死闘のツルッペリン街道
「えー、私は、コモン共通騎士証を持つ自由騎士(フリー・ランサー)マグギャランである。今回は、ヒマージ王国軍一万の軍勢で、5倍の兵力差のある、五万の暴走山賊団「闇の腕」を討伐しなければならない」
テンションの低い沈んだ、拍手が鳴り響いた。
「それでは、ハッキリ言おう。我々は勝たねばならないと言う事で在る」
途端に、講堂の中のヒマージ王国軍の隊長達が次々と不満の声を上げた。
「たった、一万の軍勢でどうやって戦うんだ」
「無理だ。負け続けている」
「俺達を殺すつもりか」
「俺達は負け続けている、これ以上戦うのは無理だ」
「撤退だ。「バラントの街」を放棄して撤退しかない」
「アイツラは、興奮剤をキメているから、キレているんだ。俺達じゃ勝てねぇ」
「殺される。殺されてしまう」
マグギャランは演壇を叩いた。
マグギャランは言った。
「静粛に、これより、暴走山賊団「闇の腕」との戦い方を教える」
だが、隊長達は後ろ向きだった。
「俺達じゃ勝てっこねえよ」
「大体、アイツラ強いんだよ」
「俺達なんか、鎧兜着ても上半身裸のアイツラに勝てないんだよ」
「やっぱり、興奮剤キメているから、強いんだよ」
「いやだ、戦斧を持った、アイツラの雄叫びが耳に残っているんだ」
マグギャランは演壇を叩いた。
マグギランは言った。
「静粛に、なぜ、君達ヒマージ王国軍は「ヒース平原」の戦いで負けたか判って、いないのか?」
隊長達は更に後ろ向きになった。
「そりゃ、アイツラが俺達より数が多く強かったからだよ」
「そうだよ、俺達が弱いから負けたんだよ」
「やっぱりさ、数が多い方が強いよね」
「負けるべくして負けたんだ」
「やっぱり、興奮剤キメているから、アイツラ強いんだよ」
マグギャランは演壇を叩いた。
マグギャランは言った。
「それでは、本題に入る。なぜ、負けたか総括をしよう。感情論に走ってはいけない」
とたんに講堂内が静寂に包まれた。
マグギャランは言った。
「「ヒース平原」での戦いでは、どのような陣形を組んでいた」
エルレア・メキア女将軍が手を上げた。
マグギャランは言った。
「はい、メキア将軍答えてくれ」
エルレア・メキア女将軍は言った。
「私達、ヒマージ王国軍はロチナ将軍の采配の下で、三角陣を組んでいました」
隊長達が不平を言い出した。
「そうだよ。それが裏目に出たんだ」
「三角陣が有効に機能しなかった」
「俺達ヒマージ王国軍が、敗走するとき、
暴走山賊団「闇の腕」に逆に三角陣で食い破られたんだ」
「三メートルを越す、バケモノのような背丈の女山賊が、踏ん張って、逆に三角陣で攻め込まれて、やられたんだ」
「俺達は十分戦った、はずなのに負け続けているんだ」
マグギャランは言った。
「それだけで負けたと考えているのか?だとしたら、諸君等は、大きな間違いをしている」
マグギャランは黒板の前に立って、白墨で図を描きながら言った。
五人の○と棒で描かれた人間が一人の○と棒で描かれた人間を囲んでいる図をマグギャランは描いた。
「戦術の基本とは各個撃破に在るのだ。暴走山賊団「闇の腕」は、一人のヒマージ兵士に対し、五人ががりで攻撃をしている。これは、各個撃破を暴走山賊団「闇の腕」が行っている事になる。五人一組で一人のヒマージ兵士を相手にすることになる。これならば、鎧兜で完全武装した、ヒマージ王国の兵士でも、髪の毛を逆立てて、上半身裸で武器を持っている暴走山賊団「闇の腕」の一人に敵わない事になる」
