かいなに擁かれて 第四章
明け方まで話を黙って聴いていた雅代は、魅華の両親に連絡を取り、しばらく自分のもとに預かると云った。戸惑いはあったけれど魅華はそれに従った。
運送会社に勤める常連さんに、ピアノの搬送と保管を頼んでくれたのも雅代だった。
夫に先立たれ、たったひとりの愛娘までも、血の通わぬ獣に奪われ亡くし、犯罪被害者の遺族となった雅代にとって、魅華の切れた唇、青く腫れた頬、零れ落ちそうになるものを必死に堪えた瞳に見上げられたとき、全身無数の傷跡だらけとなり、瞼を閉じた娘の姿が蘇り、見ず知らずの他人とは思えなかったのだ。
雅代は自分の家に魅華を預かり、店に連れて行きもした。やがて魅華は自分から店を手伝いたいと申し出た。
暖かい。もうひとりの――お母さんだ。
店を手伝い出して、一年が過ぎようとしていた頃だった。
常連さんに連れられて店に来たのが後に再婚の相手となった宝石商の徳寿だった。
「魅華ちゃん、ごめん、ごめん、ちょっとバタバタで久し振りなのにゆっくり話せないね。タタキどう? いけるでしょ」
「うん。凄く美味しいよ。薬味も最高! 流石お母さん」
奥で雅代は笑顔で頷いた。
カウンターの端に座り、こうやってお湯割りを飲みながら落ち着いた賑わいに身を置き、雅代を眺めていると暖かくなってくる。
占い師として、様々な人たちの人生をよく訊く。
魅華は鑑定のとき、まず先に聴くことにその時間の大半を費やす。
自分がそうであった様に、人は誰しも聴いて貰いたいのだ。
全てを自分の中に留めて置くことなんて出来はしないのだ。
誰かに何かを相談し話すときには、大なり小なり自分の中では何かが決まっている筈だと魅華は思う。
ただそこに存在する不安を払拭したいのだ。『大丈夫だよ。心配しないで。よく頑張ったね。安心して大丈夫だよ』と云って貰いたいのだ。
そうだからと云って、無責任に誰に対しても云へはしない。だから、聴くことから始めるのだ。
一切の邪念を無にし、心を静め、全身全霊を以て聴き入るとき、魅華には視えてくるのだ。
『なんか見透かされている様で――、だから嫌になるんだよ』
魅華を通り過ぎて行った男たちは同じ台詞を浴びせた。
四六時中視えてなんかいやしない。
作品名:かいなに擁かれて 第四章 作家名:ヒロ