のラバナを捕まえる事によって獲得される利益だけが重要だった。
ブリリディ・ブリリアントは保険の為に、次の宿場町ウドルの「ウォリア殺投術ヒゲン道場」に携帯電話をかけた。
既にタイダーの本社に居る、秘書で執事長ランダーから、この馬車にFAXで送り込まれた、レポートを読んでいる。
ウドルの街には、ならず者の世界で、名前の知れた「ウォリア殺投術ヒゲン道場」が在った。
道場主はヒゲン・デパーロ。
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「あー、君が、ウドル市の犯罪巷で聞く「ウォリア殺投術ヒゲン道場」のヒゲン・デパーロ君だね」
携帯電話の向こうでヒゲン・デパーロの声がした。
「そうだが、何の用だ。入門の希望者か」
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「少しばかり実入りの、いいアルバイトをしないかね」
携帯電話の向こうでヒゲン・デパーロが言った。
「幾らの仕事だ」
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「一人頭、百ネッカー(1000万円)の仕事だ。ただし成功報酬制だ。君達の他にも、悪漢の「青ゾリ兄弟」、詐欺師の「モンドマーネー劇団」が、この成功報酬を巡る争いに参加する事になる」
携帯電話の向こうでヒゲン・デパーロがヒューと口笛を吹いて言った。
「悪くない金額と条件だ。その話しは乗ったぜ」
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「それでは交渉成立だ。私は、ウドルの街に向かうとしよう。ブリリアント商会ウドル支店に来てくれ」
携帯電話の向こうでヒゲン・デパーロは言った。
「俺達は何をすればいいんだ」
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「単純な事だよ、ブレッダー・バゲットとラバナ・バゲットを捕まえて、手形を奪う事だ。一度ウドルの街のブリリアント商会に来てくれ。私も、これから、そこに行く」
携帯電話の向こうでヒゲン・デパーロは言った。
「判った。俺達は、俺も含めて師範三人に、知り合いのチンピラと、武器屋の女主人も仲間なんだ。五人で戦う」
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「いいだろう。手形を奪う事に成功しさえすれば。私も君達もウイン・ウインの関係だ。勝ちに行こうじゃ無いかヒゲン・デパーロ君」
携帯電話の向こうでヒゲン・デパーロは言った。
「あんた気に入ったぜ、カネ払いの、いい奴は、いつでも、いい奴だ」
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「それでは会う事を楽しみとしようじゃないか」
そして、ミンクの毛皮で覆われた携帯電話を切った。そしてFAXからランダーから送り込まれた情報を見ていた。バゲット商会は乗っ取る価値は在る。バゲット商会の時価総額は、二十万ネッカー(200億円在る)手形を奪い乗っ取る事が出来れば、ブリリアント商会は現在の時価総額が八十万ネッカー(800億円)から百万ネッカー(1000億円)の財閥になる。バゲット商会の二十万ネッカーの資産価値からすれば、ウドル道場に五百ネッカー(5000万円)支払っても安いものだった。実際、バゲット商会の資産から、ならず者達への報酬を支払う予定だった。
ブリリディ・ブリリアントが載っかった四頭立ての馬車はウドルの街を目指して走り出した。
マグギャランは、フラクター選帝国製のエア・バスから窓の外を見ながら言った。
「まあ、借金返済が可能になるとフラクター選帝国製の路線エアバスにも気兼ねなく乗れるという訳だ」
スカイは欠伸をしながら言った。
「まあ、そういう事になる。だが、昨日から眠っていねぇんだよオレ達。散々騒いだのによ」
マグギャランは言った。
「不規則な生活は冒険屋の職業病だ」
コロンはルシルスの隣で宿屋の「バカラ・バカラ」で買ったシーツに包まれたトロフィーを抱えて眠っていた。
ルシルスも一番端に座って、コロンの横で眠っていた。コロンとルシルスは頭を寄せ合って眠っていた。
乗客の一人が涙を流しながら言った。
「おう、あんたら、第7パーティの「ザ・ワイド・ハート」だね。第5パーティのサシシ・ラーキを連れて歩いているのかい?サシシ・ラーキは昨日の迷宮競技から生還して自由の身になったんだってな。いやあ、こんな美人なら命が助かってよかった」
ラメゲが剣の鍔を鳴らしながら言った。
「ルシルス様をジロジロ見るな。手打ちにするぞ」
乗客が皆、怯えた。
「ひいっ!ダンジョン・ストーカーズ、キリング・ランキング4位のラメゲ・ボルコだ!」
ラメゲは欠伸をした。
ラメゲは背中に剣を背負っていると駅馬車の中で座りづらいのか、十本の剣を背中から降ろして纏めて足の間に抱えていた。
マグギャランはニヤリと笑って、スカイに言った。
「おい、スカイ。そう言えば、ウロンとかいう娘は、やけにお前に、まとわり付いていたが。どうなったのだ」
スカイは言った。
「そういや、何か、住所と電話番号書いた紙を渡すとか言っていたが、結局貰っていなかったな」
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道