エルレア・メキア女将軍は手を上げて言った。
「ですが、ヒマージ王国の我々の軍隊は二万送り込まれましたが。暴走山賊団「闇の腕」との戦いで約半数が戦死と負傷で戦列を離れました。今戦える兵士は一万人と百人未満です」
マグギャランは言った。
「ふむ、ヒマージの手勢は一万か。五倍の兵力を相手にするのだ。難局では在るが方法は在る」
エルレア・メキア女将軍は言った。
「我々は、にわか仕立ての軍隊で、兵員を集めて送り込まれました」
隊長達が言った。
「俺達は民兵だ」
「騎士じゃないし、戦士でも無い」
「戦った経験は、暴走山賊団「闇の腕」を相手にしたのが初めてだ」
「ヒマージ王国の軍制は、騎士団制とは違うんだ」
「そうだ、民兵を徴集して戦場に駆り出すタイプの軍制だ」
マグギャランは演壇を叩いた。
マグギャランは言った。
「静粛に、我々は優位に立っている」
隊長達がマグギャランの言葉に口々に不満を言い出した。
「どこが優位に立っているんだよ」
「一万の兵士で五万の山賊をどう相手にしろと言うんだよ」
「暴走山賊団「闇の腕」の方が戦い慣れしているんだよ」
「アイツラは強いよ。いつの間にか、殺されているんだ」
「俺達は戦い慣れしていないんだよ」
「素人の民兵が、戦い慣れしている山賊に勝てるはず無いだろう」
マグギャランは演壇を叩いた。
「静粛に。諸君等が思っているほど、暴走山賊団「闇の腕」は強いわけでは無い」
隊長達がマグギャランの言葉に口々に不満を言い出した。
「アイツラの、どこが弱いんだよ」
「俺達は、必殺の構えの三角陣を食い破られて、二等辺三角形の途中で折り返したように、逆に三角陣で食い破られたんだ」
「アイツラは血も涙もないから、簡単にヒマージ王国軍兵士達を殺すんだ」
「俺達は村や町、街の戦いで散々負けてきたんだ。最後の決戦が、「ヒース平原」の戦いだった」
「アイツラが五人一組で戦うなんて、今聞いたよ」
「そうだよ。俺達は何も知らずに戦ったんだ」
マグギャランは演壇を叩いた。
「静粛に。諸君等は、暴走山賊団「闇の腕」
の装備が劣悪な事を知っているだろう。暴走山賊団「闇の腕」は、髪の毛を逆立てて、上半身裸でいる。これは、矢攻めが有効な事を示すわけだ。飛んでくる矢を防ぐ為の鎧も盾も無い。弓兵隊は居るのか」
マグギャランの指摘に、講堂内の隊長達がシーンと黙り込んだ。
静かになった講堂内で、エルレア・メキア女将軍が手を上げた。
エルレア・メキア女将軍は言った。
「居ません。専門のロング・ボウ隊は訓練に時間が掛かりますから。我々の様な、にわか仕立ての軍隊では。専門の弓兵隊は居ません」
マグギャランは言った。
「それならば、訓練しなくても、戦える、クロス・ボウはあるか」
エルレア・メキア女将軍は言った。
「在ります。ヒマージ王国は武器や鎧兜、盾などは沢山揃えました。ただし人員を揃える事は出来ませんでした」
マグギャランは言った。
「五千丁のクロス・ボウと、クロス・ボウ兵一人当たり、二〇本の矢、合計十万本の矢は在るか」
エルレア・メキア女将軍は、傍らの男性の軍人に話しをしていた。
エルレア・メキア女将軍は手を上げて言った。
「在ります。クロスボウの矢は三十万本在ります」
マグギャランは演壇の上で頷いた。
「一万のヒマージ王国軍隊の半分をクロスボウ隊に編成する。残りの半分は鎧を着込み、槍と盾を持ち、腰に帯剣した、重装歩兵隊を編成する」
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道