死闘のツルッペリン街道
「おい、私とラバナの警護はどうなるんだ」
マグギャランは言った。
「スカイに任せた」
スカイは言った。
「おい、オレ一人かよ」
マグギャランは言った。
「ラメゲとルシルスが居るだろう」
ラメゲは言った。
「オレは冒険屋じゃないぞ」
ルシルスは言った。
「そうです、わたしはグズでドジでドベな十四歳の、か弱い女の子なのですよ」
マグギャランは言った。
「スカイ、そう言うことだ」
そしてマグギャランは金髪の女と一緒に歩いて行った。
仕方ねえヤツだな。
カナリス・モンドマーネーと、男優アギド・モールズは、黒いマントを外して、町人の姿に戻っていた。
ロマンチック風情の眼鏡橋の上で、女優メロア・ソペラと騎士マグギャランは立ち話をしていた。
カナリス・モンドマーネーと、男優アギド・モールズは、近づいていった。
女優メロア・ソペラの芝居は続いていた。
「私の家には、五百年前から宿敵の家が在るのです」
騎士マグギャランは言った。
「おおっ、何という悲しい事でしょうか」
女優メロア・ソペラはマグギャランに抱きついて言った。
「助けてください」
騎士マグギャランは言った。
「判りました」
女優メロア・ソペラは、マグギャランの手を持った、そして手錠を右手に掛けた。
騎士マグギャランは言った。
「いきなり、手錠とは如何」
女優メロア・ソペラは眼鏡橋の透かし彫りのレリーフに手錠を引っかけた、そして言った。
「騎士マグギャランあんたは騙されたんだよ。全部演技さ」
女優メロア・ソペラの手には騎士マグギャランの携帯電話が握られていた。そして、運河に落とした。
騎士マグギャランは手錠を眼鏡橋に付けられたまま、暴れていた。
「悪女め!男の純情を踏みにじりおって!」
そして女優メロア・ソペラは、カナリス・モンドマーネーと男優アギド・モールズと合流した。
カナリス・モンドマーネーは言った。
「よし、演目「美女救出大作戦」は成功した。次は、戦士スカイ・ザ・ワイドハートだ」
女優メロア・ソペラは言った。
「団長。「手形」は、バゲットとラバナの、どちらが持って、いるんでしょうか」
カナリス・モンドマーネーは言った。
「判らない。だが、戦士スカイ・ザ・ワイドハートを、取り除けば、バゲットとラバナしか残らない」
男優アギド・モールズは言った。
「剣を沢山持っている男と、物凄い美女が一緒に居ますが。何者でしょうか」
カナリス・モンドマーネーは言った。
「判らないが、既に、ラバナを捕まえるためにラーナが動いている。演目「男同士の愛」を上演する。先にラバナを捕まえて締め上げれば判る」
スカイと、バゲットとラバナ、ラメゲとルシルスは歩いて行った。宿屋「シャコー」の前に来た。
ラバナの前に、眼鏡を掛けた、若い女が現れた。
「お姉さん、お姉さん。あんた「やおい」だね。ホモに興味があるでしょ」
ラバナは言った。
「うっ、私が文系ヲタク女子で、在る事が何故判るの」
眼鏡女は言った。
「蛇の道は蛇。私も同人誌作る、「やおい」ですよ。あなたと私は同じ匂いがするんです。私は、「やおい」同人誌専門のショップの売り子をしているんですよ」
ラバナは言った。
「父さん、ちょっと時間潰してきていい」
バゲットは言った。
「ダメだ、ラバナ。こんな所を襲撃されたらどうするんだ」
ラバナは言った。
「だって、私ケチだから、二千ニゼ(1000円)の同人誌一冊買うだけだよ」
バゲットは言った。
「そんな下らない趣味は、いい加減卒業しろ」
ラバナは言った。
「いいじゃない。父さんみたいに趣味がない方が、おかしいんだよ」
バゲットは言った。
「私の趣味は仕事だ。ビジネスが趣味だ」
ラバナは言った。
「どうせ、三十分程度時間を潰すだけだよ」
バゲットは言った。
「ビジネスは時間の速さが重要なのだ。たかが三十分なれど、一日にしたら、四十八分の一だ。十分長い時間だ」
ラバナは言った。
「判った。父さんの言う事を聞くよ。今は、「手形」を「懐かしのウタタ」まで届けなければならないし、私の「やおい」趣味は封印するよ」
眼鏡女は言った。
「まさか、超レア本のフラクター選帝国ヤマト領の「やおい」本が入荷しているんですよ、それなのに買わないのですか」
ラバナは言った。
「わたしは、文系ヲタク女子である前に、ブレッダー・バゲットの娘だから」
そして、スカイと、バゲットとラバナ、ラメゲとルシルスは、宿屋「シャコー」に入った。
カナリス・モンドマーネーは、女優ラーナ・マピルから、携帯電話で報告を受けた。
カナリス・モンドマーネーは携帯電話に言った。
「ラーナ、演目「男同士の愛」は成功したのか」
女優ラーナ・マピルは言った。
「失敗しました。ラバナは最初乗り気だったのですが。父親に叱られて、「やおい」本を買う事を断念しました」
カナリス・モンドマーネーは、失敗した事が判ったが。まだ手段は在った。次は、バゲットとラバナから、戦士スカイ・ザ・ワイドハートを引き離せば良かった。
スカイ・ザ・ワイドハートがカネに汚い事は判っている。
スカイ・ザ・ワイドハートが居なくなれば、バゲットとラバナは、戦闘力の無いモンドマーネー劇団でも捕まえる事が出来る。
そして、ブリリディ・ブリリアントに身柄を引き渡せば良い。
次はスカイ・ザ・ワイドハートを騙す番だった。だが、問題が在った。スカイ・ザ・ワイドハートが、暴走山賊団「闇の腕」の支配地域を進むか、進まないかの判断が付かないからだ。
スカイは冒険屋組合と提携している宿屋「シャコー」にチェックインした。
宿屋の受付で、後で二人来る事を伝えておいた。
スカイと、バゲットとラバナ、ラメゲとルシルスは一階の食堂に入っていった。
そして、テレビを見た。
ニュースが続いていた。
「……暴走山賊団「闇の腕」速報を伝えます。現在、暴走山賊団「闇の腕」は、ヒマージ王国に「血の報復」を行う事を宣言し、次々と、無軌道な突撃を開始しています。襲撃を受けているスタトー男爵領と中継が繋がっています。アナウンサーのマッサーさん、現場はどうなっていますか」
テレビ画面が代わって、オープン・フェイスの兜を被った、女のアナウンサーが映し出された。
「…現場は、現在、スタトー男爵領の街「マードグ」に暴走山賊団「闇の腕」が押し寄せています。酷い状況です、まるで地獄絵図の様な酷い光景です。過去の戦乱の時代を思わせるような酷い光景です。スタトー男爵領は壊滅的な被害を受けています…」
画面では、頭の髪の毛を逆立てた一団が上半身裸で剣や槍、戦斧を持って、ヒマージ王国の軍隊らしい、鎧兜の連中達に襲いかかっていた。ヒマージ王国の軍隊は数の暴力で一方的に、一人のヒマージ王国の兵士に対して五人ぐらいの山賊達に殴られていた。
酷い映像だった。
殺された、兵士の首を切り取っている映像が出てきた。
「テメェ等ヒマージの国営放送「HBC(ヒマージ放送委員会」だろう。ブッ殺したるわ!」
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道