からっ風と、繭の郷の子守唄 136話~最終話
からっ風と、繭の郷の子守唄(最終回)
斜面を下っていく康平と美和子の目の前に、一ノ瀬の大木が大きく
枝を広げる。
風花を含んだ灰色の雲は、すでに過ぎ去った。
目の前にふたたび、関東平野の最北端が広がってきた。
一ノ瀬の大木は、苗を育てるために多くの枝が切り落とされている。
そのせいなのかふた回り以上も小さく見える。
それでも精一杯に枝を張り、相変わらずの姿で2人を見下ろしている。
3000本の桑苗は、親を見上げる形で畑で育っている。
凍みるような北風の中、必死に根を張っている。
凍えた大地は、午後のこの時間になっても未だに溶けない。
ところどころ、白い霜柱が残っている。
氷点下が続く連日の冷え込み。霜はやがて、畑の表に氷の層を作りだす。
「女たちによる2泊3日の温泉旅行は、結局、それぞれの男たちのもとへ
戻るということで、結論を出しました。
貞ちゃんは設備会社の社長を、最後まで面倒見ると決めました。
彼が亡くなるのを見届けてから、台湾へ戻るそうです。
千尋も彼女を追い群馬へやってきた英太郎さんと、もう一度、
話し合うそうです。
じゃ、離婚が成立してしまった私はどうするの、と不平を言ったら、
2人で愉快そうに笑いました。
『独り身だもの。すきにすればいいじゃないの』と笑われてしまいました」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 136話~最終話 作家名:落合順平