死闘のツルッペリン街道
「二人乗りする馬が多い。軍馬型の足腰の強い馬が欲しい。四頭必要だ」」
二刀剣のヒギア・ゼギンズは言った。
「判ったよ。あたしを含めて五頭の馬だね」
バゲットは言った。
「馬で夜道を走った事が無いんだ。出発は明日にしてくれ」
二刀剣のヒギア・ゼギンズは言った。
「大丈夫だよ。あたし達が育てている軍馬は、夜道でも、走ってくれるよ」
スカイの携帯電話が鳴った。
スカイは携帯電話に言った。
「はい、スカイ・ザ・ワイドハート」
聞き覚えの在る女の声が携帯電話の向こうからした。
ニーコ街の冒険屋組合の受付嬢だった。
ニーコ街の受付嬢は携帯電話の向こうから言った。
「ワイドハートさんですね」
スカイは携帯電話に言った。
「おう、そうだよ。仕事の依頼かい?」
ニーコ街の受付嬢は携帯電話の向こうから言った。
「ヒマージ王国の「クメーヌの街」の警邏隊から身分照会の電話が来ました。騎士マグギャランさんと、魔法使い見習いコロナ・プロミネンスさんが、現在留置場に入れられています」
スカイは携帯電話に言った。
「何だよ、アイツラ、なに、やらかしたんだよ。これから「バラントの街」に向けて突撃する前なんだよ」
冒険屋組合の受付嬢は携帯電話の向こうで驚いた声を出して言った。
「まさか、ワイドハートさん達は、あの暴走山賊団「闇の腕」が暴れている所の近くに居るのですか」
スカイは携帯電話に言った。
「そうだよ。ところで、アイツラは何処に居るんだよ」
冒険屋組合の受付嬢は携帯電話の向こうで言った。
「「クメーヌの街」の警邏隊の留置場の中です」
スカイは携帯電話に言った。
「判った。それじゃ携帯電話を切るぞ」
通話を終えるとスカイは毒づいて言った。
「バカ、アイツラ何やっているんだよ」
スカイは、馬に乗ったバゲットとラバナ、ラメゲとルシルス、ヒギア・ゼギンズを外で待たせて。警邏隊の煉瓦づり重厚な建物の中に入っていった。
「騎士マグギャランと魔法使い見習いコロナ・プロミネンスの身元を引き受けに来た。一体、アイツラは何をやらかしたんだ」
鎧を着込んだ警邏隊の男は言った。
「コロナ・プロミネンスは、未成年なのに酔っ払って、「小人の肝臓殺し」を飲んで口から火を吐いて暴れていました。しかも手錠で屋台に、くくりつけられていました。鋸で、手錠を切断し救出しました」
スカイは頭を下げて言った。
「すまないな。俺の姉貴なんだ」
鎧を着込んだ警邏隊の男は言った。
「マグギャランは、「失恋橋」の欄干に手錠で、くくりつけられたまま、大声で卑猥な事を言っていたため。公共のモラルから大幅に逸脱するため、手錠を鋸で切断して救出した後で、留置場に入れました」
スカイは頭を下げた。
「すまないな、俺の相棒なんだ」
警邏隊の男は言った。
「ご同情しますよ。あまりにも彼と彼女は愚か者に見えます」
スカイは言った。
「やっぱり何か在ったか。保釈金は幾らだ」
警邏隊の男は言った。
「この「クメーヌの街」では初犯ですから、二人とも二万ニゼ(1万円)の保釈金です」
スカイは安物の財布から、一万ニゼ(五〇〇〇円)硬貨を四枚出した。
そしてスカイは共通語で書かれた書面を読んで保釈の書類にサインした。
そして階段を下りていった。
スカイは留置場の鉄格子の中に居る、マグギャランとコロンを見た。椅子も無く、冷たい石の上に二人は体育座りをしていた。
二人はゲッソリと、やつれた顔をしていた。
スカイは言った。
「ほら、オマエ等、保釈金を支払ったから出てこい」
マグギャランは言った。
「お、スカイ。おれは悪女に騙されてしまったんだ」
コロンは言った。
「……わたしも、悪い、お酒屋さんに騙されたの。本当は、お酒なんか飲みたくなかったのに」
女性の獄吏が鍵を開けながら言った。
「ウソ付いていますよ、さっきまで、もっと酒を持ってこいと言っていたんですよ」
スカイは言った。
「コロンも酒なんか飲んじゃダメだぞ」
コロンは言った。
「……酔っ払っていた、わたしは、わたしじゃないの」
マグギャランは言った。
「俺も、なぜ騙されたか、未だに判らないんだ。俺も怒り心頭でな、愛とは何か、正義とは何か、心の迸りを叫んでいたんだ」
女性の獄吏が鍵を開けながら言った。
「ウソをついていますよ。さっきまで聞くに耐えない卑猥な事を散々言っていたのですよ」
マグギャランは言った。
「俺は卑猥な事を言って居たわけでは無い、
大人の愛を語っていたのだ。大人の愛とは時にしてハード・コアなだけだ」
スカイは言った。
「オマエ等、言い訳するなよ」
スカイは、持ってきた、マグギャランの女物の剣と、コロンの魔法の杖と呪文書を手渡した。女性の獄吏が、嫌そうな顔をしてマグギャランとコロンに荷物を手渡した。
スカイは言った。
「これから、暴走山賊団「闇の腕」の支配地域を縦断することをバゲット達と決めた」
マグギャランは言った。
「何、危険なルートを選択したのか」
スカイは言った。
コロンは言った。
「……危険だと思うよ」
スカイは言った。
「ああ、期日までに「手形」を届ける必要があるんだ。もう、馬を雇った。この警邏隊の建物の前に来ている。夜のツルッペリン街道を行くらしい」
コロンは言った。
「……わたしは馬に乗れないよ」
スカイは言った。
「コロンは、ルシルスが馬を操るから、後ろに乗ってくれ」
マグギャランは言った。
「ふむ、それでは、何時もの通り、お前が、俺の後ろに乗るのか」
スカイは言った。
「そうだよな」
マグギャランは言った。
「スカイ、お前も、いい加減、馬の乗り方を覚えた方が良いな」
スカイは言った。
「うるせぇな、俺は、ミドルンのニーコ街出身だから、シティ・ボーイで馬に馴染みが無いんだよ」
スカイ達三人は、警邏隊の建物から出た。
外には、馬に乗った、バゲットとラバナ、ラメゲとルシルス、道案内のヒギア・ゼギンズと合流した。
そして、ツルッペリン街道を「バラントの街」へ続く城門の前に出た。
城門は半開きで警邏隊に封鎖されていた。
警邏隊はスカイ達一行を見ると制止した。
警邏隊の鎧を着た女隊長が言った。
「ツルッペリン街道は現在封鎖中ですよ」
道案内の「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」は言った。
「おい、ドーマ、あたしだよ。ヒギア・ゼギンズだよ」
警邏隊の鎧を着た女隊長ドーマが途端に、くだけた口調で言った。
「ヒギア、どこに行くつもりさ」
道案内の「二刀剣のヒギア・ゼギンズ」は言った。
「あたし達の故郷のマードグ男爵領のスワートル村まで行くんだよ。暴走山賊団「闇の腕」は、携帯電話を通じなくさせているから、連絡が付かないだろう」
警邏隊の女隊長ドーマが言った。
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道