死闘のツルッペリン街道
エプトナは、殺人雨傘の取っ手を、ひねった。殺人雨傘の先端から尖った針が出てきた。
ミルカラは、アーミー・ナイフ風の金属の塊から、巨大な尖ったハサミを引っ張り出した。
スカイは剣を斜めに構えた。
タリマは、騎士マグギャランと廊下で相対した。タリマの武器キラー・リボンは、新体操で使うリボンの鋼鉄版だった。薄くて良くしなる長い鋼鉄に鋭利な刃を付けた新体操のリボンの様な武器だった。
騎士マグギャランは言った。
「ふむ、深夜に赤いレザー・ドレスとは、随分と扇情的である」
タリマは言った。
「覚悟を、お命頂戴します」
タリマは鋼鉄のリボンを解放した。
ゼンマイが弾けるように、鋼鉄のリボンが広がった。
騎士マグギャランは言った。
「初めて見る武器だな。かなり変わった武器だ。そんな物で戦えるのか」
タリマは言った。
「修練の技を見せます」
タリマはキラー・リボンの端の棒を持ち、ぐるぐると回転させた。
騎士マグギャランに向けてキラー・リボンの渦が、殺到した。キラーリボンの触れた床板が抉れて、木片が飛び散った。
騎士マグギャランは、剣を抜き放った。
騎士マグギャランは言った。
「ええい!見切ったわ!」
そして、剣でキラー・リボンの渦を切りつけた。金属と金属が、ぶつかり火花が散った。
その途端に、タリマのキラー・リボンがバランスを崩して、跳ね跳んだ。
タリマは言った。
「くっ」
騎士マグギャランは言った。
「ふはははははははは!どうやら、怪しい武器だけあって、操るのも難しいようだな!」
タリマはバランスを崩したキラーリボンを立て直した。
タリマは言った。
「タリマは負けません」
そして、キラー・リボンを渦から、縦に流すように走りながら、騎士マグギャラン目がけて撃ち込んだ。
騎士マグギャランは言った。
「うおっ、なんとするか!」
直線的に飛んでくるキラー・リボンの攻撃に、騎士マグギャランは、慌てた感じで避けた。
タリマは、騎士マグギャランの前で、全身を覆うようにキラー・リボンを操った。
騎士マグギャランは言った。
「それなりに奇妙な武器でも戦えるのだな」
騎士マグギャランは、剣を持ったまま動かなかった。
タリマは全身を覆うキラーリボンの回転を変えて、直径を大きくしていった。
スカイは屋根の上で、「殺人雨傘のエプトナ」と「七徳剣のミルカラ」と対峙した。
ミルカラは「七徳剣」から伸ばしたハサミをスカイに向けてジリジリと間合いを詰めてきた。
ミルカラは言った。
「エプトナ、私が、スカイ・ザ・ワイドハートの足止めをする。トドメの一撃は頼む」
エプトナは「殺人雨傘」を持って、スカイに近づいて来た。
スカイは、ぼやくように言った。
「何だよ、マグギャランのヤツ。楽をして、オレに面倒なのばかり押しつけているよな」
ミルカラは言った。
「七徳剣マックス・カリバー!巨大ハサミ術シザー・アタック!」
ミルカラは、突進してきた。
スカイは新しい剣でシザー・アタックを受けた。
だが、スカイよりも上背のある、ミルカラの突進でスカイは押された。力もスカイより強いようだった。鍔迫り合いでスカイは押されていた。
ミルカラは言った。
「今よ!エプトナ、私を踏み台にして!」
エプトナは「殺人雨傘」を持って、屋根の上を走ってきた。
エプトナは言った。
「判ったミルカラ!」
スカイの剣と、「七徳剣」のハサミで鍔迫り合いを、しているミルカラの背中に、エプトナは飛び乗った。
そしてエプトナは、スカイ目がけて「殺人雨傘」の尖った先端を両手で持って突き刺しに掛かった。
スカイは焦った。
一瞬の判断でスライディングをしながらミルカラの足を払い、ミルカラの「七徳剣」の巨大ハサミの下に潜り込んだ。そしてスカイは屋根を転がって起き上がった。
スカイが居た位置に、エプトナの「殺人雨傘」が深々と突き刺さっていた。
スカイは言った。
「思ったより、オマエ等強いじゃ無いか」
エプトナは屋根から「殺人雨傘」を抜きながら言った。
「私達は、プロの殺し屋よ」
タリマは、騎士マグギャランに向けて、キラー・リボンの直径を大きくしていった。
騎士マグギャランは言った。
「見切ったり!マグギャラン剣、どんでん返し!」
騎士マグギャランはタリマのキラー・リボンを下から上へと払い上げた。
タリマのキラー・リボンが、方向を失い、バランスを崩した。
タリマは、自分の身体にキラー・リボンが接触しそうになった。
慌てて、キラー・リボンのコントロールを取り戻そうとした。
騎士マグギャランは言った。
「第二段!どんでん返し颪(おろし)!」
マグギャランは、コントロールを失ったタリマのキラー・リボンを今度は上から下へと振り下ろした。
タリマは自分の身体を切りつけそうになったキラー・リボンに慌てた。
タリマは言った。
「嫌っ!」
騎士マグギャランはキラー・リボンを足で踏みつけた。
タリマはキラー・リボンを引っ張ろうとした。
だが動かなかった。
騎士マグギャランは、タリマに剣を突きつけた。
騎士マグギャランは言った。
「勝負あったな」
タリマは言った。
「私の負けです」
騎士マグギャランは言った。
「おい、殺し屋、お前は何歳なのだ。そんな若い歳で殺し屋などしてはいかんぞ。さあ、何歳だか答えろ」
タリマは虚勢を張った。
「まだ二十歳になったばかりだけど、私はプロの殺し屋よ」
騎士マグギャランは言った。
「何、二十だと、ウソではないな。これは重要な質問だから正直に答えるように」
タリマは言った。
「そうよ、厳しいプロの殺し屋の世界に年齢なんか関係ないわ。私は二十よ」
騎士マグギャランは言った。
「ふむ、ルシルスではセンサーが狂ったが、お前は二十なのだな。オレのセンサーが安全だと告げている」
タリマは何を言っているのか判らずに言った。
「ええ?」
騎士マグギャランは言った。
「よし、二十なら安全な年齢だ。これから、紅茶でも飲みに行かないか。コーヒーでも構わないが」
タリマは言った。
「何を言うのです。私は、あなたと仲間の命を奪う事を仕事とする暗殺者なのです」
騎士マグギャランは言った。
「君、可愛いから許すよ。ねえ、さあ、ボクと深夜営業の喫茶店に、でも行って愛を語ろうか」
タリマは言った。
「不謹慎だとは思わないのですか」
騎士マグギャランは言った。
「オレを殺しに来た暗殺者と、その夜の間にホットな関係になるのも世界の運行的にはアリだ」
タリマは言った。
「何ですか、そのホットな関係とは」
騎士マグギャランは言った。
「この暗殺者め、人殺しなんだぞ、お前は。俺が教育をしなければならない。そして真人間に更生するのだ」
ラメゲは言った。
「勝負は付いただろう。見苦しくナンパなどするな」
騎士マグギャランは言った。
「うるさい、ラメゲ。お前こそ、深夜に、年端も、いかぬ娘と語り合って居るでは無いか、そちらの方が不謹慎だぞ」
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道