死闘のツルッペリン街道
「待っていてください。時間は掛かりますが、我々は確実に、「手形」をバゲット父娘から奪って見せますよ」
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「出来るだけ、早く「手形」を奪え、そうでなければ、私は、次の作戦を考える事になる」
カナリス・モンドマーネーは携帯電話の向こうで言った。
「ウドルの街の、ならず者達と同じように三人の冒険屋達に返り討ちになるのでは?」
ブリリディ・ブリリアントは携帯電話に言った。
「私は時間が惜しいのだよ。君達「モンドマーネー劇団」も、早く結果を出す必要がある」
そしてブリリディ・ブリリアントはミンクの毛皮で覆われた携帯電話を切った。
翌日スカイ達三人とバゲットとラバナ、ラメゲとルシルスは、フラクター選帝国製のエア・バスに乗って、次の宿場街、アッセブルの街に辿り着いた。
アッセブルの街は活気づいていた。定期市が在ったからだ。
バゲットは言った。
「商売の種が、あちらこちらに転がっているのが口惜しいが、今は、「懐かしのウタタ」に行かねばならぬ」
ラバナは言った。
「確かに、商売したいのに。悔しい」
マグギャランは言った。
「バゲット、俺達は買い物をしなければならない」
バゲットは言った。
「どういう事なのだ」
ラバナは言った。
「そうよ、どういう事なの」
マグギャランは言った。
「スカイ、剣を買え」
スカイは言った。
「そういえば、俺は剣が無かったんだな」
マグギャランは言った。
「定期市なら武器屋が剣を売っているだろう。それならば、掘り出し物の剣が売っているかも知れぬ」
コロンは言った。
「……私は、錬金術の薬が無いの」
スカイは言った。
「そういや、消毒薬の「小人の肝臓殺し」を補充しておくか」
コロンがニヤッと笑ったような気がした。
スカイがコロンの方を向くと、いつもの顔だった。
スカイ達三人とバゲットとラバナ、ラメゲとルシルスは武器屋の露天商の前に立った。
眼帯を付けた、スキン・ヘッドのオヤジが店主だった。
武器屋のオヤジは言った。
「へい、らっしゃい」
マグギャランは言った。
「剣を見させてくれ」
ラメゲも剣を見ていた。
ラメゲは言った。
「店頭の剣は良くないな」
スカイは値段を見た、皆二ネッカー(20万円)以上する剣ばかりだった。
マグギャランは「投げ売りセール品!一本二万ニゼ(1万円)の剣!」と書かれている中から一本の剣を取りだした。そして鞘を払って剣を見た。
マグギャランは言った。
「スカイ、買え」
スカイは言った。
「何だよ。剣ぐらい俺に選ばせろよ。俺が使うんだし」
ラメゲが言った。
「確かに良い剣だ。二万ニゼ(1万円)なら格安だ」
マグギャランは言った。
「鞘から抜いて振ってみろ。判るはずだ」
スカイは鞘から剣を抜いて、振ってみた。
確かに今まで使った剣の中で一番振りやすかった。
ラメゲは言った。
「他の剣を持って振ってみろ」
スカイは他の剣の鞘を払って、振ってみた、確かに、さっきの剣より振りが鈍く感じられた。
「判ったよ。確かにオマエ達が言うとおり、こっちの剣の方が良いな」
スカイはマグギャランとラメゲが推薦した剣を持って、武器屋のオヤジの所に行った。
スカイは言った。
「この剣を売ってくれ」
武器屋のオヤジは言った。
「はい、その二束三文のボロ剣は一本二万ニゼ(1万円)だ」
スカイは一万ニゼ(5000円)金貨を二枚出して支払った。
マグギャランは武器屋の露天から離れると言った。
「スカイ、これは、銘のある剣だ。「勝者の剣」という銘を持っている」
スカイは言った。
「剣なんて、よく切れれば、どれも同じだろう。剣の名前なんか興味ねえよ」
マグギャランは言った。
「この剣は、持ち主に勝利を与えるという伝説の在る名剣だ。こんな名剣が二万ニゼ(1万円)で売っていて買えるなど幸運にも程があるぞ」
スカイは腰の剣を叩いて言った。
「よし、コレから、俺の相棒だ。よろしく頼むぜ」
マグギャランは言った。
「お前が手に入れた「勝者の剣」は、名剣なのだ。安い剣ばかり扱っている、あの武器屋のオヤジは目利きではなかったから、この「勝者の剣」の価値が判らなかったのだ」
スカイは言った。
「剣なんて、切れれば、どれも同じだろう」
マグギャランは言った。
「お前は戦士に転職してから時間が短いから、剣の重要性を理解していないのだ」
スカイは言った。
「判んねえ話しだな」
マグギャランは言った。
「いいか、この「勝者の剣」は、勝利を呼び込む名剣なのだ」
コロンは錬金術の薬品を量り売りで買った。
スカイは小人族が売っている、「小人の肝臓殺し」を飲んで、ぐでんぐでんに酔っ払っている連中が居る屋台でフラスコ一杯分消毒薬や気付け薬用に買った。
カナリス・モンドマーネーは演目「一枚の金貨コメディ」を上演する事になった。
スカイが、露天の中を歩いていると金貨を見つけた。
スカイは言った。
「お、カネだ、俺見っけ!」
スカイは拾おうとした。
とたんに金貨は動いてスカイの手を、すり抜けた。
そしてバゲットの前に金貨が止まった。
町娘に変装したモンドネード劇団の女優ラーナ・マピルが目に見えないぐらい細い糸で金貨を引っ張っていた。
バゲットが、自分の所に来た金貨を見て言った。
「この金貨は私の物だ!」
バゲットは金貨を拾おうとした。
だが、金貨はバゲットの手を、すり抜けた。
スカイは言った。
「俺の金貨だよ」
バゲットは言った。
「私の金貨だ」
スカイとバゲットは一枚の金貨を巡って口論を開始した。
金貨がルシルスの前に来た。ルシルスは、首を、かしげて、かがんで手で拾う、と見せかけて靴で金貨を踏んだ。
ルシルスが捕まえた金貨を持って言った。
「私が金貨をゲットしました」
そしてVサインをしていた。
スカイは言った。
「ルシルス、それは俺のカネだ」
バゲットは言った。
「いや、私のカネだ」
ルシルスは金貨を持ち上げて、訝しげな顔をして見ていた。
ルシルスは言った。
「何故か、金貨に糸が付いていますよ。それに、これは金貨ではありません。金貨の形をしたチョコレートです」
ルシルスは、金色の紙を剥がして、中のチョコレートを取り出して食べた。
ルシルスは口をモグモグさせながら言った。
「うん、やっぱりチョコレートです」
バゲットは言った。
「なんて恐ろしい敵なんだ。我々の心理を読んで金貨チョコレートを使って仲間割れを起こさせようとは」
スカイは言った。
「なんで、俺がカネに目が無い事を知っているんだ。ここはヒマージだぞ」
スカイ達の二メートル程の距離に、アッセブルの町人に変装したカナリス・モンドマーネーと、メロア・ソペラは居た。そしてスカイ達の会話を聞いていた。カナリス・モンドマーネーは小声で言った。
「ブレッダー・バゲットと戦士スカイ・ザ・ワイドハートはカネに意地汚い事が判った」
メロア・ソペラは小声で言った。
作品名:死闘のツルッペリン街道 作家名:針屋忠道