死闘のツルッペリン街道
ラメゲの手には、「コモン全版、ツルッペリン街道旅案内」という本が開いて握られていた。
マグギャランは言った。
「そう言えばバゲットよ、まだ報酬の話を聞いていなかったな」
バゲットが言った。
「報酬は一人頭三ネッカー(30万円)でどうだ」
スカイは言った。
「おい、旅費や宿代や関所の通行税は、そっち持ちだろうな。ウダルまで行くなら必要経費だけでもバカにならないだろう。それに、その金額は安すぎる」
バゲットは言った。
「いや、君達の旅費は報酬の中に含まれているよ」
マグギャランも言った。
「それじゃ報酬が安すぎるだろう」
ラバナが言った。
「アンタ達、私達を護衛するんでしょ。もう交渉は成立したはずよ」
スカイは手を振って言った。
「してねぇよ。お前達が勝手に言っているだけだよ。しかも、何か良く判らない奴等に追われてるって話じゃねぇか。危険手当が入ってネェよ、それ。問題外だよ。ちゃんと冒険屋組合を通じて仕事を出して来いよ。そうすれば、この手の護衛の仕事の相場が判るってモノだ。敵の登場頻度と危険度に応じて報酬の値段は変わって来るんだよ。事前の申請より多く敵が出たら違約金が取られる仕組みになって居るんだ」
どうも、バゲットとラバナはカネに汚い奴等のようだ。ケチさが、そこら中から、にじみでている。
バゲットは、不満そうな顔をしながら、言った。
「しょうが無い。この「トラップ・シティ」の冒険屋組合に行く。ついてきてくれ」
ラバナは言った。
「そうよ、ついてきなさい」
バゲットは言った。
スカイ達は朝食を食べ終えると「トラップ・シティ」の冒険屋組合へと歩いて行った。
早朝の事も在ったが、冒険屋組合は24時間営業をしているため、並ぶ事もなく、スカイ達はバゲットとラバナを冒険屋組合の受付に連れていった。
早朝の事も在り冒険屋組合の受付は男性だった。
バゲットは言った。
「えー、私達は、冒険屋組合に、護衛の仕事を依頼したい。ミドルン王国の冒険屋組合に加入しているパーティー、W&M事務所を雇いたい。今、W&M事務所は、ここに居る」
ラバナは言った。
「そうよ雇いたいのよ」
W&M事務所は、スカイとマグギャランのコンビが付けたパーティー名だった。
冒険屋組合の受付の男性は言った。
「どのような依頼内容ですか」
バゲットは言った。
「私と娘ラバナを「懐かしのウタタ」まで護衛する仕事だ」
ラバナは言った。
「そうよ、護衛するだけの仕事よ」
受付の男性は言った。
「それでは、敵の登場頻度を教えてください」
バゲットは胸を張って言った。
「全く出ない」
ラバナも胸を張って言った。
「そうよ、全く出ないんだからね」
スカイは言った。
「なに、黙って聞いていたらウソこいているんだよ。オマエ等。ブリリディ・ブリリアントに追われていて、「トラップ・シティ」に逃げ込んだんだろう。
マグギャランも言った。
「そうだ商売敵(がたき)に狙われているんだろう」
バゲットは言った。
「スカイ、お前の方こそ何、嘘を言っているんだ。我々は、敵に追われていない」
ラバナは言った。
「そうよ、追われていないんだからね」
マグギャランもバゲットとラバナを見ながら言った。
「それなら、なんで俺達に護衛の依頼をするんだ」
バゲットは言った。
「一応、念のためだ」
ラバナは言った。
「そうよ、念のためよ」
スカイは受付の男性に言った。
「コイツ等二人は、凄い、狡っ辛いヤツ等なんだ。結構敵は出るという頻度で査定してくれ」
冒険屋組合の受付の男性は言った。
「判りました。パーティの格付け査定により、「懐かしのウタタ」までの護衛料金は、敵の登場頻度がレベル5、敵の強さが比較的弱いで査定します。一人十ネッカー(100万円)。三人の合計が三十ネッカー(300万円)です」
バゲットは言った。
「高すぎる。そんな大金は支払えないぞ」
ラバナは言った。
「そうよ高すぎるのよ」
スカイは冷たい視線でバゲットとラバナを見ながら言った。
「それじゃ、俺達を雇うのを止めたらどうだ」
バゲットは悔しそうな顔をしてスカイ達を見ていた。
「三十ネッカー(300万円)が如何に大金だか判らぬのか」
ラバナは言った。
「そうよ大金なんだからね。コツコツ真面目に働いている私達には大金なんだからね」
マグギャランは言った。
「支払う気があるのか無いのかハッキリしろ」
バゲットは嫌そうな顔をして、財布からネッカー金貨を三十枚出して冒険屋組合の男性に渡した。
スカイは言った。
「それなら、冒険屋組合の仕事が入った事になるな。
ラバナは言った。
「お金は支払ったからね。キリキリと働くのよ」
マグギャランは頷いて言った。
「仕事は入った事になる」
コロンはトロフィーを持ったまま両脇を開いて閉じて気合いを入れるようにして言った。
「……冒険屋の初仕事」
スカイ達が、外に出ると、ルシルスの周りに男が集まっていた。ラメゲ・ボルコは腕を組んで壁に寄りかかりアクビをしていた。
その頃、ブリリディ・ブリリアントは、ツルッペリン街道の路肩に馬車を止め、ミンクの毛皮で覆われた携帯電話を掛け青ゾリ兄弟のゴドルと話しをしていた。
「まだ見つからないのかね。バゲットとラバナは」
赤ワイン色の四頭立ての馬車に乗りながら中で八十キロのダンベルを使ってリストカールをしていた。ブリディ・ブリリアントは健康に気を付けて日々のウェィト・トレーニングとサプリメントの接収とプロテイン・ドリンクを欠かさなかった。
青ゾリ兄弟の兄ゴドルが、携帯電話の向こうで言った。
「はい、プリリアントの旦那。奴等が雇ったランボール軍団十五人は、俺達二人でボコって病院送りにしましたが。バゲットとラバナがトラップ・シティの中へ逃げていくのを最後に目撃したっきり、行方がしれません。今はツルッペリン街道のトラップ・シティへ向かうT字路で様子を伺っています。昨日の夜中に奇怪な怪物が乗った馬車の行列が通り過ぎましたが、バゲットとラバナは乗っていなかったようです」
ブリリディ・ブリリアントは苛立った。
ブリリディ・ブリリアントは言った。
「ぬるいね。ぬるいよ。青ゾリ兄弟君。君達の裏をかいて、農道や、獣道を通って先行している可能性を常に考えないと駄目だ。だが、奴等は必ずツルッペリン街道に戻ってくる。何故なら、「懐かしのウタタ」への最短のルートはツルッペリン街道だからだ」
ゴドルは言った。
「それでは、奴等は、もう、このトラップ・シティへ向かう道には居ないと言うことですか。それではオレ達もツルッペリン街道を西にミドルン王国へ向けて向かいます」
ブリリディ・ブリリアントは言った。
「私はね、今、ヒマージ王国のウドルの街に来ている。ここで奴等を待ち伏せするつもりだ。君達だけでは不安なので強力な助っ人を雇う事を考えている」
ゴドルは言った。
「そんな!オレ達の成功報酬はどうなるんです!オレ達はランボール軍団を全員病院に送ったんですよ」
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道