死闘のツルッペリン街道
カナリス・モンドマーネー達は、ヒマージ王国の警邏隊の鎧兜を着て変装して居た。
馬に分乗して乗ったスカイ・ザ・ワイドハート達が、ツルッペリン街道を西に進む、半開きの門から出て行くのを見ていた。
カナリス・モンドマーネーは言った。
「どうやら、彼等は、暴走山賊団「闇の腕」の支配地域へ行こうとするようだよ」
男優アギド・モールズは、震えていた。
「団長本気ですか。本当に暴走山賊団「闇の腕」の支配する「バラントの街」へ行くのですか」
女優ラーナ・マピルもガタガタと震えていた。
カナリス・モンドマーネーは言った。
「僕たちは、役者だよ。暴走山賊団「闇の腕」に変装するなんて簡単なことさ。髪の毛を、強力ジェルやワックスで逆立てて上半身裸になれば良いのだからね。そして武器を盗んで持っていれば、変装終了だ。演目「暴走教室」の上演開始だよ」
女優メロア・ソペラは言った。
「暴走山賊団「闇の腕」の女山賊も髪の毛を逆立てて、タンキニを着て居れば変装終了です。ラーナ、あなたも女山賊に変装するのよ」
女優ラーナ・マピルはガタガタと震えながら言った。
「嫌ですよ。もう付いていけませんよ。私は、暴走山賊団「闇の腕」に変装なんかしたく在りません」
カナリス・モンドマーネーは言った。
「役者の世界は厳しいのだよ。僕達、モンドマーネー劇団が、大観衆の前で壮大な劇を公演するには、資金が必要なのだよ。バゲットとラバナを騙して「手形」を奪って、開演資金四百ネッカー(4000万円)を手に入れるのさ」
男優アギド・モールズは言った。
「俺は、ラーナ・マピルと同じですよ。もう止めましょうよ。本気なのですか」
カナリス・モンドマーネーは言った。
「アギド、僕達は役者なのだよ。役者とは、世間を超越しているのさ。世の中の常識などと言う物は、僕達役者には必要ないのだよ。僕達役者は、時に、王様で在り、奴隷でもあるし、魔物やモンスターになる事も在る。この世の全てとは演技なのだよ」
男優アギド・モールズは言った。
「俺は、ダメです。もう限界です」
カナリス・モンドマーネーは言った。
「僕から逃れられると思うのかかい。君はモンドマーネー劇団の一員なんだよ。僕は団長で、劇団員の全てを支配しているのさ。ラーナも覚悟を決めるんだね」
女優メロア・ソペラは言った。
「そうよ、私達が行ってきた演劇は、世間では犯罪と呼ばれるのよ。でも私達はアクター、役者なのよ。犯罪でも、どんな悪行をも演じる事ができるのよ。許されるのよ。アギドとラーナも、最早、一般人の世界に戻る事は出来ないのよ。私達はアクターなのよ」
女優ラーナ・マピルはガタガタ震えながら言った。
「もし、私とアギドが一般人の世界に戻ろうとしたら、どうなるんですか」
カナリス・モンドマーネーは言った。
「当然、僕達が君達の今までの世間では犯罪と呼ばれている行為を公的な機関に、たれ込むだろうね。そうしたら君達は、どうなるかな?」
男優アギド・モールズと女優ラーナ・マピルは青ざめた顔を見合わせた。
スカイ達三人と、バゲットとラバナ、ラメゲとルシルス、道案内のヒギア・ゼギンズは、ツルッペリン街道を西に馬を走らせた。
幸いな事に半月が出ており、雲も無く、月明かりがスカイ達の移動を楽にした。
途中で街道警邏隊が封鎖するツルッペリン街道の枝道に設けられた検問所に何回も遭遇した。そしてツルッペリン街道の沿道では、避難民達が宿泊していた。
検問所は、道案内の「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」が話しをすると通してくれた。「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」の友達の警邏隊の女隊長ドーマが携帯電話で話しを付けてくれていたらしい。
夜通し走り続けて明け方の曙光が昇り始めた。
道案内の「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」は言った。
「そろそろ馬を休めませる必要があるね。それに夜通し馬を走らせた、あたし達も休む必要がある」
馬に乗り慣れていない、スカイはバテ気味だった。コロンもゲッソリしているし、バゲットとラバナもゲッソリしていた。マグギャランとラメゲ、ルシルスは平気な顔をしていた。
次の検問所に到達した。
検問所に辿り着くと、避難民が大量に押し寄せていた。みな、大八車や牛車や馬車などに財産らしい物を積んで、道ばたで眠っている者達も多かった。
街道警邏隊がスカイ達を制止をした。
道案内の「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」は言った。
「ドーマ・サーマルから連絡は来ているはずだ」
街道警邏隊の髭を生やした隊長は言った。
「ああ。サーマル隊長から、携帯電話に連絡が入ってきている。ヒギア・ゼギンズが来たら、そろそろ、馬が疲れる地点だから休みを取らせる様に言ってきた。この検問所の枝道を行くとマルサナ村が在る。話しが付いているから、そこで休息を取ってくれ。だが、後少し先の二カ所の検問所から先に行くと、検問所は無くなるぞ。我々も、暴走山賊団「闇の腕」の進行方向に重なった場合、撤退する可能性がある」
道案内の「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」は言った。
「判ったよ。それじゃ、六時間の睡眠を、とって強行軍を続けるよ」
街道警邏隊の女兵士が、スカイ達を案内した。
スカイ達は、ツルッペリン街道の沿道の村、
マルサナ村に入っていった。
マルサナ村には、大量の避難民が押し寄せていた。村を挙げて炊き出しが行われていた。 スカイ達は夜通しツルッペリン街道を走っていた。
馬達は、飼い葉を食べ、水を飲んで居た。
スカイ達は、街道警邏隊の女兵士に案内されて民家に泊めてもらって眠った。
スカイ達は6時間後に起きた。
そして、食事を掻き込むように食べて、再び馬に分乗した。丁度正午ぐらいだった。
スカイ達は、最後の検問所に1時間程、馬を走らせて到着した。
街道警邏隊の隊長が言った。
「ミス・ゼギンズ、引き返したらどうですか。このイスマの検問所から先に行く事は、命知らずにも程があります」
道案内の「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」は言った。
「引き返せないね。アタシの故郷、マードグ男爵領のスワートル村の村人が逃げ込んでいる場所があるんだ。戦争が在ったときの為の避難場所だよ。爺様、婆様達に教えられている話しさ。もし、そこに、アタシの故郷の家族や友達達、スワートル村の村人達が逃げ込んでいるなら、助け出さなければならないんだよ」
街道警邏隊の隊長は言った。
「判りました。もはや制止はしません、ご幸運を」
スカイ達は、最後の検問所から出発した。
道案内の「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」は言った。
「さあ、そろそろ、バラント伯爵の街「バラントの街」に近づいて来たよ」
マグギャランは言った。
「ふむ、避難民まで発生しているし、これはヒマージ王国の内戦ではないかね」
ラメゲは言った。
「間違いない。暴走山賊団「闇の腕」は内戦を仕掛けて居る」
コロンは言った。
「……戦争はダメだよ」
スカイは言った。
「そうだよな、子供の頃からロザ姉ちゃんに言われていたしな」
ルシルスは言った。
「ヒマージ王国は随分と弱い国ですね」
バゲットは言った。
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道